香港,地上テレビ局ATVの免許取り消しへ
香港特別行政区政府は4月1日,従業員への給料の遅配など混乱が続く地上テレビ局のATVについて,免許を更新せず2016年3月末で放送を終了させる決定を公表した。
ATVは1973年に開局し,TVBと共に広東語と英語の2チャンネルで放送を行ってきた。しかし1990年代以降,経営が悪化する中で,中国資本の傘下に入り,番組内容が“親中化”して人気の低下に拍車がかかった。最近は中国の江沢民元総書記の死去という大誤報で一層信用を失い,資金繰りの悪化でニュースの時間枠が短くなった他,2014年9月以降は社員への給料の遅配も起きて,離職する社員が相次いでいた。
ATVでは身売り先の選定を進めていたが,複数の買い手の中で,ATVのオーナーである中国本土出身の王征氏の提示する売却価格に応じる社はなく,業を煮やした香港政府が免許の不更新を決めたものである。
ATVの放送が終了した後,その地上波の帯域を誰が使うのかが問題になるが,香港政府はまず公共放送のRTHKに使用の可能性を打診した。しかしRTHKは現在,独自のテレビチャンネルを持っておらず,制作したテレビ番組はTVBとATVの放送枠の一部を使って行われている状態で,2015年度のテレビ番組制作時間(予定)も1,303時間にとどまっている。このためRTHKの組合から「十分な予算の裏付けもないのにATVの代役を務めるのは不可能」との反発が出ている他,業界関係者も「娯楽番組を提供できる商業局がTVBの1社だけでは十分な競争環境と言えず,これまでも長期にわたってTVBの事実上の独占状態に甘んじてきた広告主の不満が残る」と指摘している。
こうした中,商業事業者の間では,ATVの地上波の帯域に強い関心を示す動きが相次いでいる。このうち,2013年に無料テレビ免許の申請を香港政府に却下され,現在はネット上で動画コンテンツを配信しているHKTVは4月13日,ATVに対し,2015年末までテレビドラマなど毎日4時間分のコンテンツを提供し,広告収入を両社で分け合うとの提案を発表,1週間以内の回答を求めた。これに対しATVはHKTVの示した条件に不満を示し,交渉は不発に終わった。一方,2013年に既に無料テレビ免許を原則的に認可された有料放送i-CableとNOWBroadband TVの子会社は,それぞれ放送方式をカバー率がより高い地上波に切り替える申請を当局に提出,ATVが持つ地上波の帯域の継承に意欲を示した。さらにかつてATVの経営者だった故邱徳根氏の息子で,映画製作などを手掛ける実業家の邱達昌氏も,マカオのカジノ王スタンレー・ホー氏の娘の何超瓊氏らと共に会社を設立して15日,当局に無料テレビ免許の申請を行った。
しかし邱氏らの動きに対しては,HKTVの王維基オーナーと関係が良くないとされる香港政府の梁振英行政長官が,香港人に人気の高いHKTVの無料テレビ免許取得を阻止する企みの一環とする批判も上がっている。HKTVは2013年に無料免許の申請が却下されたことについて,裁判所に決定の是非の審査を求める申し立てをしていたが,香港の高等法院は2015年4月24日,「香港政府は1998年にテレビ局の免許交付について局数に上限を定めないとの政策を明らかにしている上,政策変更について事業者への十分な説明もなかった」として,HKTVの主張を原則として認める判断を出した。今後の香港政府の対応が注目される。