閲覧謝礼 教科書の信頼傷つけた
首をかしげる全国調査結果と言わざるを得ない。疑念が残る。
教科書会社が、規則に反し検定中教科書を教員らに見せ、謝礼も支払っていた問題で、文部科学省が都道府県教育委員会の調査を集計した。
2009〜14年度、延べで約4500人の公立小中学校教員らが見ており、そのうち調査員(主に教員)や教育委員ら選定(採択)に関わる人物が約1000人。その中の約800人が謝礼を受け取っていた。
実際、別の会社の教科書から、閲覧した教科書に変えた例もある。
しかし、聞き取りや選定での発言記録、調査員作成の資料などを根拠に各教委は「選定に影響なし」とし、文科省もそう結論づけた。
説得力は弱い。第三者組織による調査など、もっと徹底した「外の目」を当てるべきではなかったか。
検定時期に教科書会社が「意見交換会」名目などで行った閲覧の会合は、選定をにらんだ営業的働きかけとみられても仕方ない。
教員側の認識の甘さやモラルも厳しく問われよう。
今回の問題が最初に発覚したのは昨年10月だが、その4月と6月には、関係者戸別訪問など過熱する売り込みで文科省が各社に自粛を求めていた。少子化などを背景に競争が激化したともいわれるが、ルール感覚が鈍麻してはいなかったか。
文科省は、今回表面化したような不正が再び行われれば、教委の権限で別の会社の教科書に変更できるよう省令を改めるという。
だが一方で「よりよい教科書づくり」の視点から、家庭や地域を含む学校教育現場と、教科書会社の情報・提言の交流が必要だ。文科省も「日々の授業実践で得られた教員らの意見の反映が、質の高い教科書づくりに不可欠」としてきた。
その大前提である信頼と公正さを今回の不正は揺るがした。関係者は事の重大さを思うべきである。
明治時代、教科書の発行社の売り込みと選定をめぐる大規模な汚職事件は、検定制の信用を失墜させ、その後の教科書国定化の道を開いた。
今後、検定後の時期に教科書会社合同主催のオープンな説明会などが検討されている。
眼前の教科書の解説、質疑だけでなく、将来にわたり教科書づくりの糧となる交流の場としたい。さらに、透明性を保ちながらそうした機会を拡充してはどうか。
いま、グローバル化時代の人材養成やアクティブ・ラーニング(受け身ではない能動的な学習)などを柱に、次期学習指導要領の策定作業が進んでいる。教科書づくりも、これまでにない新たな視点と工夫が求められている。
知恵はそこに絞りたい。