こんにちは、集英社ジャンプ jBOOKS編集長の浅田貴典です。いつもは面白い本を勧める、という姿勢でやっているのですが、今回は違います。ただ、ただ、浅田はコレが好きでした、というだけの文章になります。
3月23日にお亡くなりになられた小山田いく先生の『すくらっぷ・ブック』です。
『すくらっぷ・ブック』は1980年から1982年にかけて「少年チャンピオン」に連載されました。長野県小諸市の「市立芦ノ原中学校」における主人公たち・2年7組の卒業までの2年間の学園生活を描いた作品です。
雑に言うと篠原健太先生の『SKET・DANCE』の超先輩作品です。
メインの主人公は3人。
柏木春
市野清文
坂口光明
それぞれ世話焼きな美術部、理論派のサッカー部、豪放磊落な柔道部という、3人組です。彼らを中心にして、一話読切形式で101話つむいでおります。
浅田が、この作品を好きなポイントを3つ上げさせてください。
1:クラスメート全員が主人公!
恋愛あり、ギャグあり、シリアスあり。中学生が直面する色々なテーマ、恋愛、友情、すれちがい、おせっかい、先輩後輩、夢、勉強、試験、クラブ活動などなどを丁寧に、誠実に描いています。
<2年7組の生徒たち>
このクラスメイト全員に、必ず一回は焦点が当たります!
勉強ができる子、運動が得意な子、モテる子、友達の多い子、もしくはその逆…いろいろな個性を持った少年少女が、大人と子供の狭間で、ひたすら正面から問題に向き合っていきます。その誠実さが、とても好きです。
2:作中で主人公達が中学校2年生に進級したばかりの4月から卒業までの2年間を、実際に約2年(1980年4月 - 1982年3月)の連載期間をかけて描き上げている!
その結果描かれるものは、もちろん「成長」です。当時、季節にもシンクロしていろんな物語が紡がれていました。それが浅田にとって、本当にキャラクターたちが「居る」ものとして、血肉、リアリティを持った存在にさせていたのです。
3:大人が問題を解決しない。
浅田が最大に好きなのは、ここです。
当時、武田鉄矢さんの「金八先生」、水谷豊さんの「熱中時代」、山下真司さんの「スクール☆ウォーズ」などの学園テレビドラマが絶大な支持を集めていました。それに対して、浅田はそこまで乗りきれなかったのです。
これらのドラマは大人の導きによって、問題が解決します。それが嫌でした。
浅田は子供でした。子供は子供なりに、いろんな問題に直面して七転八倒していただけに、大人に手を差し伸べられたくなかったのです。おまえは弱くて未熟だ、と哀れまれた気がしたのです。だからこそ、すくらっぷ・ブックの登場人物が、自分の力で迷い、傷つき、挫折しても、問題を乗り越える姿に共感していました。
この作品に出てくる大人たちは、基本的に子供を「見守ります」。それが素敵だったのです。
繰り返しですが、今回は「書評」ではありません。浅田の感情の吐露でしかありません。もし、その感情で、みなさんが『すくらっぷ・ブック』を読みたいと思っていただけたなら、嬉しいです。
残念ながら、この作品はアマゾンではPOD(プリントオンデマンド)でしか手に入りません。電子書籍はeBooksJapanなど一部電子書店でのみ手に入ります。これをキッカケに幅広いプラットフォームで手に入るようになって欲しいです。
最後に最終回で、担任教師の正木が最後のホームルームで、生徒たちに言った言葉を転載します。
「3年間いろんなことがあった。
思い出したくないことだってあるだろう…
けど それもいつかはみんななつかしい思い出になってしまう。
いや,思い出になればいいが,忘れちまうことのほうが…多いんだ。
だけどさみんな…この友達のことだけは忘れないでくれよ。
友達一人について一つの場面だけでいい!しっかり覚えていてくれよ。
一人一人の一場面を写真みたいに…
新聞の切り抜きみたいに心の中に残しておけ!
それを『芦ノ原中学時代』っていう題のスクラップ・ブックにはっておけ!
そうすればいつでも…あの時は…って思い出せる。
どんな思い出もおまえらの”愛すべき命の断片”には違いないんだからな。
そしてその思い出をこれからの自分に生かしていけ!
思い出はなつかしむだけにあるんじゃないぞ
未来をよりいいものにするためにあるもんだ」
この漫画に出会わなければ、浅田は漫画編集者になっていませんでした。ありがとうございます、小山田先生。
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