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無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう ~目指せ!俺だけの最強ハーレムパーティ~ 作者:猪木洋平
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1.5話 襲われた馬車:犬との戦闘

 幸い街は見える範囲にあった。
太陽の位置から考えて、ここから南の方向だ。

 しばらくは草原を歩く。
少し離れたところで犬のような生物がうろついている。
あれがミッション報酬にあった「魔物」という生物だろうか。

 ミッション報酬のために近づいて倒してみるか?
ミッション報酬でスキルポイントが入れば、スキルを強化できる。
さらに、もしゲームのように魔物を倒すことで経験値が入るようなシステムなら、レベルが上がって基礎ステータスの向上が期待できるかもしれない。

 しかしさすがに危険か?
犬のような生物に見えるが、地球の犬とは性質が異なるかもしれない。
口から毒液を吐き出すとか。
魔法を使ってくるとか。
ピンチになるとバーサーカー状態になるとか。
うかつに攻撃すると仲間を呼び出すとか。
魔物討伐にチャレンジするのは、街で情報収集をしてからのほうが良さそうだ。


 そんなことを考えながら歩いていると、男性の悲鳴が聞こえてきた。
あの犬に襲われたのだろうか?
もしくは盗賊とか?
聞こえた声の大きさから判断すると、それほど距離は離れていない。

 声が聞こえたほうをよく見てみる。
小さめの馬車がある。
どうやらあの犬のような生物に襲われているようだ。

 体が大きい男が1人、商人風の男が1人、フードをかぶった小柄な人が1人。
襲っている犬は2匹だ。
体が大きい男が1匹と、商人風の男がもう1匹と戦っている。

 体が大きい男は犬と危なげなく戦っている。
しかし少し勝負を急いでいるのか、攻撃に正確さが欠けている。

 商人風の男は盾で必死に防御している。
あまり戦い慣れているようには見えない。

 助けに向かうべきかどうか。
つい先ほど、魔物討伐はまだ危険だと結論付けたところだ。
しかし今は人命にすらかかわる緊急事態だ。
それに、彼らの戦闘を見るかぎり、あの犬に特殊能力のようなものは見受けられない。

 助けに向かうべきだ。
彼らのいる方向に駆け出す。
特に優先すべきは商人のほうだろう。

 俺が近くまで寄ると、商人は俺に気付いたようだ。
必死な様子で話しかけてくる。

「そ、そこの君! 冒険者か? この犬を何とかしてくれ!」

 日本語ではない。
しかし、この言語を俺は理解できる。
おそらく「異世界言語」のスキルのおかげだろう。

 興味深い単語が出てきた。
冒険者という単語だ。
この世界にはそういった職業があるのか。

「分かりました!」

 俺はそう言って、犬に切りかかるタイミングを計る。
犬はまだこちらに意識を向けていない。
今がチャンスだ。

 思い切って犬を切り付ける。
避けられた!?
いや、半分は俺の制御ミスで外したようなものだ。
剣術スキルをうまく扱えない。
頭では体の動かし方が理解できているんだが。

 犬は俺を敵とみなしたようだ。
歯をむき出しにして威嚇してくる。

 奴が踏ん張ったかと思うと、こちらの顔に目がけて跳びかかってきた。
恐ろしい顔だ。
怖い。
ビビりつつもなんとか避けることに成功した。

 たかが犬がこんなに恐ろしい生物だったとは。
嫌な汗をたっぷりとかいている。
心臓がバクンバクンと音をたてている。
マズイぞ。
こんなことなら剣術スキルの使い方を練習しておくんだった。
油断したらあっさりとやられてしまいそうだ。

 俺と犬がじっと睨み合う。
突然、横から犬への攻撃があった。
犬が倒れる。

 なんだ?
周囲の状況を確認する。
どうやら先ほどの犬への攻撃は、もう1匹の犬と戦っていた男の攻撃だったようだ。
戦っていた犬との戦闘が終わり、こちらに加勢に来てくれたといったところか。
体の大きい男と商人が話しかけてくる。

「ふう。助かったぜボウズ」

「助かりました。ありがとうございました」

「いえいえ、大したことはしていません」

 魔物と戦うという貴重な体験ができた。
結果的には一撃も当てることができなかったが。

「こいつらは単独で行動する魔物だ。油断していたぜ。まさか偶然2匹から同時に標的にされるとは」

 ほう。
この犬は群れで行動しないのか。
ソロで魔物狩りをするならば、この辺りでするのが良さそうだ。


 危機が去り、俺達3人の間に気が抜けた空気が漂う。
彼らも街に向かっているところのようだ。
せっかくなので俺も同行させてもらう。

 俺は馬車の荷台に乗せてもらっている。
遠慮したのだが、助けてもらったお礼だと言われたので乗せてもらうことにした。
しかし、危機を救った割にはお礼がしょぼくないか?
いやそうでもないか。
冷静に考えれば、俺がやったことは剣を空振っただけだしな。

 商人は馬車の御者をしている。
体の大きい男は荷台の前方に座りつつ、周囲への警戒している。
フードの人は俺と共に荷台の後方に座っている。
このフードの人はいったいどういう人なんだろうか?
気になってチラチラと見てしまう。

 しばらくして、正面に犬が現れた。
さっきのと同じ種類の生物だ。
俺は男に声をかけた。

「いっしょに戦いましょう」

 今度こそは一撃でも当ててみせる。
そう意気込んだが、男に止められてしまった。

「まあ待てボウズ。1匹ぐらい俺で十分だ。俺に任せておけ」

 まあ確かに彼の実力があれば1対1で十分なのだろう。
戦闘を見てみると、彼は回避を軸に戦っている。
さきほどの戦闘のような焦りは見受けられない。
堅実にダメージを与えている。

 彼の戦闘に危険はなさそうだが、少し時間がかかりそうだ。
俺が荷台で座って待機していると、後方から犬の息遣いが聞こえてきた。
見てみると、犬が近づいてきている。

 またか!
来るなら来い!

 俺は立ち上がる。
荷台から降りて戦うべきかと思ったが、このままで戦うことにする。
高低差の有利を活かすためだ。

 今度こそはと油断なく剣を構える。
しかし犬は俺ではなくフードの人に跳びかかった。

「あ、危ない!」
「きゃっ」

 俺はとっさにフードの人を抱き寄せる。
や、やわらかい。
やわらかい。
女性だったのか。
いや、こんなことを考えている場合じゃない。

 俺は彼女を背後にかばいつつ、再び剣を構える。
気分はさながらお姫様を守る騎士のようなものだ。
テンションが上がってきたぜ。
いや、だからこんなことを考えている場合じゃないって。

「安心して下さい。俺があなたを守り抜いてみせます」

 かっこいいセリフを言ってみたが、やっていることは地味だ。
剣術スキルを駆使して必死に牽制しているだけ。
俺なんかの実力で人を守りつつ戦うとか難易度が高すぎる。

 しかし何とか数分は持ちこたえた。
そして、男が加勢に来て犬を倒してくれた。

 俺の見せ場なんてなかった。
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