これまで新宿駅で高速バスに乗ろうとして乗り場が分からずに道に迷ってしまった…という経験がある人もいるのではないだろうか。
⇒【画像】甲州街道から見た「バスタ新宿」と「ミライナタワー」
それもそのはず、これまで新宿駅周辺には20を超える高速バス乗り場があり、高速バスを利用する際は今回乗車する便がどのバス停から出発するか、また、新宿駅のどの改札口から出たら便利なのかを路線ごとに調べる必要があったからだ。
しかし、そういった状況は、4月4日の新宿駅の新バスターミナル「バスタ新宿」開業により一変することになる。
この「バスタ新宿」、駅の案内や報道などで一度は耳にした人も多いと思うが、「一体なにがどう便利になるのかよく分からない」「新宿には行くけれど高速バスに乗らない自分には関係ないだろう」といった声も聞かれる。
そこで、バスタ新宿の特徴と、どう便利に変わるのかを、開業直前の現地取材とともに8項目にまとめてみた。
◆【その1】19のバス停を集約!日本最大級の高速バスターミナル
「バスタ新宿」(正式名称:新宿南口交通ターミナル)の整備は、1999年より国土交通省が約700億円を投じて進めてきた「新宿駅南口地区基盤整備事業」の一環で、施工は大林組、鉄建建設、大成建設、大和小田急建設(フジタ)のJVが担当。
営業中のJR線の上に新たなビルを建設するという難工事であったが、この「バスタ新宿」と、それに隣接する高層ビル「JR新宿ミライナタワー」の完成により、20年近い歳月を費やした南口整備事業は全てが完了する。
これまで新宿駅周辺には多くの高速バス乗り場が散在していたが、「バスタ新宿」の開業により、新宿駅周辺に点在する高速バス乗り場のうち19か所が1つに集約される。
バスタ新宿を発着するバス会社は118社、1日当たりの発着本数は実に1,625本(開業時予定、国土交通省発表による)となり、まさに「日本一の駅に相応しい、日本一の規模の高速バスターミナル」となるわけだ。
◆【その2】本州全県と直結!成田・羽田とも直結する「ハブターミナル」
バスタ新宿を発着するバスの行先は実に39都府県。これは東京駅を発着する全鉄道路線を併せた行先である33都道府県(2016年3月現在)を遥かに凌ぎ、本州と四国の全県が新宿から乗り換えなしで結ばれることになる。
更に、空港リムジンバスの発着所もバスタに集約されるため、これら39の都府県が成田・羽田の両空港からバスタ内の乗り換え1回のみでアクセスできるわけだ。
新宿で高速バスから高速バスへ、また、地方から羽田や成田まで飛行機で来てそこから高速バスで各地へ…という使い方はもちろんのこと、近年は都内のホテル不足や宿泊額の高騰から夜行バスを宿代わりにする外国人も増えており、バスタから直通の便が出ている観光地は、これを機にインバウンド客の獲得を狙わない手はないであろう。
◆【その3】JR新宿駅改札からエスカレータで直結!
バスタ新宿が設置されるのは駅ビル「ルミネ2」の南側、これまでのサザンテラス口・新南口の上層階。なお、「バスタ新宿」の完成より一足早い3月に「サザンテラス口」は「甲州街道改札」へ、新南口は「新南改札」と名前を変えており、改札の名前変更を知らなかった乗客が戸惑う光景も見られた。
JR新宿駅のホームからは、新南改札を出て、そのままエスカレータやエレベータを上がれば「バスタ新宿」だ。
「バスタ新宿」のビルは4階建てで、高速バスの乗り場は4階、降車場は3・4階となっている。3・4階には、高速バス待合所、きっぷ売場などに加えて、観光案内所「東京観光情報センター」や宅配サービスコーナーなども設置される。
◆【その4】タクシー乗り場集約で渋滞解消も
バスタ新宿に入居するのはバスターミナルだけではない。バスタ新宿の3階には大型のタクシー乗り場が設置されており、高速バスやJRからタクシーへの乗り換えも便利になる。
なお、バスタ新宿の開業に伴い、バスタ新宿前の甲州街道(国道20号線)は、新宿4丁目交差点(フォーエバー21前)から西新宿1丁目(ルミネ1前)までが終日駐停車禁止となり、原則として流しのタクシーを捕まえることも出来なくなるので注意が必要だ。
これまで新宿駅前の甲州街道周辺では客待ちのタクシーが渋滞の大きな要因となっており、新宿駅をタクシーなどで東西に抜けるときに線路を超える甲州街道でノロノロ運転になることがしばしばあったが、バスタ新宿開業に伴うタクシー乗り場の集約と道路拡幅により、頻繁に起きていた渋滞の大部分が解消されると見られている。
◆【その5】バリアフリー化で「くつろげるバスターミナル」に
これまでの新宿駅の高速バスターミナルは、散在していて場所が分かりにくいだけではなく、アクセスまでに多くの階段や段差がある場所があったほか、待合所がないバス停もあった。
バスタ新宿では、駅改札を出てすぐのエスカレータやエレベータを上ると直接バス乗り場までたどり着く。利用客の動線に配慮した造りで全館をバリアフリー化しているのはもちろんのこと、館内には商業施設部分を含めて十分な広さの待合所や椅子が設置される予定で、歩き疲れたビジネスマンや旅行客にとっても有難いであろう。
更に、券売機や観光案内所の多言語対応も行うほか、外貨両替カウンター、手荷物預かり所、ロッカー、自動販売機なども設置。無料Wi-Fiの設置も予定されており、誰もが使いやすいバスターミナルとなる。
◆【その6】始発まで時間を潰せる「21時間営業」の大型商業施設を併設!
