「心は西郷、才覚は大久保」稲盛氏、英傑に学ぶ 京セラ名誉会長 稲盛和夫氏に聞く
京セラ名誉会長の稲盛和夫氏(84)。少年時代には大病にかかり、受験、就職と挫折の連続だったが、京セラを起業、通信再編を仕掛け、日本航空の再建も成し遂げた。なぜ企業家として大成したのか。稲盛氏に聞いた。
京セラ名誉会長の稲盛和夫氏(84)。少年時代には大病にかかり、受験、就職と挫折の連続だったが、京セラを起業、通信再編を仕掛け、日本航空の再建も成し遂げた。なぜ企業家として大成したのか。稲盛氏に聞いた。
鹿児島の出身ですが、西郷隆盛と大久保利通の郷里の英傑から多くを学んだと以前話していましたが。
「心は西郷、才覚は大久保ですわ。若い頃には才覚があり、頭がよくて戦略や戦術を組めることが大事だと思うでしょうけど、そうではない。まず心を整え、その上で才覚を発揮しないと、仕事なんて何もうまくいきません。私はまず経営哲学をしっかりつくり、そしてアメーバ経営などを実践してきた」
大学受験に失敗し、就職先も京都の経営難の中堅会社。それが起業すると、次々新規の事業に成功。日本航空まで再建した。人生がチェンジしたきっかけは何だったんですか。
「難しい質問やな……(1分程度の黙考)。では若い頃から信奉している(明治から昭和期の思想家の)中村天風さんの言葉で表現します。『新しき計画の成就にはただ不屈不撓(ふとう)の一心にあり、さらばひたむきにただ想え、気高く強く一筋に』。これは欲など捨てて、強い意志をもち、一心に努力すれば、新たな道が開けるという意味ですが、京セラを起こして苦悩していた時期に出合った言葉です。私が日本航空の再建のため着任したときも、みなさんに話したのは天風さんのこの言葉です」
かつての日本航空は労使関係が複雑で再建の難しい会社だと見られていましたが、実際はかなり苦労したのではありませんか。
「いや、そんなことはなかった。再建を頼まれて私が考えたのは、当時残った3万2千人の社員の方々を何とかしたいとそれだけでした。正直言って、株主や利害関係者のことよりも社員の幸せのことをまず考えました。80歳を前した男が無給で、京都から東京に行って。そんな姿を見て全従業員が共鳴してくれたことが、再建の最大の原動力です」
「リーダーは失敗に学ぶ」と言います。大きな失敗が次の成功の糧になったという経験はありますか。
「いや、実はないんです。不遜な言い方かもしれませんが。ありません」ちょっとした失敗もないんですか。
「若い頃、大手電機メーカーの研究所のみなさんに講演したとき、同じ質問をされたことがありました。失敗したことがないというと、そんなバカな、人間誰しも失敗はあるでしょ、とみんないう。私は失敗を失敗として終わらせたくなくて、食らいついて成功するまでやる、あきらめない、だから失敗の経験はありませんと。そういうわけです」
日本の名門企業では不祥事が相次いでいます。結局はリーダーシップに問題あるとの指摘もありますが。
「立派な会社で、社長、会長と登りつめてゆくと、どうしても謙虚さを忘れてしまう。それが最大の毒になります。私はいま改めて『謙虚にしておごらず、さらに努力』という言葉を自分に言い聞かせています」
「謙虚にしておごらず」は稲盛さんらしい言葉ですが、84歳になっても「さらに努力」ですか。
「いや、いや、もうしていません(笑)。(企業家のための経営塾の)盛和塾は人助けだと思ってやっていますが、今日みたいに会社に来たら、会長や社長の相談に少し乗る程度です。後は何もしていない」
日本の現在の若手社員は、保守的で安定志向、挑戦心も足りないとよく言われます。
「どの世代の人も悩んだり、思い煩うことが多いでしょうが、今与えられた仕事を全身全霊で取り組むことです。私は鹿児島大学を卒業して京都の焼き物の会社に入った。研究室に配属され、新しい焼き物、ファインセラミックスをお前が考えろと。しかし、この会社は給料を遅配するような『ボロ会社』だった。同僚は早く辞めたいと、私も毎日悩んでいた。結局辞める機会を失って、ここでやるしかないと決めたんです。寮にも帰らず、研究室で朝昼晩と自炊して開発に没頭していた。そしたら、自分でも驚くほど新素材、新製品の開発がうまくいった。宇宙のどこかに『知恵の蔵』というものがあって、神様が一生懸命努力している自分のために(知恵を)授けてくれているのではないか、そう感じたんです」
シャープなど電機大手が経営難に陥っています。会社の再建要請とか、今後も舞い込んでくるのではないでしょうか。
「いやいや、来ても受けません。やる気はありません(笑)。トップの方から経営のご相談を受けることはありますが、再建してくれというのではありません」
日本のリーダーなどビジネスパーソンは、中国など海外と比べて競争力が落ちているとの指摘もありますが。
「中国など海外の方々の原動力は自分の本能の中の欲というか、そんなものがモチベーションになっているケースが多い。しかし、日本人は「世のため人のため」というか、利他の心で、努力している人が少なくないと思います」
今も「利他の心」と自らを厳しく律していますが、「祇園で遊ぼうかな」とは思われないですか。
「祇園にはお付き合いで行くことはあります。しかし、自分から遊びに行くことはありませんよ(笑)」
◇稲盛氏の独自インタビューに続いて、7日から同氏の「私の履歴書」復刻版の公開をスタートします。
稲盛和夫氏(いなもり・かずお)
1955年鹿児島大工卒。59年に京都セラミック(現京セラ)、84年には第二電電(旧DDI)を設立。2005年から現職。「盛和塾」で経営者指導に力を注ぐ。84歳
(代慶達也 京都支社 太田順尚)
●このシリーズは日本経済新聞の人気連載「私の履歴書」に過去に登場した経済人の中から、もう一度読みたいと読者の希望の多い方を選び、転載してゆきます。
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