国会代表質問 「分配重視」説明足りぬ
毎日新聞
安倍晋三首相の施政方針演説に対する各党の代表質問が始まった。演説で経済政策をめぐり首相が「分配」を重視する考えを示したことや、憲法改正問題がテーマとなった。参院選に向けて大きなポイントになるだけに、議論を深めてほしい。
首相の施政方針演説は「成長と分配の好循環」の実現を説くなど、アベノミクスによる経済成長を重視していたこれまでの路線との違いを印象づけたものだった。
民主党の岡田克也代表は首相の経済政策について「あくまで経済最優先なのか、それとも『成長と公正な分配の両立』なのか」とただした。首相はさきの演説と同様、経済成長によるパイを原資として分配する好循環を生み出すと改めて強調した。
補正予算では低所得高齢者らへの3万円の支給など、これまでのアベノミクスの方向とは異なる手法が用いられ、参院選対策との見方が出ている。政府による富の再配分に軸足を置いていくのであればアベノミクスが思惑通りに進んでいない現状を認め、路線の修正を国民にきちんと説明するのが筋だろう。
「分配」の財源も課題となる。岡田氏が格差是正に向け金融所得課税の強化など税制改革を提案したのに対し、首相は「経済社会の構造変化を踏まえ、よく考えていく」と語るにとどめた。
首相が演説で正規、非正規労働者の「同一労働同一賃金」を目標とした点も取り上げられた。
演説に格差の存在を前提とする「均衡待遇」との表現もある点を岡田氏は指摘し、首相の本気度に疑問を投げかけた。首相の答弁は「均衡待遇にとどまらず、均等待遇も含めて検討する」とあいまいだった。より具体的な説明が必要だろう。
今回、岡田氏は批判一辺倒ではなく、提言型の質問を行った。首相が演説で野党に対案の提示を呼びかけたことに対応したものといえる。
にもかかわらず、首相が質問にまともに答えなくては議論は深まりがたい。
憲法改正について緊急事態条項の改正も含め何に具体的必要性を感じているのかとの質問に、首相は国民的議論への期待などを改めて繰り返した。
岡田氏にも注文がある。安全保障関連法、米軍普天間飛行場移設問題、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)など党内にさまざまな意見を抱える分野は及び腰な印象だ。これでは迫力を欠く。
甘利明経済再生担当相の「政治とカネ」の疑惑をめぐり野党側は衆院予算委員会での質疑などを通じ徹底追及する構えで、国会は荒れ模様だ。疑惑解明は当然だが、政策論争が後回しになってはならない。