ローカル線6年半ぶり運行再開 しかしまだ喜べぬ現実 JR東海・名松線

1便あたり乗客3人、復旧費用17億 名松線を待ち受ける現実

 ただ名松線には、大きな課題があります。

 運行が再開された家城~伊勢奥津間は山あいを行く人口減少が進んでいる地域で、1987(昭和62)年に約430人だった1日における同区間の利用者は、2008(平成20)年には約90人とおよそ8割も減少。そして被災後、家城~伊勢奥津間で運行されていた列車代行バスは、被災前の鉄道時代よりさらに少ない1日およそ30人、1便あたりでは3人程度の利用になっていました。

 また被災前の2008年、名松線は全体で年間およそ7億6000万円の赤字。同線は昭和40年代から「赤字83線」「特定地方交通線」として廃止の対象になってきましたが、並行道路が未整備だったことから存続した経緯があります。しかし現在では代行バスが問題なく運行されていたように、道路の改良が進展しました。

名松線はかつて並行道路の未整備で廃止を免れたが、現在は整備が進行している(画像出典:JR東海)。

 今回の復旧に要した費用は、三重県と津市が合計で約12億円、JR東海が約4億6000万円です。

 災害から復旧したものの、わずか10年程度で廃止になった例があります。長崎県を走る島原鉄道の島原外港~加津佐間は1990年代、雲仙普賢岳の噴火で被災。復旧するも、利用の低迷などから2008年に廃止されました。

 福島・新潟県を走るJR東日本の只見線など、自然災害で被災したまま利用者の少なさ、費用から具体的な復旧のメドが立っていない鉄道路線も複数あります。

 また、2016年度の廃止が予定されている留萌本線(JR北海道)の留萌~増毛間は、1列車あたりの乗客が約3人です。

「復活した名松線を、生活路線としてのみならず、沿線の観光資源を活かしてひとりでも多くの方に利用していただきたいです。そうして人が増えてきて初めて、『復旧して良かった』といえると思います」(JR東海・柘植康英社長)

 名松線の利用者を増やすため、沿線自治体や市民団体が現在、クルマで来て列車に乗ってもらう「パークアンドライド」やレンタサイクルの整備、懐かしいボンネットバスの運行といった取り組みを実施中です。また終点の伊勢奥津付近は伊勢本街道の宿場町で、いまもその風情が残ります。

 今後どれだけ利用者を回復できるか、復活して良かったと心から喜べるか、ローカル線の未来は関係者の「知恵と工夫」(JR東海・柘植社長)にかかっています。

【了】

Writer: 恵 知仁(鉄道ライター)

鉄道ライター、イラストレーター。「鉄道」や「旅」に関する執筆活動や絵本の制作を行っているほか、鉄道車両のデザインにも携わる。子供の頃からの旅鉄&撮り鉄で、日本国内の鉄道はJR・私鉄の全線に乗車済み。完乗駅はJRが稚内で、私鉄が間藤。メインは「鉄道」だが、基本的に「乗りもの」好き。

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