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マイナス金利 苦しまぎれの冒険だ

 日銀が「マイナス金利」という新たな緩和策を打ち出した。普通はお金を借りる方が貸す方に金利を払うが、マイナス金利は逆だ。借りる方が借りるだけ得をし、貸す方が損をする。金融の常識が根底から覆る領域に日銀は足を踏み入れた。

     民間の金融機関が日銀に預ける資金の金利を一部マイナスにする今回の政策について、黒田東彦総裁は最近まで「考えていない」と否定を続けていた。それをなぜ今回、導入となったのか。

     ひとことで言えば、従来の異次元緩和策が期待した効果を上げずに行き詰まったから、である。

     日銀は窮地に陥っていた。2013年4月に「2年で2%達成」と宣言したインフレ目標は、3年になろうというのに射程に入ってこない。14年10月に大規模緩和の第2弾を実施したにもかかわらず、である。

     一方、黒田総裁は「必要になればちゅうちょなく追加の緩和を実施する」と断言し続けてきた。今の経済や金融市場を眺めると、14年10月の追加緩和時より懸念材料は多い。ここで何もしないと説明がつかず、株価が一段と下がる心配もあった。

     とはいえ、これまでの大規模緩和はほぼ限界状態にある。第3弾を今実施すれば、「日銀は手持ちの弾薬を使い切った」と受け止められ、市場の不安をあおる恐れがあった。

     日銀は、今回の政策により、民間の金利が押しなべて下がる効果があると説明する。しかし金利はすでに超低水準にあり、わずかな追加的低下が、設備投資や消費を刺激して物価を押し上げるとは思えない。

     最近、円高に振れていた為替を円安方向に引き戻し、株価を押し上げる可能性はある。だが、本質的な日本経済の成長力増強にはつながらないだろう。

     最も懸念するのは、円の価値を守るべき日銀への信用が大きく揺らぐことである。過去に例のない規模の量的緩和策を続けてきたにもかかわらず、物価目標の達成時期はたびたび先送りされ、今では17年度前半だ。それでも日銀は「経済は緩やかに拡大していく」と強気の見通しを崩さず、一方で劇薬の量や種類を増やす。2%の物価目標が実現するまで追加緩和を繰り返すというのだろうか。冒険の先に、円の価値の暴落が待ってはいないか。

     利上げを始めたばかりの米国の中央銀行は、世界の金融市場の動揺や新興国経済の減速を前に苦しんでいる。行き過ぎた政策は多くのゆがみを生み、正常化がいかに困難であるかを示すものだ。米国よりはるかに大胆な緩和策を続ける黒田日銀はこの先どこまで突き進むのか。不安は募る一方である。

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