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社説

台湾総統選 中台関係の安定化図れ

 台湾の新総統に民進党の蔡英文(さい・えいぶん)主席(59)が選ばれた。1996年に総統直接選挙が始まって以降、初の女性総統の誕生で3度目の政権交代だ。80年代まで国民党の1党体制が続いた台湾で民主主義に基づく政治体制が定着し、平和的な政権交代が当たり前になったことを歓迎する。

     蔡主席は国民党の馬英九(ば・えいきゅう)政権下で急速に中台交流が進んだことに不安を抱く台湾住民の支持をつかむ一方、中国を刺激することを避け、中台関係の現状維持を強調してきた。現実的な政権運営に期待したい。

     選挙は8年続いた国民党政権に対する審判でもあった。馬総統は直行便開設や中国人観光客の受け入れ、自由貿易協定に当たる経済協力枠組み協定(ECFA)の締結など中台の経済協力を進め、経済の浮揚を目指した。しかし、リーマン・ショックの影響もあり、年6%成長の公約実現にはほど遠い状況が続いた。2期目は支持率も低迷。金融や医療など幅広い分野で中国資本への市場開放を進めようとしたサービス貿易協定には学生らが反発し、立法院(国会)が占拠される混乱も生じた。

     台湾世論の大多数は統一でも独立でもない現状維持志向だ。中国への過度な依存は統一につながりかねないという警戒感が国民党の大敗につながったといえる。同党は当初擁立した候補の支持が伸びず、途中で朱立倫(しゅ・りつりん)主席(54)に差し替えるという失態も演じた。総統選と同時に行われた立法院選では2大政党と一線を画す新興政党が存在感を示した。国民党は野党として党勢回復を果たせるか。正念場を迎える。

     民進党にとっては陳水扁(ちん・すいへん)政権(2000〜08年)以来の政権復帰だ。当時は国民党長期政権の既得権益を切り崩したものの、独立色の濃い政策を推し進めて中台関係が停滞し、米国との関係も悪化した。陳政権で要職を務めた蔡氏は教訓を十分にくみ取っているはずだ。

     問題は中国の出方だ。中国は「一つの中国」を前提に交流を進めるという「92年コンセンサス」の受け入れを迫っているが、無理強いするのでは台湾の反発を招くだけだ。蔡氏はコンセンサスを認めないが、否定もしないという現実的態度だ。一致点を探り、対話を進めるべきだ。

     中台関係が緊張すれば、東アジアの安全保障環境も悪化する。5月に就任する蔡氏の政権運営、中国との対話の行方を冷静に見守りたい。

     初の女性総統の誕生は女性の政界進出がアジアでトップクラスという台湾政治の開かれた側面を象徴するものでもある。民進党は脱原発や格差是正、社会政策充実などを主張している。社会安定化に向けた手腕にも注目したい。

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