「保育園落ちた」の匿名ブログをきっかけに再燃した待機児童問題に対応し、政府は緊急策をまとめた。小規模保育所の定員拡充などが柱だが、保育士の処遇改善には触れず、踏み込みが足りない。
緊急策は、待機児童の多い都市部での規制緩和を柱とする。▽ゼロ〜二歳児を預かる小規模保育所の定員を十九人から二十二人に増やす▽保護者が緊急時などに利用できる「一時預かり」を保育所が見つかるまでは定期利用できるようにする−など。自治体の裁量で国の設置基準よりも手厚く保育士を配置している認可保育所に対しては、定員枠を増やすように求める。
新年度を前に子どもの預け先が見つからず、困っている親があふれた。少しでも受け皿を増やそうとした応急策とはいえ、これでは根本解決に結び付かない。
今でも国の基準は甘すぎて、保育士一人が担当する子どもの数が多い。自治体が独自に職員を加配するのも安全に配慮するからこそ。それなのに緊急策は子どもを詰め込み、保育士の負担を増やそうとする。いつまで続くのかも示さない。保護者や保育士からは「保育の質が低下する」と不安視する声も聞こえてくる。
抜本的には国の基準を満たした認可保育所の増設が欠かせない。一方で、保育士不足が壁になっている。保育施設を増やそうとしても保育士が集まらない。
保育士の給与は他業種に比べて低く、資格を持ちながら現場で働いていない人は七十万人以上とみられる。政府は保育士の待遇改善を急ぎ、そのための財源を優先的に確保すべきだ。五月に「一億総活躍プラン」をまとめる予定で保育士の待遇改善策を盛り込むと明言した。民進、共産、社民、生活の野党四党は保育士給与を月五万円引き上げる法案を国会に共同で提出した。夏の国政選挙を意識して競い合いもあるだろう。
政府は保育ニーズを誠実に把握すべきだ。厚生労働省は昨年四月時点で認可保育所の入所待ちをする「待機児童」は二万三千人と公表したが、実は「潜在待機児童」が六万人いると塩崎恭久厚労相が国会で認めた。やむなく認可外に入っていたり、親が育児休業を延長したりしている場合は待機児童に数えられていなかった。
付け焼き刃の施策を重ねても問題は解決しない。保育を必要とする人が誰でも安心して利用できるように。質量ともに根本的な受け皿作りに全力を注ぐべきだ。
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