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I track you by the fear

作者:SPARTA
バックグラウンドから空想なので原作に忠実な物がお好みの方を不快にしてしまうかもしれません。


「…俺は、お前の恐怖だ」

その手に持つ、シンプルだが荘厳で無機質な斧が、月光に当てられ美しくも不気味な光を帯びていた。
そして、ゆっくりと振り上げられて刹那の如く振り下ろされる。



ーーーーーーーーーー


彼は幼少期より【怪物だ】と、指を指され罵られる日常を送っていた。
彼の名誉の為に言及しておくが、彼は決して粗暴な性格などではなく、柔和で温厚であり自然と触れ合うことが好きな、争い事が嫌いな性格であった。
飼っていたペットが死ぬと、とても悲しんだりもした。
彼が怪物と罵られるには理由があった。
背丈が幼少期より周りと比べてひと回りもふた回りも大きく、成人を迎えた時には2mを軽く超える体躯であった。
さらに種族柄毛深かったせいで、獣人と普通の人の共生する村ではまさに【怪物】のような外見であったのだ。


彼には唯一味方である存在がいた。
母親である。
母は彼を「坊や」と呼んでおり、彼はそう呼ばれることをたいそう喜んだ。
「坊や。貴方はいつかこの村を守る戦士になるのよ。そして私たちを守ってちょうだい。坊やをいじめる者たちも全て守ってちょうだい。きっとみんな坊やを見直すわ」
母は、いつも彼にそう言い聞かせていた。

彼が住む村は人類のフロントラインであり、未開の地『ビーストウッズ』の開拓村であった。
常に狂暴なミニオンによる脅威に晒されていたが、屈強な獣人戦士達に守られており平穏を保っていた。
だが犠牲がいないわけではなく、彼の父はこの村を守ってミニオンに殺されていた。
そして、碌な埋葬もされることもなく父の亡骸はミニオンの餌になったのだ。
開拓村では命は自己責任。
1人の命は軽いのだ。

そんな平穏は唐突に終わりが来るものである。
彼が散歩に出ている間に開拓村は突如としてミニオンの群れに襲われたのだ。
低級のミニオンはいざ知らず、基本的にミニオンは群れるものではないと言われている。
たが、人語を解すほどの知能が高いミニオンに率いられた場合群れを成すと言われている。
その群れが村を襲ったのだ。
それは蹂躙であった。
数の暴力…それはいつの時代であれ質を凌駕する。
屈強な獣人戦士達は数に押され次々と倒れその命を散らせた。
村人達は一切の抵抗の術もなくただただ殺されていった。
彼が戻った時には既に時遅し。
死屍累々の惨状であった。
彼は周りの魔物を吹き飛ばすとすぐさま自分の家へと走った。
理由は当然母の安否を確認しに行くためだ。
扉を開け放ち家へ入ると一匹のミニオンの腕が母の胸を貫いているところであった。
彼は惨状に絶句したがすぐさま玄関に立てかけてあった父の形見である鎖付きの斧を持ち力任せにミニオンに向かって振り下ろした。
ミニオンは母を放り投げその斧を悠々と躱した。
「ほう…」
そのミニオンは人語を話した。
このミニオンこそこの群れを率いた上位ミニオンであったのだ。
「まさに怪物のようだなお前は。だが私はわかるぞ。お前は私に恐怖している」
事実、彼はこの上位ミニオンに対して恐怖していた。
村を襲った元凶。それが目の前にいるのだ。
彼の性格上斧を振り下ろしただけでも普段の彼からすれば御の字なのだ。
上位ミニオンはそんな彼を観察し突如として笑い始めた。
「ふはははは!面白い!お前は今後私に恐怖して生きていくのだ!その一生を私に臆して隠れるように生きていくのだ!」
そう言うやいなや、家の壁を軽く壊して群れに何らかの方法で命令を下し、ビーストウッズの奥へと引き返していった。

彼は胸を貫かれた母に縋るように近づいた。
母はもう長くはないだろうがまだ生きていた。
母は彼に言った。
「坊や…私は本当に貴方を愛していましたよ…自慢の息子です。あんな上位のミニオンに臆することなく斧を振る勇姿…見せてもらいました。坊やのお父さんに話す土産話ができましたよ…これで…安心して逝けます」
一息の内にそう言うと、静かに息を引き取った。
その口元は狂暴なミニオンに殺されたというのに微笑んでいた。
彼は吼えた。
自分の無力さを、不甲斐なさを嘆いた。
図体だけがでかく力があろうと無力であった。
その慟哭はこの広いビーストウッズの奥まで轟いた。


その後彼は母を埋葬し、優しい彼は自分を罵った村人達や、獣人戦士達を埋葬していった。
彼は母の墓に合掌すると父の形見である鎖付きの斧を肩に担ぎ、村を後にした。
その表情は修羅のようであった。



彼は来る日も来る日もミニオンを狩り続けた。
そこには平和な日々の優しい彼の姿はない。
冥府の鬼すら裸足で逃げ出すような羅刹がそこにはいた。
後にビーストウッズにはミニオンを狩る獰猛な獣人の怪物がいるという噂が各地に流れた。



ビーストウッズの頂点の変わる日が来た。
彼はビーストウッズの奥地へ疾走した。
上位ミニオンを守護するミニオンすら斧の推進力で弾き飛ばしてビーストウッズの玉座の間へと辿り着いた。
あらゆるモノの骨で作られた正しく無骨な玉座であったが、彼はそれこそビーストウッズの頂点であるという証明でもあるような気がした。
月明りの下で玉座に座る上位ミニオンは笑った。
「ふっ。ついに来たか。今か今かと待ちわびたぞ。私は、私に復讐しようとしたものを跪かせ恐怖に引きつる顔を見ることが何よりの幸せなのだよ」
彼は何も言わない。その顔には僅かな微笑みすらあった。
彼は自らの復讐が果たせることによる高揚感にのまれていた。
逆に上位ミニオンは自らが敗北するなど微塵も思っていないような態度であった。
彼が斧を振り回し上位ミニオンに肉薄する。
上位ミニオンは反応できず吹き飛ばされてしまう。
その衝撃で体は動かないが表情は驚きで引きつっていた。
まさか自分が反応できないとは思わなかったのだろう。
彼は斧を上位ミニオンに向けて叩きつける。
上位ミニオンは斧による攻撃で既にボロボロであった。
その顔は驚きから恐怖に変わっていた。
彼はここに来て初めて口を開く。
「かつてのような無力な獣人はもういない。俺はもう非力な獣人ではない。俺は、お前の恐怖だ」
その手に持つ、シンプルだが荘厳で無機質な斧が、月光に当てられ美しくも不気味な光を帯びていた。
そして、ゆっくりと振り上げられて刹那の如く振り下ろされる。
彼の鎖付きの斧は月光の下で鮮血を歌った。

彼の名はグレイヴ。
ビーストウッズの頂点に君臨する常勝不敗の羅刹である。



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