スキーバス事故 教訓は生かされたのか
毎日新聞
事故防止や乗客の安全確保に落ち度はなかったのか。警察の捜査とは別に、徹底的な検証が必要だ。
長野県軽井沢町の国道で、スキー客を乗せた大型バスが対向車線のガードレールを突き破って転落し、多数の死傷者を出した。
国土交通省など関係機関は、安全体制を点検し、再発防止につなげなければならない。
ツアーは東京都内の旅行業者が企画し、都内のバス事業者がバスの運行に当たっていた。
運転手は2人乗車していたが、健康管理が適切に行われていたのかは関心点の一つだ。バス会社は、運転手の健康診断を怠っていたとして行政処分を受けたばかりだった。現時点で事故原因と結びつけることはできないが、労務・健康管理面に問題がなかったか洗い出してほしい。
思い起こすのは、乗客7人が亡くなった2012年の関越自動車道での高速ツアーバス事故だ。運転手の居眠りが原因だった。
高速バスの利用が広まる中、当時は低価格競争が繰り広げられていた。運転手の長時間運転が常態化し、ツアーを企画する旅行会社、バス運行会社双方の安全への意識がおろそかになっていた実態が判明した。
この事故を受け、国交省は有識者会議で議論し、バス事業のあり方を全面的に見直した。
長距離運行バスの運転手が1人で運転できる距離や時間に上限を設け、交代運転者の配置基準を改めた。バス事業者の許可基準も厳格化した。法令を守っているか目を光らせ、悪質とみられる事業者へは集中的に監査を実施してきた。
バス事業者の運行管理制度も強化されてきた。昨年5月からは運転者の体調不良や交通渋滞などに迅速に対応するため、電話などで運転手に指示を与える運行管理者を少なくとも1人おくことを義務づけた。
事故を起こしたバスは、予定の高速道でなく、カーブの多い一般道を走行していた。変更は適切だったのか解明する必要があるだろう。
被害者の多くが頭部を損傷していた。いざという時、被害を最小化する方策についても検討が必要ではないか。シートベルトを着用するなど乗客の対応も問われる。
過剰な価格競争で安全が脅かされることがないよう、時間や距離に応じた運賃の下限が現在は決められている。このため、最近はバスの運賃が上昇傾向で、価格を抑えるため観光バスが定番ルートを短縮するなどバス事業は環境の変化がみられる。運転手不足や高齢化も指摘される。
関越道事故の教訓と対策に死角がないか、あらゆる角度から点検してもらいたい。