「バスタ新宿」の開業とほぼ時を同じくして開業するバスタ直結の32階建て高層ビル「JR新宿ミライナタワー」。
このミライナタワーの7階までと新宿駅エキナカ、バスタ新宿ビル1~2階にかけてルミネが新たに展開する複合商業施設が「NEWoMan」(ニュウマン)だ。
ニュウマンのうち、ミライナタワー下層部分などはすでに3月25日から営業を開始しており、4月15日には全館グランドオープンを迎える予定。
メインターゲットは働く女性で、コンセプトは「女性が輝き続けることができる経験と価値を提供する」こと。シックにまとめられた館内にはファッション、雑貨など高感度なトレンドアイテムをそろえた約100店舗のほか、認可保育園やクリニックも入居。ユナイテッドアローズの新業態「ASTRAET」、SHIPSの新業態「SHIPS BLUESTORE FAB」、カフェ「ブルーボトルコーヒー」、レストラン「ROSEMARY’S TOKYO」など、全テナントのうち8割が新宿初出店となる。売場面積は約9,400㎡。
もちろん、このニュウマンのターゲットは女性だけではない。バスターミナルと直結しているため、弁当店、サンドイッチ店、おにぎり店など、その場で買ってバス車内で食べることができるものを販売する店舗も数多く出店。飲食店ゾーンには気軽に立ち寄れるカフェ、レストランに加えて居酒屋、バーなどが出店し、営業時間も朝7時から午前4時までの長時間となるため、始発電車までの時間潰しも可能になる。一部店舗には新宿の街並みが一望できるテラス席も設えられており、これから夏にかけて人気を呼びそうだ。
さらに、夜間診察も行う内科・婦人科クリニック、調剤薬局も入居するため、旅行中の急な病気の際も安心。そのほか、館内にはイベントホール「LUMINE0」(ルミネゼロ、約300席規模)も設置されている。JR東日本とルミネは、このニュウマンの年商を約200億円と見込んでいる。
また、ニュウマンの開業に先駆けて隣接する「新宿髙島屋」でもデパ地下を中心とした改装を行っており、今後は南口の賑わいがさらに増すことは間違いない。
◆【その7】トレインビューの公園も!新宿南口の憩いの場に
商業施設「ニュウマン」での楽しみ方は買い物や食事のみに留まらない。
ニュウマンの屋上には憩いの場となる屋上菜園「soradofarm」(開園時間8時~18時、冬季は16時まで予定)が設けられており、「夜行バスを降り、館内でモーニングを取ったあとに屋上で疲れた体をリフレッシュして出勤」といった使い方もできる。この屋上菜園は一般の人への貸し出しも行っており、新宿駅の上に「自分だけのマイ畑」を作ることも夢ではない。貸出料金は年間129,600円(3㎡、税込)から。
緑豊かな「憩いの場」はこの屋上菜園だけではない。新宿で働くビジネスマンや家族連れにも人気を呼びそうなのが、バスタ新宿の南側、新宿駅の新南改札付近の線路上に設けられた「歩行者広場」。この広場は約2,000㎡の広さがあり、「公園」と言ってもいい規模で、その一番の特徴は、新宿-代々木間の線路を一望できる「絶好のトレインビュー」だ。
歩行者広場は24時間いつでも開放されており、週末などを中心に各種イベントも開催される予定となっている。
◆【その8】環境に優しく、渋滞抑制効果も
春の新緑で目を楽しませてくれる場所はニュウマン屋上や歩行者広場だけではない。
サザンテラスを新宿駅方面に歩いていると、新たに「緑の壁」ができていることに気付いた人もいるのではないだろうか。これは、バスタ新宿の壁面緑化だ。バスタ新宿ではこのように数ヶ所の壁面を緑化するほか、一部には大気汚染の抑制効果がある光触媒を使用する予定。
また、新宿駅周辺ではバス停とタクシー乗り場が集約されたことによる渋滞抑制効果も大きいと見られており、人にも環境にも優しいバスターミナルとなっている。
◆実際の乗り換え所要時間はどれだけ短縮される?
