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アノ吉祥寺「肉山」店主にインタビュー! 「肉で食う」経営哲学とは【肉山】

吉祥寺 わだい Pickup

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東京・吉祥寺の『わ』、そして「たるたるホルモン」といえば、東京のホルモン好きの間では名の通った存在だ。さらに、メニューはコースのみながら、その脅威のコストパフォーマンスの良さから開店するやいなやあっという間に“予約が取れない店”となった「肉山」もしかり。

数々の話題店を手掛けるのは、株式会社個人商店・代表取締役社長の光山英明さん。さぞかし飲食業界、もしくは食肉業界でキャリアを積んで開店したのでは? と思いきや、光山さんはなんと「脱サラ、しかも飲食店未経験」という経歴の持ち主!

業界の常識やセオリーを覆す、光山さんの経営哲学やいかに? 肉ラーはもちろん、飲食ビジネスに興味ある人、必読ですよ。

 

独立開業の理由は「自分の考えを試したかった」

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中・高は地元の大阪で本格的に野球に打ち込み、大学時代も野球部に所属していた光山さん。当時は吉祥寺周辺で寮生活を送っていたのだとか。大学時代を過ごした平成元年(1989年)からの4年間は光山さんいわく「まあまあ良かった時代」。バブルの名残もあり「感覚的には今の3~4倍くらいの人が吉祥寺にいて、街の活気もありすぎるほど あった」と語る。

 

ただ、東京という土地への憧れはあったんです。僕は大阪出身で、大学時代を東京で過ごしていて、そのことも関係しているかもしれませんね。

その後、就職で一度大阪に戻ったんですけど「いつか東京に戻ってこよう」とはずっと思ってました。

 

しかし大学卒業後は、大阪で酒類販売の卸売会社に就職。トラックで飲食店を回り、酒類を販売する毎日を過ごしていたそうだが、いつしか光山さんの心に疑問が湧く。

 

飲食店は普通、酒店さんからお酒を仕入れますよね。僕も、飲食店の立場として今はそうしてます。でも大阪で酒店の仕事をずっと続けていたとき、お店の人に値切られることがあったんです。「これ、他の店で買ったら◯◯円なんやけど」と。

 

そのとき思ったのは「仕入れ値の100円、200円がそんなに大切なのか」ということ。配達もして、ゴミも下げている。それでも100円安い他の小売店に取られるのであれば、自分のやっていることは何なのだろう、と。

 

そりゃ「塵も積もれば……」かもしれません。でも僕は、だったら自分自身が逆の立場に回って、つまり飲食店を経営して、全部希望小売価格でお酒を仕入れる。それでやれるかどうか試してやろうと思ったんです。

 

独立開業した光山さんが最初にオープンさせ、2016年で開店から14年目を数えるも、いまだ人気が衰えないホルモン店『わ』。開店の理由は、そんなごく個人的な思いから生まれたのだった。

f:id:Meshi2_IB:20160217043814j:plainずっと飲食店自体に興味はあったけど「熱い思いを持って絶対やりたい! とかではなく、適当な感じ(笑)」だったという

上京わずか半年で自分の店をオープン

にしても、独立開業するにあたって周りからの反対はなかったのだろうか。

 

特になかったですねえ。まあ飲食店で働いたこともないのに何を言うねん、とは言われましたけどね。でもいまだにそれでなんとかやれてますから(笑)。

 

そう言って笑う光山さんだが、一念発起してからの行動力とバイタリティはそうそうマネできないものだ。会社を辞めたのが2002年の6月あたりで、上京したのが7月15日。同年11月15日には『わ』を開店……。

なんと退職から開店までわずか半年弱。何度も言うが、飲食店経験ゼロのズブの素人である。「経験してないから、世間一般の“普通”がわからない」という光山さん、どこまで型破りなんですか!

 

いや、勝算がまったくなかったわけじゃない。実は当時、東京のホルモン焼きは豚モツが中心で、関西のような牛ホルモン焼きの店はなかったんですよ。だから牛ホルモンを中心にして、手頃な価格でお酒も出したらいけるんじゃないかな、という読みはありました。

 

折しも、当時の東京は焼酎ブームのまっただ中! 高級焼酎の値段が渋谷など都心の“焼酎専門店”で跳ね上がる中、手頃な価格で美味しいホルモンと焼酎が楽しめる『わ』は、あっという間に人気店の地位へと登り詰める。

実は開店に至った光山さんの思いは、その店舗名に込められていた。誰も凹まない、誰も尖らない『わ』=輪。そしてその輪の中には、店、自分、スタッフ、さらには取引する酒店さんや肉業者さんも一緒に入ってほしい、と。

