世界に拡散するテロリストが万一、核を手に入れたら…。想像したくない悪夢だが、五十カ国余が参加した核安全保障サミットは核兵器や核物質を厳重に管理し、過激派の手には渡さないと誓った。
サミットで採択されたコミュニケでは、核物質と核関連施設の安全確保が国家の基本的な責任だと確認し、各国が核テロ防止のため国際機関も含め、連携して情報を共有することでも合意した。
先月のベルギー同時テロの容疑者が、国内の原子力施設の技術者を監視していたとの情報がある。過激派組織「イスラム国」(IS)による核テロの脅威が現実のものになりつつあると、深刻に受け止めるべきだろう。
テロ組織が核物質を盗んで市街地に拡散させれば、深刻な被害を招く「ダーティー・ボム(汚い爆弾)」になる。もし核兵器そのものを入手すれば、保有しているだけで国際社会はパニックに陥ってしまう。
一国だけでは対応できない。サミットでは、国際原子力機関(IAEA)や国際刑事警察機構(ICPO)の核テロ対策強化を支援することで合意した。具体的な行動を急ぎたい。
核安保サミットは「核兵器のない世界」を掲げたオバマ米大統領が提唱し二〇一〇年に始まった。
目的の一つは世界に散在する核物質の回収だった。この六年間で日本を含む三十カ国、五十以上の施設から、兵器に転用可能な高濃縮ウランやプルトニウム計約三・八トンが撤去され、米国とロシアに移送された。百五十発以上の核兵器を製造できる分量だといい、不拡散の成果と評価できる。
日本からは先月、研究用プルトニウム三百三十一キロが米国向けに移送されたが、運搬先の施設があるサウスカロライナ州の知事が受け入れを拒んでいる。増え続ける核物質の処分地がなかなか見つからないという現実から、目を背けてはならない。
オバマ大統領は核物質の管理で成果を上げたと強調したが、世界の核兵器の九割以上を保有する米ロの軍縮が進まない限り、各国への呼び掛けも説得力を欠く。中国の核ミサイル増強も懸念材料だ。
核サミットは四回目の今回が最後になる。これからはIAEAを中心に論議するが、北朝鮮が核開発の野望を隠さないなど、核なき世界はむしろ後退している。各国の首脳レベルが核問題を討議する場が今後も必要だ。
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