上田真由美
2016年4月2日21時57分
桜の中を、船が行く――。江戸の昔、「天下の台所」大阪と京都・伏見を結んだ淀川の舟運(しゅううん)を復活させようと、国土交通省が2日、大阪府枚方市と京都府八幡市の間で小型船を走らせた。関係者を乗せ、約11キロを往復。安全に運航できることを実証し、観光船の誘致につなげるための実験だ。
大阪管区気象台によると、枚方市は午後1時すぎに最高気温が22・3度に達するポカポカ陽気。約250本の桜並木が満開を迎えた八幡市の「背割堤(せわりてい)」では、多くの花見客が小型船に手を振っていた。
■「たぶん江戸時代もこんな風に…」
国土交通省近畿地方整備局が2日に始めた舟運(しゅううん)実験は、淀川の難所に観光船を誘致する計画の一環だ。今後は、水深データを集めて公開する。実験船には記者も同乗し、坂本龍馬ら幕末の志士も行き交った川の、新たな可能性に触れた。
午前10時。観光や鉄道関係者ら13人が乗った小型船が、大阪府枚方市の船着き場を出た。2人の船頭が川底を見ながら、水深の浅いところを避けて進む。船尾で舟を操っていた船頭の男性は「たぶん江戸時代もこんな風に、船頭が浅いか深いかを見ながら進んだんでしょうね」と話した。
淀川をさかのぼって宇治川に入り、午前11時半ごろ、11キロ上流の京都府八幡市の船着き場に着いた。下流で遊覧船を運航する一本松海運の担当者は「将来、ビジネスになる」。近畿日本ツーリストの担当者は「長い乗船時間の使い方が課題。歴史のうんちくを語れる人がガイドする工夫が必要だろう」と話した。
江戸時代、船着き場の「八軒家浜(はちけんやはま)」(大阪市中央区)から、坂本龍馬が襲撃されたことでも知られる船宿「寺田屋」近くの浜(京都市伏見区)までの約45キロを「三十石船(さんじっこくぶね)」などが行き来した。積載量が30石(約4・5トン)で、米や参勤交代の荷物、人を運んだ。
今も、八軒家浜から枚方までの約21キロは、民間業者が春と秋に屋形船風の遊覧船などを運航。伏見でも周辺の川などを屋形船が走る。ただ、枚方から伏見方向へ向かう約18キロについては、砂が特にたまりやすく水深も浅いため、観光船が走っていない。
そこで近畿地整は今回、砂がたまっている難所をすり抜ける形で小型船を走らせた。航路次第で安全に走れることを実証するためだ。業者との意見交換や一般の人に乗ってもらうモニターツアーも行いながら、航路や誘客の戦略を立てる。国交省は宇治川と桂川、木津川の「三川(さんせん)合流域」に来春、展望塔や広場を持つ観光拠点をつくる。船とセットで盛り上げる狙いもある。
観光船は、歴史ファンも引きつけそうだ。枚方市立枚方宿鍵屋資料館によると、三十石船での約45キロの所要時間は、岸から人が綱で引く上りは12時間、下りは6時間ほど。船客に威勢よく食べ物や酒を売りつける小舟「くらわんか舟」の様子は、歌川広重の浮世絵にも描かれた。一部焼失後に再建され、内部が一般公開されている寺田屋の担当者は「龍馬さんも三十石船で行き来したのでは」と話す。
近畿地整淀川河川事務所の寺内雅晃副所長は「川から眺める風景は違う。観光船の商売が成り立つ可能性を探りたい」と語った。(上田真由美)
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