両陛下の比訪問 忘れない決意を新たに
毎日新聞
天皇、皇后両陛下がフィリピンを訪問された。国賓として招待された友好親善が目的の訪問だが、陛下の希望で同国と日本双方の戦没者の碑を訪ね、慰霊する。
両陛下は国内外の戦災地に「慰霊の旅」を重ねてこられた。
先の大戦の南方の激戦地として、戦後60年の2005年にはサイパンに、戦後70年の昨年にはパラオに慰霊の訪問をされた。
今回のフィリピンは、戦略要地として日米両軍が激しく交戦、過酷な戦野と化した。日本人が51万8000人、フィリピン人は100万人以上が犠牲になったといわれる。
陛下は、26日の出発に際し「中でもマニラの市街戦においては、膨大な数に及ぶ無辜(むこ)のフィリピン市民が犠牲になりました。私どもはこのことを常に心に置き、この度の訪問を果たしていきたいと思っています」と述べられた。真摯(しんし)なお気持ちが伝わってくる。
1カ月にわたるマニラ市街戦は人命とともに文化遺産も破壊し、多くの人材を奪い、フィリピンの戦後復興にも影を落としたといわれる。一般市民を際限なく巻き込んでいく近代戦の一面を表している。
陛下は皇太子の時代から、広島、長崎の原爆の日、終戦記念日、沖縄戦終結の日を「どうしても記憶しておかなければならないこと」と挙げるなど、戦争の爪痕と向き合ってこられた。陛下がしばしば懸念されるのは「忘れられる」ことだ。それは将来のこの国のあり方に深くかかわる。発言にその思いは表れる。
戦後70年である昨年の年頭には「この機会に、満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なことだと思っています」とされた。
8月の全国戦没者追悼式のおことばでは「さきの大戦に対する深い反省と共に」と初めての表現が入った。誕生日の記者会見では「先の戦争のことを考えて過ごした1年だったように思います」とし「先の戦争のことを十分に知り、考えを深めていくことが日本の将来に極めて大切なことと思います」と述べられた。
日本が高度成長期に入っていた1962年、両陛下は皇太子ご夫妻としてフィリピンに親善訪問された。
当時なお戦争の傷痕は深く、日本に対する反発もあったが、民衆と親しく接する若々しいお二人の姿に親日ムードが高まったといわれる。
両陛下には思い出の地の再訪となる。両陛下の過去の戦争に真摯に向き合い、慰霊する姿はフィリピンの人々にも共感するものがあろう。
忘れない。それは過去に学び、将来のあり方を探ることである。