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【社説】

日米韓首脳が会談 東アジア安定の礎に

 日米韓の首脳は北朝鮮の核・ミサイル問題などへの対応を協議した。混迷する東アジア情勢を安定させるため、いっそうの対話と連携が必要だ。

 日米韓首脳はワシントンで会談し、北朝鮮に対する国連安全保障理事会の制裁決議や各国独自の制裁を徹底するよう確認した。日米韓が安全保障分野で協力を強化することでも意見が一致した。

 北朝鮮の軍事技術はどこまで進み、何が脅威になるのか。

◆北朝鮮の暴走止めねば

 最終目的は米本土まで届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発だ。核兵器の小型化、ミサイルの固体燃料開発や、大気圏再突入の実験に成功したと主張するが、多くの専門家はまだ開発途上だと分析する。訓練の内容や画像を盛んに公開するが、「威嚇のパフォーマンスが、手の内をさらす結果を招いている」(韓国紙・朝鮮日報)との見方もある。

 だが、中、短距離ミサイルは移動式発射台を使ったとみられ、米韓当局も事前探知が難しかった。既に実戦配備され、射程に入る日韓両国には深刻な脅威になる。

 三首脳は安保協力の強化を確認したが、北朝鮮の動向に関する正確な情報交換、分析がスタート台になる。連携して北朝鮮の暴走を止めなくてはならない。

 朝鮮半島では米韓の合同軍事演習が四月下旬まで実施され、対抗して北朝鮮も挑発行動を続ける。一方が相手の行動を誤って認識、判断して、偶発的な衝突が起きることが何より懸念される。米韓両軍は北朝鮮を抑止しながら、自らの行動にも抑制的な姿勢が求められる。

 北朝鮮は五月に労働党大会を開催する。金正恩第一書記は権力基盤を固めるとともに、新たな経済政策を打ち出すとみられる。国際社会による制裁が効果を挙げ、北朝鮮が経済支援を求めるようになれば、各国との外交に乗り出す可能性が出てくる。日本を含む関係国は、党大会後の動きを注視する必要がある。

 安倍晋三首相が一連の会談で強く打ち出したのはアジア・太平洋地域の安全保障に関し、積極的な役割を果たすという姿勢である。背景には、先月二十九日に安保関連法が施行されたことがある。

 「専守防衛」を国是としてきた日本は、朝鮮半島など周辺地域で武力紛争が起こった場合の安保・防衛協力について、後方地域での支援にとどめてきたが、安保法施行で、日本が直接攻撃されていなくても、日本の存立が脅かされる「存立危機事態」と政府が認定すれば、集団的自衛権の行使が認められ、自衛隊が米軍などとともに戦えるようになった。

 しかし、集団的自衛権の行使が憲法九条に違反すると指摘される状況に変わりはない。北朝鮮や中国に対抗する形で、軍事協力をことさら強化すれば、地域の軍拡競争を加速させる「安全保障のジレンマ」に陥る可能性がある。

◆軍事のみに偏らぬよう

 地域の安定に向けて関係国が連携を強めるのは当然としても、それが軍事面に偏らぬよう、慎重な対応が必要だ。

 日米首脳会談では、沖縄県の米軍普天間飛行場の名護市辺野古への「移設」計画をめぐる裁判で、日本政府と、計画に反対する県とが和解したことも議題となった。

 オバマ大統領が計画の遅れに懸念を示したことに対し、首相は「『急がば回れ』の考え」と、計画推進の立場に変わりはないと強調した。

 とはいえ、在日米軍専用施設の74%が集中する沖縄県内で米軍基地を「たらい回し」する辺野古への移設では、基地負担に苦しむ沖縄県民にとって抜本的な負担軽減にはつながらない。

 首相はなぜ、普天間飛行場の国外・県外移設を提起しなかったのか。米大統領の「懸念」を理由に県内移設を強行するなら、失うものの方が大きい。

 日韓の首脳会談では、昨年末の慰安婦問題に関する合意を着実に履行することを確認した。

 韓国政府が被害者を支援する財団を設立し、日本政府が十億円を拠出することで合意した。朴槿恵政権は十三日の総選挙終了後、本格的に動きだす見通しだ。

◆慰安婦被害者の理解を

 存命の元慰安婦は四十四人。韓国政府は二月初めまでに二十人から意見を聴取し、うち十六人が日韓合意を評価したという。支援団体と行動を共にする元慰安婦たちは聴取に応ぜず、日本政府に謝罪と国家賠償を求めている。

 韓国世論は日韓合意に反対論が多いが、元慰安婦の平均年齢は九十歳に近く、残された時間は多くはない。まず韓国政府が被害者たちと向き合って財団設立に理解を求めてほしい。同時に日本側も面会などを通じ、謝罪といたわりを伝える努力が必要だ。

 

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