今週のお題「印象に残っている新人」
前略
死んだ魚の目をした新卒の君へ
日本語というのはとても難しいものですね。そして時に言葉は人を傷つけたり、傷つけられたりするものでもあります。”Cool Guy”を日本語にしてTatooを入れたいと駄々をこねた外国人が”冷奴”と入れられて、文字通り生涯消すことのできない傷を負った話は君も聞いたことはあるでしょう。
さて、君は先日の営業会議の席で上長から「あの案件どうなった?」と聞かれた時に「”ほぼほぼ”大丈夫です。」と答えて激怒されていましたね。これまでの人生でカンカンに激怒されたことの無い君にとってはさぞ衝撃だったことだろうと思います。またその後、鬱々として仕事を続ける君を見るにつけ心が痛みます。
私も個人的には、なにもそこまで激怒しなくてもいいじゃないか、と常々思ってはおりますが、旧時代的な我が社においては当たり前の光景なのです。
まして営業会議です。時に契約が取れたか取れていないか、0か1かの二進法になりがちなことも理解してください。上長は個々の案件を確認した後に上層部に報告し、上層部から錯乱寸前まで追いつめられる為、じりじりとして冷静ではいられない状況にあるのです。”ほぼほぼ”などという曖昧な返答は上長のイライラを膨れ上がらせるだけなのです。
あわせて少々考えて頂きたいことがあります。”ほぼほぼ”というのは新語あるいは造語であり、ごくごく最近使われるようになってきた言葉であるということです。私などは聞けば意味は分かるのですが、特に上長くらいの古い人間には受け入れられない種類の言葉である為、我が社では軽々には使えないものであることは理解してほしいところです。
では言葉そのものとしては問題があるのかというとこれがなかなか難しいのです。WEBLIO辞書によりますと、【”ほぼ”を強めて言う表現。完全ではないが大体そうだと言える様子を意味する語】とあります。
この同一単語の繰り返しを行う言葉を”畳語”(じょうご)と言うらしいので、この場を借りて君に伝えたいと思います。
畳語(じょうご)とは、単語またはその一部をなす形態素などの単位を反復して作られた単語をいい、合成語の一種である。畳語を形成することを重畳(ちょうじょう)または重複ともいう。
次のような俗語的表現として用いられる畳語は世界の言語で見られる。
幼児語(「おめめ」)や、それに類する愛称(「タンタン」)など
オノマトペア(「ガタガタ」)
強調(「とってもとっても」)
(引用:Wikipedia)
名詞を繰り返すと複数形を表す、国々や、木々、星々などとなります。副詞的表現であれば形容詞を重ねた寒々や白々など、動詞を重ねた返す返すといった具合です。
同一の語の繰り返しが要件なのであれば、ましてや擬声語の繰り返しですら問題ないのであれば、君のほぼほぼもあながち間違った使い方とは言えないと思うのです。
そもそも”Exel”の事を”エッセル”、”Windows”の事を”ウィンディーズ”、”Google”の事を”グルグル”だとか言っている上長に、言葉の問題で口出しされたくないというのは私としてもよく分かります。今後は「これは畳語なんです。」と胸を張って言い返して欲しい。君は間違っていないのです。
それはそれとして。
配属以来何度も繰り返しているのですが、君の問題点は”ほぼほぼ”と言ってしまったことなどどうでもいいところにあるのです。
まず君は声が小さい。隣にいても声が聞き取れないあの声量は一体全体どう調節したら出せるものなのでしょう。君が箱入りのぼんぼんかどうかは知らないし知りたくもないですが、日々の営業活動の中でお客様と話ができるレベルにないのは明らかです。一度ドムドムバーガーで声出しの練習をさせてもらったら如何でしょうか。ここまで言ってから気づいたのですがそもそも話をしているのをあまり聞いたことがありません。
やる気のなさも深刻ですね。のろのろと仕事をされるのも結構なのですが、両手両足で数えられる程度の自社商品の名前、君は言えるようになったでしょうか。3月の段階ではまだ言えなかったと記憶しております。流石に会社をぺろぺろし過ぎかと思いますので、改善を期待しています。
そして君が配属されて一年が経ちました。いまだ一件も成約がないということをどう受け止めていますか。周りの同期がどんどんと実績を上げている中、ヒリヒリとした緊張感の中でぶるぶる震えていますでしょうか。配属からこのかた、君の目からギラギラしたものを感じたことがないのですが…。あまりの覇気のなさにゴムゴムの実を探してあげたくなります。
定時ギリギリの出勤と、勤務時間終了直後の退社は見事です。まわりの人たちが何時に出勤し、何時に退社しているのかを今まで一度も見たことがないのでしょう。今のご時世それが当たり前と言われればその通りなのですが、仕事なんていうものは所詮人と人との繋がりです。他の社員は皆君を気にかけてみているのです。しかし残酷かとは思うのですが、君の仕事ぶりを見ていると、君が困ったときに誰かが助けてあげようと思うことは現状ないでしょう。これは新人の頃にはしばしば言われることなのですが、せめて仕事を覚えるまでは頑張る姿勢を見せてほしいものです。
人との繋がりという点で言えば、君はコミュニケーション面でも不足がありますね。会社絡みの飲みの席に100%出席していない。気持はわかりますし、私も出ないときはあります。ただ100%出ないというのは如何なものでしょう。そんなものは無駄無駄ァ【対:オラオラァ】と考えているのでしょう。君一人で仕事をしているのならそれで構わないのですが、我が社は組織体で、先輩や上長も人の子です。彼らから完全に交流を遮断され、彼らの中のモヤモヤしたものが災厄となって君の身に降りかかります。冒頭でも述べたように我が社は旧時代的であるが故に、より一層それが顕著に現れる可能性が高いのです。
死んだ魚の目とはよく聞く日本語ですが、君はまさに当てはまりますね。若さと好奇心は比例しないという気づきをもたらしてくれました。何事においても興味を示さないその様は、さながら動くことのできない大仏様のようです。隣に立ってナハナハとかゲロゲロとかやってみたとしても、君の視線は奪えないだろうことはお見通しです。
もし仮に君がまだ我が社で仕事を続ける意思があるのならこれだけは言いたい。少し自分を変えてみよう。ほんの少しでいい。例えば我が社のぽっちゃり武闘派事務員に「今日も肉々しいですね♡」と言って「ひゃっはァッ!!テメーベコベコにしてやんよォ!!」と特攻(ぶっこま)れてもいいですし、正統派札幌ラーメンのお店に行って「マシマシで♪」と店主を煽ることで「熱々なスープをあなたにあげる~♪」ってぶっかけられても構わない。とにかく自分を変えて新しいアクションを起こしてみよう。少しでいいから前に進もう。このままだと仕事をしていても面白くないでしょう。
せめて仕事に、ひいては人生のモチベーションの高まらんことを祈念して。
草々