出版市場の縮小 本の多様性を守りたい
身近にある本の魅力をもっと多くの人たちに伝えたい。
昨年の出版物の推定販売金額が、前年比5・3%減の1兆5220億円と、統計の残る1950年以降で最大の下げ幅を記録した。出版科学研究所(東京)によると、内訳は、雑誌が8・4%減の7801億円、書籍が1・7%減の7419億円。雑誌市場の衰退が一段と進んだ。
雑誌の売り上げは70年代後半から書籍を上回ってきた。だが、長引く不況で書籍とさほど差はなくなり、「雑誌の優位は終わりつつある」という見方が広がっている。
一方、書籍の販売額は昨年7月に芥川賞を受賞したお笑いタレント、又吉直樹さんの「火花」が約245万部を記録するなど文芸書の好調が目立ち、小幅の減少にとどまった。社会現象を起こした経済学者、ピケティ氏の「21世紀の資本」も約14万部を数え、政治・経済・社会の分野としては異例のヒットになった。
スマートフォンなど電子端末の普及によって、情報を簡便にインターネットで確認する傾向が強まっている。それでも物事を掘り下げたり、人生の糧となる知識を得たりするには、本が欠かせない。
出版物の販売額は96年の2兆6564億円をピークに下がり始めた。2004年に一度上昇したものの、05年以降11年連続で減少している。
市場の縮小が続けば出版社の経営基盤は損なわれ、本の多様性も失われる懸念がある。その意味でも気がかりなのは、ロングセラーの良書を生んできた文庫の低迷である。
新刊のヒット作不足に加え、既刊も苦戦している。前年比で8%余り減少したという調査結果がある。
文庫や雑誌などの不振は街の書店の廃業に拍車をかけている。
出版市場のてこ入れとして紹介したいのは、ライバルの版元が共同で企画したブックフェアである。
教養文庫を持つ筑摩書房、中央公論新社、KADOKAWA、河出書房新社、講談社が14年11月から、初のフェアを開いた。昨年末からは、平凡社を加えた6社が第2弾を全国約450の書店で展開している。
編集長、読者、書店員が各社10冊のお薦めの本を選んで編集長が内容を紹介し、他社の編集長がその本への思いを添えて、無料の小冊子を作った。
角川ソフィア文庫の大林哲也編集長は「一社で本の魅力を伝えるのは限界があると感じていた。売れ行きはいいし、互いの悩みや情報を聞いて刺激を受けた」と手応えを語る。
消費税率が10%に引き上げられる来年4月に書籍類も軽減税率の対象にしなければ、出版界はさらに先細るかもしれない。本にふれる機会を増やし、活字の世界を守りたい。