その哲学はいまだにぶれることなく、創業店の『わ』では、酒類に関しては業者側が提示する「希望小売価格」で仕入れているのだとか。これは、通常の飲食店ではまず考えられないスタイルである。

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酒店時代の経験ですけど、たとえば会社で「これを売りたい」という商品がありますよね。頑張って売りに行くと、売上は増えるし、会社では褒められる。でも売った店にまた行くと、その商品が残っていたりする。いわゆる「付き合い」で買ってくれるのは、本当に店のためになってるのか? と。

今度は僕自身がお酒を仕入れる側になったので、酒店さんに「商品は買うけれど、その先、つまり“飲んでいる人の姿”を見てほしい」と言うんです。きちんと商品を売り切るところまで見届けてほしい、それではじめて商売が商売として成り立つんだ、ということ。信頼する酒店さんへの支払いが増えることに、僕らとしてはむしろ喜んでいるくらいですから。

 

切り盛りする店の経営が厳しくなったのは、開店当初にほんの一時「計算ミスか何かで」資金が足りなくなっただけ。以降、順調に経営を続けてきたというから、飲食経営の経験者にはまさしく驚愕の一言だろう。しかし、その裏に秘められた「想い」を知ると、成功の理由がおのずと見えてくるような気がしてならないのだ。

 

「3年後」がいちばん信用できない

なぜ未経験者にもかかわらず、短期間で開店できたのか? それは「ホルモン・焼肉の店だったから」と光山さんは言う。

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 もちろん店をやりながらいろいろ勉強しましたけど、焼肉屋って、ある意味では「誰でもできる」んです。お肉に関しては僕は信頼できる業者の方から仕入れてますし、極端なことを言えば町のお肉屋さんで売っている肉を買えば、すぐに店は開けます。とにかく商売を始めることだけはできちゃう。まぁ極論ですけどもね。

 

成功者の光山さんがそう語ると謙遜にすら思えてくるが「誰でも参入できる業種だからこそ、そのままリスクも背負う」という経営哲学を持っている。そのことを実感できるエピソードが一つ。

『わ』を開店して数年経ったころ、店の常連だった広告代理店勤務の若者に「餃子が好きなので、脱サラして餃子店をやりたい。アドバイスをもらえないか」と相談を受けたそう。しかし光山さん、その言葉を一蹴した。

 

僕は「餃子屋と焼き鳥屋は脱サラしてやったらアカン」と思ってるんです。

 

えええーー! な、なんで?というメシ通読者の声が聞こえてきそうだ。

 

餃子でも焼き鳥でも、もしも店がブレイクして客数が2倍に膨れあがった場合、その分、仕込みの量も倍になる。一見簡単に見えるかもしれませんけど、美味しいものを作ろうと思うと両方とも仕込みが大変で、素人がやってもとても割に合わない。現場で鍛え抜かれた職人じゃないと太刀打ちできない領域なんですよね。

それでも飲食店をやりたいんだったら、餃子や焼き鳥はあきらめて、僕がやってるような店を自分がやりたい場所でやってみたら? と言ったんです。

 

アドバイスを真に受けた若者は、本当に脱サラを果たし開店を志す。そうしてオープンしたのが中目黒の人気ホルモン焼き店「小野田商店」だった。以降、光山さんの元には独立開業の相談がたびたび持ち込まれるようになったそう。

 

そんなに大勢来られてもお互い困るし、当初は「脱サラした人のみにアドバイスします」というルールを作ってました。みんなたいていは自分の仕事を持っているときに話を聞きに来るから。ある程度さわりは話すけど、次のステップは辞めてから、としてましたね。

 

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要は本気度がどれくらいあるのか?ってことだろう。確かに、未経験の業種に飛び込むのは誰もが不安なもの。保険のため、本業の仕事を持ったまま準備を、となるのもよくわかる。ただ、光山さんのスタンスはハッキリしている。そう、「辞める勇気がない人はダメ」。これに尽きる。

 

よく飲食店で飲んでると、「いずれはサラリーマン辞めて、自分の店を持ちたいんだよね」と夢を語ってるお客さんを目にするんですよ。でもね、そういう人に「いつごろやるんですか?」と聞くと、たいてい「3年後」って言いよるんですわ。2年とか5年じゃなくて、なぜか3年(笑)。仮に飲食店で働いてる子であっても、じゃあ今は何やってるの?と聞くと「スキルアップ中です」と。3年後までに今の仕事でどうスキルアップしてくの?と聞くと、意外と答えられない。具体的な展望を持ってないんです。

 

実際には独立するビジョンを持っていない人が多い、ということだろうか。

 

