バス事故の対策 「社会のゆがみ」に目を
15人が死亡した長野県軽井沢町のスキーツアーバス転落事故で、バス会社の運行管理のずさんさが明らかになってきた。
また、国土交通省が行った緊急監査で多くの事業者に法令違反が見つかり、バス業界全体の安全体制の問題点が浮き彫りになっている。
国交省の有識者委員会が再発防止策の検討を始めた。乗客の安全を守ることを最優先に、バス事業者への規制、法令を守らせるための適切な監査について議論を進め、早急に対応策を打ち出してもらいたい。
大型バスの運転に不慣れな運転手がカーブで十分に減速できず、事故につながった可能性が指摘される。
一方、バス会社が法令で定められた運転前点検を十分に実施していなかったり、運転手の健康診断を怠ったりしていたことが判明した。
車両の管理にも法令上の不備があった。残業で運転手に過重な負担がかかっていた可能性も出ている。
まさに違反のオンパレードだ。注目すべきなのは、7人が死亡した関越道のツアーバス事故をきっかけに引き上げられた基準運賃を大幅に下回る価格でツアーを受注していたことだ。安全にかかるコストがおろそかにされていたのではないか。
貸し切りバス業界は2000年の規制緩和によって免許制から許可制になった。15年末時点で緩和前の倍近い4500社以上あり、過当競争を強いられている。価格競争ばかりに目が向けられ、違反が常態化していたとすれば問題の根は深い。
規制緩和の下では、事業者の法令順守を促すための事後チェックが欠かせない。だが、バス事業では国交省の監査の手が足りず、年間1割の業者しか立ち入り検査できていないという。その結果、違反が野放しになっている恐れが強い。監査の一部を民間に委ねることを含め、チェック体制を再構築する必要がある。
また、安全基準違反への行政処分が軽ければ、違反を繰り返す業者が出てくる。処分基準の見直しや違反業者名の速やかな公表など、より厳しい対応で業者に臨むべきだ。
バス需要が伸びる中で、運転手不足や高齢化が指摘される。適切な運転技能研修を十分に受けられる仕組み作りも検討してほしい。
犠牲者の大学生、阿部真理絵さんの父親は通夜で「今の日本が抱える労働力の不足や過度の利益追求、安全の軽視など、社会のゆがみによって(事故が)発生したように思えてなりません」と語った。今回の事故の本質をつく指摘といえよう。
安全にはコストがかかる。命がかかる公共交通だからこそ大切にしなければならない原理だ。業者をより分ける利用者の選択眼も問われる。