電力全面自由化 消費者は目を肥やそう
電気が、一般家庭にとってもお仕着せではなく、自ら選べる商品になった。
電力小売りが今月から全面的に自由化された。競争による料金値下げなどのメリットが期待される。それだけにとどめず、消費者が主体的な選択を通してエネルギー政策のあり方を考える契機にしたい。
大規模工場向けなどを対象にして2000年に始まった自由化は16年かけて家庭に及び、今回は残されていた約8兆円の市場が大手電力会社の地域独占から解放された。新規参入のため都市ガスや石油元売り、通信会社などが設立した電力会社(新電力)は260社以上に達する。
各社は割安料金や多様なサービスを競い、活発なPR合戦を展開して契約切り替えを促してきた。しかし消費者の大勢はまだ模様眺めだ。「電力広域的運営推進機関」によると、新電力に切り替えた家庭の契約は全国で約33万4000件(3月23日現在)。家庭の総契約数(約8500万件)の0・4%にとどまる。
割安料金のメリットが電力消費の多い家庭に偏っていたり、セットメニューが複雑だったりすることが、その要因らしい。切り替えた家庭も、9割近くは東京、関西両電力管内が占める。新電力の多くが、人口が集中する両地域を販売圏としているためだ。地方にも自由化の恩恵が行き渡るよう、競争を促進させる工夫が必要だ。
競争の本格化に備え、大手電力は原発の再稼働を急いでいる。温室効果ガスの排出量が多い石炭火力への依存も強めている。いずれも天然ガスなどに比べ、燃料費が割安なため競争に有利と考えるからだ。
しかし、安さばかりが会社選びの基準ではないだろう。多少割高でも再生可能エネルギー中心といった電気の「素性」で選びたいという消費者もいるはずだ。しかし政府が電源構成比の表示を義務化せず、各社の努力目標にとどめたため、公表している会社は少ない。
再生エネの供給量自体が少ないこともあり、電源構成比をアピールできる会社が限られることは否めない。それでも、積極的な公表で選択肢を示してほしい。
政府は30年時点の全発電量に占める電源の割合を再生エネ22〜24%、原子力20〜22%、石炭火力26%などとする計画を立てている。原発に依存し続けることを意味するが、この計画は消費者の声をほとんど反映していない。
そうした現状に風穴を開けるためにも、消費者は会社を選ぶ目を肥やしたい。安全や環境にも目配りした選択が電力会社の意識を変え、エネルギー政策に消費者の声を反映させることにもつながるはずだ。