2014年4月の消費増税から間もなく2年がたつ。物価変動の影響を除いて比べるため国内総生産(GDP)統計の実質値を見ると、増税前の13年度に316兆円あった個人消費は14年度に307兆円に減った。「増税前の駆け込み需要の反動」と誰もが考えた。
14年度を下回る
だが個人消費はその後も戻らない。直近の15年10~12月期は年率換算で304兆円。14年度を下回る低空飛行が続く。
安倍晋三首相は22日に開いた国際金融経済分析会合にクルーグマン・プリンストン大名誉教授を呼んだ。首相が「日本は増税で消費が力強さを失っている。欧州ではそれほど影響がない」と話すと、クルーグマン氏は「どうして日本で悪い影響が出るのかよくわからない」と応じた。
考えられる低迷の理由は、大きく3つある。
まず「デフレ慣れ」だ。値下げに慣れきった消費者は増税と物価上昇で節約志向を一層強めた。所得のうちどれだけ消費に振り向けたかをみる消費性向は増税前に75%程度だったが、直近は72%に下がり、消費者の財布のひもは堅くなった。
97年の消費税率の引き上げ幅は2%だったが、14年は3%と上げ幅が当時より大きく、駆け込み需要も想定以上に大きかった。買いだめを一気にしたツケともいえる。
2つ目は、税や保険料支出の急増だ。毎年のように国民年金保険料や厚生年金保険料が上がり、介護保険料や健康保険料も上がっている。せっかく賃金が上がっても保険料の増加が打ち消してしまう。安倍政権の3年間で税や保険料支出は5000円近く増えたが、可処分所得は2000円強の伸びにとどまる。
第3に「消費喚起策」のはずの政策が需要を先食いした点だ。23日の記者会見で、石原伸晃経済財政・再生相は「家電エコポイントやエコカー減税が(需要の先食いに)結構効いている」と話した。耐久財消費は14年1~3月期に55兆円だったが、15年10~12月期は40兆円にとどまる。
サービスがカギ
石原経財相は「爆発的に買いたいようなものが出てくれば、消費は伸びる」と期待を込めた。しかし、ヒット商品は乏しい。大和総研の長内智エコノミストは「テレビや自動車の耐用年数が長くなり、高齢化で買い替えも起きにくい」と分析する。
消費者は節約一辺倒ではないかもしれない。15年の旅行や外食などサービス消費は171兆円と過去最高で増税後も堅調だ。モノからサービスに移る消費行動の変化をしっかりとつかむことが消費回復のカギを握る。
税率上げ、欧州は影響軽微
欧州では日本の消費税に当たる付加価値税を上げた後、個人消費が減らずに伸び続ける例も珍しくない。内閣府は主要国による2000年以降の全38回の税率の引き上げを分析した。6割にあたる24回は個人消費が増税後に落ち込んだが、4割の14回で増税後も消費は伸びた。
英国は10年1月に15%から17.5%に、11年1月に20%に引き上げた。引き上げた期の個人消費は前期より減ったが、次の期にはプラスに転じ景気全体への影響はさほど出ていない。
大和総研の長内氏によると、英国は食品などに軽減税率を適用しているほか「同じ5%上げでも5%と10%の違いは2倍だが、15%と20%は1.33倍」なので痛税感が軽くなるという。
イタリアの場合は11年9月に税率を20%から21%に引き上げた。リーマン・ショック後の税収の落ち込みや経済対策によって悪化した財政を立て直すためだったが、増税後に景気は後退局面に入った。景気の面からは増税の判断は適切でなかったとの見方もある。
日本の再増税も財政健全化と社会保障の充実、景気への影響、さらに衆参同日選をにらんだ難しい判断になりそうだ。