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 シリア国境にほど近いトルコの町で3月下旬、1人の日本人男性が軍警察に拘束された。男性が「観光に来た」と当局に説明したその町は、過激派組織「イスラム国」(IS)に加わろうとする世界中の若者らにとって、シリアに密入国する「玄関口」だった。

 トルコ南部ガジアンテップ県。軍警察への取材によると、3月21日午後8時過ぎ、住民から通報が入った。「不審な男がシリア国境へ向かって歩いている」。部隊が急行した。男性はかばんを背負い、眼鏡をかけ、3千リラ(約12万円)と地図を持っていた。

 現場はカルカムシュとニジップという二つの町の中間あたり。広大な丘陵地の田舎道だった。人家はまばらで、昼間でも車の通りは少ない。近くで農業を営む男性(52)は「ここは夜に出歩く場所じゃない」。シリア国境まで十数キロ。その先はISの支配地域だ。

 パスポートなどから和歌山県出身の23歳と判明した男性は、トルコ語が話せず、英語も片言だった。捜査当局に対し、日本語通訳を通じて「私は旅行者。イスタンブールからバスを乗り継いで来た」と説明したという。

 捜査当局によると、男性の携帯電話にはシリア人と交わした英語のメッセージが残っていた。「ここ(シリア)は危険だ。人が大勢死んでいる。来るな」と諭すシリア人に、男性は「私も戦いに加わる」と伝えていたという。ただ、取り調べには「ふざけて書いただけ」と話し、観光目的だったと繰り返した。

 拘束前日の20日、男性は現場から約20キロ離れたビレジクで、1泊約千円の宿に泊まった。宿の経営者(60)は「おとなしい青年で、戦闘員になれるとは思えない」と振り返る。

 国外退去となった男性は24日、日本に戻った。

■IS志願の外国人、3カ月で250人拘束

 ガジアンテップ県は、ISに加わるためシリア入りを図る外国人が訪れる場所として知られる。トルコ紙によると、同県の警察は今年1~3月、ロシアやエジプトなど35カ国の外国人250人を拘束。昨年1年間の外国人拘束者は50カ国の900人に上ったという。治安当局幹部は「アラブ諸国やアフリカ諸国、アフガニスタン、英国など様々な地域からIS志願者が来る」と話す。