ここまで8つの「バスタ新宿」の特徴を並べてみたが、実際に乗り換えが便利になるという実感が沸かない人もいるかも知れない。
そこで実際に、現在新宿駅で最も大きなバスセンターの1つであり、駅からアクセスしやすいことでも知られる「京王新宿高速バスターミナル」と、「バスタ新宿」の、JR線との乗り換え所要時間を比較してみた(取材時はJR中央線利用)。
まず「京王新宿高速バスターミナル」の場合、電車の降車位置にもよるとは思うが、電車を降り、新宿駅西口改札を経由して、西口の人ごみを抜け、横断歩道で信号待ちをしてバスのホームに到着するまで約9分。
一方で、「バスタ新宿」は、電車を降りてバスタ入口である甲州街道改札まで僅か3分。エスカレータを介してもバスのホームまでは5分ほどで到着すると考えられ、これまで利便性が高いことで知られていた京王新宿高速バスターミナルと比較してもかなりの所要時間短縮になる。何より、甲州街道改札・新南改札からアクセスすれば人ごみに揉まれる機会が少なく、信号待ちをすることもないため、乗り換えのストレスはかなり減りそうだ。
なお、現在新宿で京王新宿高速バスターミナルに次いで高速バスの発着本数が多い「新宿駅JR高速バスターミナル」は、バスタ直下の新南改札から歩いて更に10分ほどの代々木駅近く。新宿駅からは電車を降りて15分ほどかかることも少なくなく、これまでこちらを頻繁に利用していた人は、バスタの利便性を大きく実感することになるだろう。
◆東名間の所要時間短縮も!?
バスタ新宿の開業に伴うダイヤ改正で忘れてはならないのが、高速バスの新東名高速道路豊田東JCT~浜松いなさJCT経由移行による所要時間の短縮だ。
2月13日に開通したこの区間では、並行する東名高速道路の最高速度が60kmに規制されている場所があり、1つのボトルネックとなっていた。そこで、東名間をノンストップで走るバスの多くが、バスタ新宿開業のダイヤ改正に合わせて運行経路を東名高速道路経由から新東名高速道路経由へと変更することになっている。
ダイヤ上における高速バスの短縮所要時間は10分ほどであり、中には以前と殆どダイヤが変わらない路線も多いが、新東名高速道路開通前まで頻繁に起きていた渋滞による遅延が激減すると予想されており、定時性が大幅に増すこととなる。
なお、「東名ライナー」など途中に停車するバス停がある高速バスの多くは従来どおり東名高速道路経由のままとなるが、もちろんこちらの定時性も大きく向上するであろう。
◆まだまだ終わらぬ新宿駅大改造
20年近くの時間を費やし、難産の末に多くの期待を背負って開業する「バスタ新宿」。
この「バスタ新宿」と「JR新宿ミライナタワー」の開業によって新宿駅南口整備事業は終了するものの、これで新宿駅の大型改造工事が終わる訳ではない。
新宿駅では、JR東日本が東京オリンピックが開催される2020年ごろの完成を目指して西口(小田急前)から東口(ルミエエスト前)を結ぶ新たな東西自由通路の建設を計画しているほか、1964年に建設され老朽化が進んでいる東口の駅ビル「ルミネエスト」(旧マイシティ)の建て替え計画も進行中だ。
まだまだ生まれ変わり続ける新宿駅からは、今後も目が離せそうにない。
参考:国土交通省関東地方整備局、JR東日本プレスリリース
<取材・文・写真/都市商業研究所>
【都市商業研究所】
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken」
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ハーバー・ビジネス・オンライン

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