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(朝鮮日報日本語版) 【コラム】高橋亨の主張を今なお葬れない韓国人の党派性

朝鮮日報日本語版 4月3日(日)6時8分配信

 高橋亨は、韓国近代史を学ぶ際、避けては通れない日本の学者だ。1902年、当時の朝鮮にやって来た高橋は、その後終戦まで朝鮮を研究した。思想・宗教・政治はもちろん説話・ことわざまで深く掘り下げた。高橋が残した韓国学研究の成果はとてつもない。帝国主義の学問はこれだから恐ろしい。相手をさげすみつつも研究するのだ。支配するために。高橋は、これに徹底して奉仕した学者だった。

 100年前に高橋が朝鮮の民族性について記した著書『朝鮮人』は、そう長いものではない。しかし韓国史への影響は長く残った。当時の支配エリートは、同書を通して朝鮮観を形成した。「事大主義は朝鮮人が朝鮮半島に暮らすかぎり、永遠に持続する特性」という文言は、今でも日本の右派の韓国観を支配している。問題は、高橋が主張した民族性論が、(日本の植民地支配からの)解放後も悪霊のように韓国人に付きまってきたことだ。

 高橋は朝鮮の10種類の民族性を挙げたが、その全てに言及するほどの価値はない。ウソであったり矛盾していたり、ゆがんだ記述が多いからだ、また、当時はそうであっても、近代化と民主化の過程で成功裏に振り払った悪習もある。しかし、今でもなかなか否定し難いものが一つ、韓国人にしつこく食い付き続けている。それは、高橋が朝鮮人の4番目の民族性として挙げた「党派心」、すなわち分裂的な民族性だ。

 高橋は「家門・階級・信仰・利益を根幹としてやすやすと強固な党派をつくり出す人々を、朝鮮人のほかに見たことがない」と記した。「朝鮮人はもともと利害に基づいて動く連中」という暴言も残した。当時の日本は、こうした見方を朝鮮の小学生にも教えた。植民教育とは、被支配民族が自らをさげすみ、支配民族に奉仕させようとするものだ。この目的にアプローチする上で、高橋の党派性論は効果的だった。今日の友を明日の敵にしてしまう民族に、どうして自負を感じられようか。
 
 韓国の学者は、これを否定するため、不断の努力を行ってきた。実際、どんな国でも権力闘争は起こる。闘争は、正反合のプロセスを繰り返しながら歴史を発展させる。朝鮮における党弊の象徴のようにいわれる「士禍(朝鮮王朝時代の新旧官僚間の抗争)」もまた、腐った既得権をえぐり出す歴史の発展過程で生じた。悲劇的ではあるが、意義深い犠牲だった。しかしどう考えても、朝鮮王朝後期の朋党(ほうとう)の争いまで前向きに解釈するのは難しい。哲学も、名分もない。身内の利益があるだけだ。だから、相手を永遠に消してしまう「独存」を追求した。そうして独存に成功したら、すぐに分裂し、また戦った。北人は大北・小北、そして肉北・骨北・濁北・清北に、西人は功西・清西、洛党・原党・漢党・山党、老論・少論、僻(へき)派・時派…。最近繰り広げられている複雑多岐な政派分裂を見るかのようだ。そうして分裂していき、国全体を滅ぼす場面は、盛んに分裂していた細胞がたちどころにがんの塊に変わる過程を思わせる。

 高橋以前から、朝鮮の党派性は朝鮮の学者によっても厳しく批判されていた。朝鮮王朝末期の大文人、李建昌(イ・ゴンチャン)は、著書『党議通略』に「2党が3党になり、4党になり、200年余りという長い時を経てもついに正論を立てられない朋党を挙げるとするなら、それはひとえにわれわれ朝鮮だ」と記した。高橋の誤りは、17-18世紀の時代的悪習を韓国史全体に拡大し、民族性にまで飛躍したことだ。従って、韓国人が分裂しなければ、高橋の主張は歴史の中に消える。しかし、現実はそうではない。高橋の悪霊を韓国の地に留め置いているのは、日本ではない。
 韓国人は、なぜ分裂したのだろうか。李建昌が提示した八つの理由の内、最後のものが印象的だ。「国の太平が余りに長かったから」というものだった。朋党は、二大戦乱の廃虚から始まった。李建昌は「敵軍が侵略してきたら、決然と立ち向かうことができず、敵軍が退いていったら、上下いずれも平安に感じて、最初から難事などなかったかのようだった」と批判した。朝鮮の無意味な礼訟論争(王の亡くなった母のための服喪期間をめぐる論争)は、丙子胡乱(1636-37年の清の朝鮮侵略)の22年後に起こった。後の世は、これを厳しく批判した。解放から71年、戦争から66年がたったこんにちの無意味な分裂を、後の世はどう評価するだろうか。与党指導部は少し前、候補の公認と党の主導権をめぐる、いわゆる「玉爾闘争」に没頭するあまり「西海(黄海)守護の日」のイベントを欠席した。北朝鮮が武力を誇示していた時期だった。そんな政党が昨日、野党側を「安全保障を放棄した」と指弾した。朝鮮王朝時代後期の朋党でも、ここまでひどいレベルではなかった。

 韓国人は、危機に際して団結する民族だという。その通りだ。しかし旧韓末の危機では団結できなかった。そして国を失った。党派的分裂が臨界点を超え、収拾がつかないところまでいってしまったからだ。分裂が再び国を揺るがす前に、大統領と与党に対してはっきりした警告が必要だ。選挙で明らかになる民心のみが、共存の価値を回復させ、必然的に迫り来る危機の前で国民を団結させるだろう。

最終更新:4月3日(日)6時36分

朝鮮日報日本語版

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この2年あまり写真家のリサ・クリスティンは世界中を旅して、我慢できないほど過酷な現代の奴隷の現実を記録してきました。彼女はガーナの鉱夫やネパールでレンガを運び出す人々等、心に残る写真を紹介しながら、世界中で奴隷扱いされる2千7百万人に上る人々の窮状を訴えます。

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