追悼・小山田いく先生。青春グラフィティの金字塔『すくらっぷ・ブック』

浅田 貴典2016年03月30日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

こんにちは、集英社ジャンプ jBOOKS編集長の浅田貴典です。いつもは面白い本を勧める、という姿勢でやっているのですが、今回は違います。ただ、ただ、浅田はコレが好きでした、というだけの文章になります。

3月23日にお亡くなりになられた小山田いく先生の『すくらっぷ・ブック』です。

すくらっぷ・ブック1巻 (小山田いく選集3)
作者:小山田 いく
出版社:復刊ドットコム
発売日:2006-07-10
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

 『すくらっぷ・ブック』は1980年から1982年にかけて「少年チャンピオン」に連載されました。長野県小諸市の「市立芦ノ原中学校」における主人公たち・2年7組の卒業までの2年間の学園生活を描いた作品です。

雑に言うと篠原健太先生の『SKET・DANCE』の超先輩作品です。

SKET DANCE 1 (ジャンプコミックス)
作者:篠原 健太
出版社:集英社
発売日:2007-11-02
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

 メインの主人公は3人。

柏木春

 

 

 

 

市野清文

 

 

 

 

坂口光明

 

 

 

 

それぞれ世話焼きな美術部、理論派のサッカー部、豪放磊落な柔道部という、3人組です。彼らを中心にして、一話読切形式で101話つむいでおります。

浅田が、この作品を好きなポイントを3つ上げさせてください。

1:クラスメート全員が主人公!

 

恋愛あり、ギャグあり、シリアスあり。中学生が直面する色々なテーマ、恋愛、友情、すれちがい、おせっかい、先輩後輩、夢、勉強、試験、クラブ活動などなどを丁寧に、誠実に描いています。

 <2年7組の生徒たち>

 

 このクラスメイト全員に、必ず一回は焦点が当たります!

 


勉強ができる子、運動が得意な子、モテる子、友達の多い子、もしくはその逆…いろいろな個性を持った少年少女が、大人と子供の狭間で、ひたすら正面から問題に向き合っていきます。その誠実さが、とても好きです。
 

2:作中で主人公達が中学校2年生に進級したばかりの4月から卒業までの2年間を、実際に約2年(19804 - 19823月)の連載期間をかけて描き上げている!

その結果描かれるものは、もちろん「成長」です。当時、季節にもシンクロしていろんな物語が紡がれていました。それが浅田にとって、本当にキャラクターたちが「居る」ものとして、血肉、リアリティを持った存在にさせていたのです。 

3:大人が問題を解決しない。 

浅田が最大に好きなのは、ここです。
当時、武田鉄矢さんの「金八先生」、水谷豊さんの「熱中時代」、山下真司さんの「スクール☆ウォーズ」などの学園テレビドラマが絶大な支持を集めていました。それに対して、浅田はそこまで乗りきれなかったのです。

これらのドラマは大人の導きによって、問題が解決します。それが嫌でした。

浅田は子供でした。子供は子供なりに、いろんな問題に直面して七転八倒していただけに、大人に手を差し伸べられたくなかったのです。おまえは弱くて未熟だ、と哀れまれた気がしたのです。だからこそ、すくらっぷ・ブックの登場人物が、自分の力で迷い、傷つき、挫折しても、問題を乗り越える姿に共感していました。
この作品に出てくる大人たちは、基本的に子供を「見守ります」。それが素敵だったのです。

繰り返しですが、今回は「書評」ではありません。浅田の感情の吐露でしかありません。もし、その感情で、みなさんが『すくらっぷ・ブック』を読みたいと思っていただけたなら、嬉しいです。

残念ながら、この作品はアマゾンではPOD(プリントオンデマンド)でしか手に入りません。電子書籍はeBooksJapanなど一部電子書店でのみ手に入ります。これをキッカケに幅広いプラットフォームで手に入るようになって欲しいです。

 最後に最終回で、担任教師の正木が最後のホームルームで、生徒たちに言った言葉を転載します。

 


  「3年間いろんなことがあった。
思い出したくないことだってあるだろう…
けど それもいつかはみんななつかしい思い出になってしまう。
いや,思い出になればいいが,忘れちまうことのほうが…多いんだ。
だけどさみんな…この友達のことだけは忘れないでくれよ。
友達一人について一つの場面だけでいい!しっかり覚えていてくれよ。
一人一人の一場面を写真みたいに…
新聞の切り抜きみたいに心の中に残しておけ!
それを『芦ノ原中学時代』っていう題のスクラップ・ブックにはっておけ!
そうすればいつでも…あの時は…って思い出せる。
どんな思い出もおまえらの”愛すべき命の断片”には違いないんだからな。
そしてその思い出をこれからの自分に生かしていけ!
思い出はなつかしむだけにあるんじゃないぞ
未来をよりいいものにするためにあるもんだ」

 この漫画に出会わなければ、浅田は漫画編集者になっていませんでした。ありがとうございます、小山田先生。

 

すくらっぷ・ブック1巻 (小山田いく選集3)
作者:小山田 いく
出版社:復刊ドットコム
発売日:2006-07-10
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

 

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

電子版も発売!『ノンフィクションはこれを読め! 2014』

HONZ会員登録はこちら

人気記事