これは誤解してほしくないんですけど、僕、別に独立推進派でもないんですよ。今働いているところでナンバー2になって、しっかりサポートしていくのも立派だし、格好いいと思う。でも、飲んでる席で「いつかは〜」と大口叩いてるのはどうなの?と(苦笑)

 

実際、わずか半年で『わ』を開店させた光山さんだけに、説得力ありすぎるお言葉……。ちなみに「成功するのはどんなタイプの人ですか」という質問をしてみると、これまた意外な回答が。

 

成功しそうな人は……どんくさそうな人かなぁ。商売っていうのは長距離走なんです。期間限定出店だったら瞬発力でもいいかもしれないけど、そうじゃないでしょ? 持続力のほうが大事。コツコツ積み上げるタイプのほうがいい。

 

f:id:Meshi2_IB:20160217044246j:plain「肉山」のメニューはおまかせコース5,000円(ドリンク代別)か、飲み放題10,000円のみ。この中から特別に出してくださった「馬肉のロースト」のなんとまぁ甘くて味わい深いことよ

 

“延命治療”するようになったら店は終わり

インタビューさせていただいたのは、2012年11月にオープンし、光山さんが自ら客前に立つ「肉山」にて。この店の開店経緯にも、また光山さんらしいエピソードがある。

 

『わ』のオープンから9年くらい経ったころになると、現場はスタッフに任せて、自分はあまり店に入ってなかったんですよね。“付き合い”と称していろいろ飲み歩いてた(笑)。でもある日、フト思いたったんです。「まだそういう歳でもないな」って。いっそ自分を縛りつける店を作ろう、と。

 

f:id:Meshi2_IB:20160217044215j:plainお店オリジナルのマスタードやワインも大好評

 

こうして『わ』10週年の日に「肉山」を開店。美味しいものをリーズナブルに提供するため原価ギリギリ、だから自分が店に立たないと利益が出ない……。熱烈な肉山ファンは、この店へお肉を食べに行くことをしばしば「登山」と呼んだりしているが、光山さん自身は己の体にムチ打って人生の山を登り始めたのである。

当然、人気にならないわけはない。あっという間に口コミで評判が広まり、今や休日夜の予約は数カ月待ちが当たり前に。

f:id:Meshi2_IB:20160217044430j:plainオリジナルの「肉」バッジまで!

まさしく飛ぶ鳥を落とす勢いの光山さんだが、常に心がけていることがあるそう。それは「いつでも店を閉める、その覚悟でやる」ということ。

 

たまに“延命治療”してるだけのお店ってあるでしょ? 売上が下がって、あの手この手でなんとか店の寿命を長くしようと必死な店。僕は、そんなことをするんだったらすぐ店を閉めて、反省してからまたやったらいいと思う。幸い、僕の経営する店は今のところ大丈夫だけれど、常にそう思ってやってます

 

お話を聞いて実感したのは、光山さんの圧倒的なバイタリティと、潔さ。あぐらをかくことなく、常に立ち位置を意識ながら店を切り盛りしているのが話だけでも十分に伝わってきた。そして、その言葉のひとつひとつには、飲食店に限らずビジネス全般に通じる「大切なこと」が詰まってるような気も。

美味しいお肉を食べられるのはもちろん、光山さんのパワーにもあやかれる……。そんな気分になれるのも、屈指の人気を誇る秘密なのかもしれない。

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撮影:松木雄一

 

お店情報

ホルモン酒場 焼酎家『わ』

住所:東京都武蔵野市吉祥寺北町1-10-22
電話番号:0422-23-3320
営業時間:17:00~翌3:00
定休日:無休
ウェブページ:http://www.hotpepper.jp/strJ000235950/

 

肉山

住所:東京都武蔵野市吉祥寺北町1-1-20 藤野ビル2F
電話番号:0422-27-1635
営業時間:1巡目17:00~ 2巡目20:00〜 土日のみ12:00~(いずれも完全予約制)
定休日:無休
ウェブページ:http://www.hotpepper.jp/strJ001098351/

 

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書いた人:
川口有紀

演劇・芸能からサブカル・街モノまで雑多に活動中の編集ライター。生来の食いしん坊のため近年飲食関係の取材も多し。悩みは取材量と比例して増量し続ける体重。

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取材協力:
TERIYAKI

全世界のうまい店を熟知するテリヤキスト(キュレーター)が厳選した「最高に美味しい店」だけをご案内。他のグルメガイド、グルメネットサービスと大きく違う点は、サービス、コストパフォーマンス、批評など、料理以外の要素(雑音)を一切排除し、ひたすら「うまい店」だけを選び、ご案内するのが特徴です。我々グルメアプリ【TERIYAKI】は「検索できるグルメ雑誌」を目指しています。

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