世界中のテレビ視聴者は数十年にわたり、輸入ものの米国製番組を存分に楽しんできた。世界各地の放送局は、米国のネットワーク局が番組制作を正式に委託するか、番組を放送するまで、放送権取得の発注を待つのが常だった。
だが、米ソニー・ピクチャーズテレビジョン(SPT)が英国のチャンネル4とITV、カナダのショー・コミュニケーションズなどの外国企業と契約してから、この「米国第一モデル」に変わる兆しが見える。高校教師が悪の道に入ってしまう「ブレイキング・バッド」や、タイムスリップした過去で奮闘する女性を描く「アウトランダー」といった番組の制作会社であるSPTは、米国のネットワーク局に売る前に、これらの国際企業向けに新シリーズを数本制作した。
20世紀初頭に活躍した奇術師のフーディニと作家アーサー・コナン・ドイルが謎解きに挑むテレビシリーズ「フーディニ&ドイル」の俳優陣と製作トップら。右から2人目がエグゼクティブプロデューサーのデビッド・ショア氏(1月15日、米カリフォルニア州パサデナ)=Invision・AP
SPTの米国番組編成・制作担当プレジデント、ジェイミー・エルリクト氏によると、この動きは目立たないが既成モデルからの重大な脱却であり、以前ほど米国中心でない番組編成につながっている。「我々は近視眼的になりたくなかった。国内市場だけでなく、国際市場にもアピールしたかった」と同氏は言う。
SPTの新たな枠組みの下で制作された、ハンガリー出身の大奇術師ハリー・フーディニと作家アーサー・コナン・ドイルが謎解きに挑むシリーズ「フーディニ&ドイル」は、SPTが米国のネットワーク局フォックスに販売する前に、ITVとショーが先行購入した。
フーディニ&ドイルのプロデューサーは、ヒュー・ローリー氏主演の長寿シリーズ「ハウス」を生んだブレーン、デビッド・ショア氏。英国と米国のスター俳優が出演しており、SPTと英ビッグ・トーク、カナダのシャフツバリーによって制作されている。番組は今週、フォックスでの放送より1カ月以上早く英国で放送される。
■制作・販売の早い段階で放送局が関与
以前より早い段階で世界のネットワーク局を制作・販売プロセスに巻き込むことは、制作される番組の形式に影響を及ぼしているとエルリクト氏は言う。「フレンズ」のスター、デビッド・シュウィマー氏が主役を演じるコメディー「モーニング・ハズ・ブロークン」は、チャンネル4によって制作を委託されたが、制作はSPTと英ブラウン・アイド・ボーイが担っている。
「過去5~6年で、英国の放送局とプロデューサー、米国の制作会社とネットワーク局が次第に一体化する流れがあった」。チャンネル4のチーフクリエーティブオフィサー、ジェイ・ハント氏はこう話す。「我々がただ単に米国のコンテンツを買うのではなく、開発のずっと早い段階で有意義な対話を交わしている」
SPTの関与がシュウィマー氏を確保する助けになったとハント氏は言う。「理想を共有するパートナーがいると、より資金が潤沢なドラマやコメディーを制作でき、大物タレントがついてくる。その方が英国の視聴者にとって好ましい」