小野大輔
2016年4月5日01時16分
雨の中、男はどこに――。福岡県志免町の居酒屋で3月、男性が顔を撃たれ重傷を負った。現場から拳銃を持ったまま立ち去ったとみられる男が隣町で逮捕されたのは、発生から約1時間半後。短時間で足取りをつかんだ裏には、ある捜査班の読みがあった。
「客が撃たれた」
3月13日午後7時59分、110番通報が入った。居酒屋で男と口論になった男性客(67)が撃たれた、との内容だ。
庁舎内の無線で通報を聞いていた福岡県警特別遊撃隊の警部補(35)と巡査部長(36)、巡査長(31)の男性3人はすぐに覆面パトカーに乗り込んだ。特別遊撃隊は夜間のパトロールで不審者に目を光らせ、犯罪を未然に防ぐ専門部隊だ。
現場周辺ではすでに車両数十台が男の行方を追っていた。3人の車内にも無線情報が次々と舞い込む。「容疑者は高齢で、俳優似」「ねずみ色の上着、徒歩で逃走」。後部座席の巡査部長がスマートフォンでその俳優の画像を検索。3人で見てイメージを膨らませた。
注目したのは、降り注ぐ雨。「徒歩ならタクシーに乗る可能性が高い」。土地柄、店は地元客が大半だ。周辺の住宅街や団地から来たのではないか、と運転役の巡査長はあえて現場から少し離れた住宅街を走らせた。「相手は拳銃を持っている。絶対に撃たせないように、手に注意しよう」。警部補の言葉に2人はうなずいた。
覆面パトは隣接する同県須恵町へ。ハザードランプをつけたタクシーが止まっていた。横につけると支払いの最中で、車内灯がついていた。後部座席に、俳優似の顔がはっきりと見えた。タクシーを降りたところを警部補と巡査部長が囲む。「こんばんは。事件があって人を捜しています。話を聞かせてください」「雨でぬれますんで」と、屋根のある建物の壁際へ誘導した。逃走防止の目的もあった。
男は酒気を帯び、ふらついていた。「ああん? 知らん!」。暴れようとする両手を取り押さえる。応援要請で集まった警察官が手荷物を調べ、バッグの中からそれを見つけた。
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朝日新聞社会部
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