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サウジとイラン 米国は事態収拾に動け

 残念というより情けない気持ちになる。過激派組織の「イスラム国」(IS)が異教徒や異宗派の虐殺を続ける折、なぜイスラム圏の二つの地域大国が断交するのか。なぜ米国などは事前に関係国をなだめなかったのか。これでは国際社会の分断を図るISが喜ぶだけである。

     断交当事国のサウジアラビアはアラブ民族でイスラム教スンニ派の住民が主体。イランはペルシャ民族で同シーア派が圧倒的に多い。ペルシャ湾を隔てて向かい合う両国は、1979年の革命でイランの王制が倒れてから一気に対立を強めた。

     建国以来、サウジの国王はサウド家が世襲し「(聖地メッカとメディナの)二つの聖なるモスクの守護者」を尊称としてきた。対して革命後のイランはイスラム法学者による統治体制を敷き、「コーランのどこに王が国を治めよと書いてあるのか」とサウジを批判し続けた。対立の根っこはここにある。

     だが、換言すれば両国は反目しつつも共存してきた。断交のきっかけは、サウジがシーア派の指導者を処刑し、怒ったイラン国民がイランのサウジ大使館を襲撃したことだという。その後、サウジ主導の連合軍がイエメンのイラン大使館を空爆したとの情報も流れ、予断を許さぬ情勢だが、まずは双方の自制を求めたい。

     穏健を旨としたサウジが攻撃的な姿勢に転じた背景には米オバマ政権への不満があろう。米国は80年代のイラン・イラク戦争でイラク寄りの姿勢を取り、90年代の湾岸戦争後は「イラン・イラク二重封じ込め」政策を採用するなど、常にサウジを含むアラブ産油国を支援してきた。

     だが、オバマ政権は昨年、イランとの核合意を成立させ、同国への経済制裁は近く解除される可能性もある。サウジにすればイランが核兵器を作る道さえ残した合意だ。しかもイラク戦争後の中東では、シーア派の力が強いイラン、イラク、シリア、レバノンによる「シーア派ベルト」が形成されつつある。

     こうした状況に対して米国はアラブ関係国との緊密な意思疎通を欠いたのではないか。オバマ政権の思惑はともあれ、サウジなど湾岸協力会議(GCC)の加盟国が長年にわたり米国の中東政策を下支えしたのは確かである。GCC加盟国のバーレーン、アラブ首長国連邦、クウェートなどもイランとの断交または大使召還を決めた意味は小さくない。

     アラブ連盟やロシアの仲介もさることながら、ここは米国の出番だろう。オバマ政権はサウジとイランの関係修復と事態収拾に努めてほしい。産油国の対立は経済の混乱を招く。宗派対立の顕在化と拡大は、より大きな危機につながりかねない。

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