三菱重工業、IHI、川崎重工業の重工大手3社は工事トラブルが相次ぎ、多額の損失を計上するなど強みとされてきた技術力が揺らいでいる。工事トラブルの原因は、工期の見通しの甘さや、取引実績のない海外顧客との調整不足、単純ミスなどさまざまだ。各社はリスク管理を高めると同時に、これまでのものづくりの手法を見直そうとしている。
「ものづくりの低下が否めない。今は緊急事態だ」と、自社の技術力に危機感を募らせるのは、IHIの斎藤保会長兼最高経営責任者(CEO)だ。同社は愛知工場(愛知県知多市)で建造実績のない掘削船を受注したが、発注元が何度も設計変更を要求。作業工程が混乱し、海洋設備の建造にも遅れが生じた。インドネシアのボイラー工場では、溶接材を取り違える信じられないミスで石炭火力発電所の工事をやり直した。
これらの工事トラブルで2016年3月期連結決算で最終損益が300億円の赤字に転落する見通しだ。IHIは3度も業績を下方修正しており、マーケットからの信頼はがた落ちだ。この緊急事態を受け、4月から斎藤氏が会長兼最高経営責任者(CEO)に就任し、満岡次郎氏が社長兼最高執行責任者(COO)に昇格し、二人三脚で現場を立て直す。
4月から「ものづくりシステム戦略本部」を新設し、営業から契約、設計、調達、製造に至るまでの工程を改善する。海外顧客の設計変更に柔軟に対応するため、工事の業務プロセスを計画的に作り、作業の監視体制を強化する。満岡社長は「ものづくりのあり方を見直し、失われた信頼を早く回復したい」と立て直しに不退転で臨む。
一方、三菱重工も客船事業や小型ジェット旅客機の開発でトラブルが相次いでいる。客船事業では、11年に米カーニバル傘下のアイーダ・クルーズから大型客船2隻の建造を受注したが、度重なる設計変更で、累計1866億円の特別損失を計上。1番船は3月14日に1年遅れで引き渡したが、2番船の納期は見通しがたっていない。鯨井洋一副社長は巨額損失を計上した理由について「顧客と仕様をきちんと決めずに、あいまいなまま建造をスタートさせたのがまずかった」と反省する。欧州では1、2年かけて仕様を決めるが、三菱重工は顧客と仕様を固めなかったため、何度も設計が変更される事態に陥った。
今回の反省を踏まえ、4月に宮永俊一社長直轄の「事業リスク総括部」と「エンジニアリング本部」を新設した。これまで各事業部で工事案件の審査や工期を決めていたが、本体が横串しでリスク管理を行う。川崎重工業も、ブラジルの船舶事業で巨額損失を発生させており、6月から金花芳則副社長が社長に昇格する。リスク管理体制も強化する方針だ。
各社の工事トラブルで共通するのは顧客が海外企業で、これまで建造実績がない案件が目立っている。3社とも航空機部品や電力設備の製造などは、海外企業との取引実績も豊富で国内工場で顧客の要求通りに作っている。だが、大型客船や海洋構造物の建造経験は乏しい。三菱重工の関係者は「造船事業は中国や韓国勢が力を付けており、コスト競争力で負ける。難しい工事を受注し、知見を得なければ、生き残れない」と話す。このため、高付加価値の新たな工事に挑戦し、海外企業との取引が増えているという。
ただ、海外企業との仕事は商習慣が異なり、受注した工事の設計や仕様を詰める調整力が求められる。さらに設計変更があった場合でも、柔軟に対応できる手法が必要となっている。重工大手各社は難しい工事で巨額損失を計上し、高い“授業料”を払ったが、失敗で得た経験やノウハウを、ものづくりの現場にどう生かしていくのかが問われる。(黄金崎元)
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