写真・福田光睦
TOCANA

 今回は大島てる流の《事故物件の見抜き方》を聞いてみた。

――いろいろなところで事故物件の見抜き方をお話ししているてるさんですが、その中で、まだ語っていないものはありますか?

大島「まだお話ししていないもので、ひとつ少し込み入ったものがあります。事故物 件というのは売買であれ賃貸であれ、マンションであれ一戸建てであれ、なんでもあるわけです。それこそ、駐車場やお店やホテルなども。ただ、テレビなどではやはり大前提として賃貸物件ということで企画が進むことが多いので、『これは関係ない』と省いている見抜き方のポイントがあります」

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――なるほど。では、主に不動産売買に関する見抜き方ということですね。

大島「はい。日本の不動産には『登記』という制度がありますが、ご存じですか?」

――はい、なんとなくですが。

大島「土地や建物は大切な財産ですが、ダイヤの指輪などとは違って、肌身離さず持ち歩いたり金庫にしまったりできませんよね。別荘も普段誰もいないからといって、落とし物というわけではないですね? だから、『この家は誰それの持ち物です』などということをみんながわかることができるような制度が必要ということになります。そうでないと、買ったり売ったりする際にもとても困ってしまいます。ちなみに、船についても大きなものなら登記の制度があります」

――船にもあるんですね。

大島「ところで、戸籍というものについてはよくご存じだと思います。他人の戸籍の情報って普通は入手できないですよね? プライバシーが守られているからです。でも、不動産について、誰が所有者であるかといった情報は、安全な取引のためには絶対必要ですから、誰もが調べられるようになっているわけです。もちろん手数料はかかりますが…。

 この仕組みのおかげで、『私がこの土地の所有者です。あなたが買うなら代金は私に払ってください』と言われたときにいちおう調べることができるわけです。そして、登記簿には、現在の所有者が誰であるかだけでなく、その人がいつ前の所有者から買ったかなどの履歴が記録されているのですが、買った場合だけでなく、いつ誰から相続した、いつ誰から財産分与してもらったといったことも書いてあるわけです」

――えーっ! そんなところまでが土地の登記書類に…。

大島「そうです。それって結果的には、いつ死んだかとか、離婚したのかとかがわかるようなものですよね?

 例えば、おじいさんが亡くなって息子が土地を相続したというのであれば、そのおじいさんが亡くなった日付が書いてあるんです。でも、ここからが大事なのですが、稀に『推定』だとか『●日頃』だとか『●月日不詳』と書いてあることがあるんですよ。それが何を意味するかと言いますと、そのおじいさんが亡くなった日がよくわからないということなんです。もし、その人の戸籍の書類を見ることができたら、そこにも同じことが書いてあるはずですよ」

――実質的に、土地を所有している人の、戸籍謄本の一部を見られるようなものなんですね。

大島「遺書があればかなり絞れますし、他にもいろいろな材料から判断することはできるんです。いついつ以降の日付の新聞が取り込まれず郵便受けに溜まっていただとか。時間が経てば経つほど推定が困難になってきますが。ちなみに、大晦日や元旦あたりに死んでしまうと、没年が確定できないということもあります」

 それで、「頃」などと記載されるというわけだ。

大島「今、お話ししたことは必ずしも大家や地主に限ったことではなくて、マイホームを持っているみなさんについても同じことが言えるんですよ。ですから、中古マンションや中古戸建ての売 買の際に、売り手である現所有者は当然生きている人間ですが、『どういう経緯でそのマンションなり戸建てなりを持つに至ったのか?』がわかるというわけです。

 相続の年月日がはっきりしないという場合なら、孤独死の後、たとえば、絶縁状態だった子どもが遺産を処分しようとしているのでは?などと想像することができるのです。

 ただ、これは『いつ死んだかわからない』ということを意味しているだけなので、 もしかしたら富士樹海で死んですぐには発見されなかっただけかもしれないし、昨年のマレーシア航空の墜落事故みたいなことになっているだけなのかもしれない。

 普通に病院で、あるいは自宅で看取られて亡くなったら、『頃』とか『推定』とか『不詳』といった表現にはなりません。いつ亡くなったかわからないなんてあり得ないですよね?そうでない場合にそのような表現になる。ただし、亡くなった現場について何かがわかるわけではありません。他の情報と組み合わせて考えなければならないということです」

――ダブルチェック、トリプルチェックが必要だということですね。

大島「そうです。ただ、『かなり怪しい』ということはご理解いただけると思います」

――物件を買う時には、必ずやるべきだと?

大島「そう思います。賃貸物件だと今の話は関係ないのですが、マンションや戸建てを買う場合はじっくり読むべきだと思いますね。実際、ちょっと前に某番組で芸人さんと『事故物件で一晩過ごす』という企画があったんですが、そのロケの物件が独り暮らしのお年寄りが孤独死していたというマンションだったんです。自殺でも殺人でもなく、火事でもなくて、孤独死なので、『事故物件ではない』と言い張る業者も結構いるんですが、グロいことになっていたのは間違いないんですよ。 ウジが湧いたり、悪臭がしたり、シミが残っていたり。特殊清掃の業者さんが掃除した後だったのですが、リフォームしたわけではないので、シミなんかはあるわけですよ。フローリングは取り替えられていなかったですから。スタッフさんが床を手で擦ったら『うわっ…』っという悪臭がしました」

――えーっ…。

大島「犬のふんでも、乾燥したら臭くなくなっても、中の部分をほじくり出したら臭いですよね。それと同じような感じでした。それはともかく、その部屋の登記情報を後日確認してみたら、案の定『平成27年3月日不詳相続』と書 いてありました。月はわかるけれども、日にちまではわからない。上旬か中旬か下旬かすらわからないという意味です。これは結構グロいケースだなと思いましたね」

――ところで、そういったロケーションってどうやって押さえるんですか?

大島「その点はスタッフさんが毎回苦労されていまして、この時もスタッフ総 出で探したそうです。ただ、だいたい傾向がわかってきまして、今お話ししたような中古の売買物件なら協力してくれる業者さんが多いようなんですよ」

――そうなんですか!

大島「なぜかというと、今誰も住んでいなくて、『●千万円の物件がこんなに安くなっています』と宣伝できるならと考えるからです」

ーー事故物件だってことが知れ渡ってるんだったら、逆にそれをアピールした方が商売として動く可能性があると いうことですね。

大島「全員がそう考えるというわけではないですが、最近はそういうところもチラホラありますね。あと、番組の構成上、そこに実際に今住んでいる人をインタビューしたいということになりますが、賃貸物件だと、住人がOKでも大家がNGという場合が多くて…。どうしてわざわざ大家の許可をもらいに行くのかわかりませんが(笑)。売買物件なら大家が別にいるわけではないので、その点、関係者の人数が少なくなるわけです。

 ちなみにホテル、たとえばラブホテルなんか事件が多いわけですが、チェックアウト時刻を過ぎても音沙汰なしだというだけで客室係がすっ飛んで来ますから、腐ったり、いつ死んだかわからないということにはなかなかならないんです。死臭がしたり虫が湧いたりということにはならないですから、物理的なダメージは浅いんです」

 意外なことに、痴情のもつれから起きるラブホテルの殺人など、衝撃的なニュースの方 がクリーンな状態で、静かな孤独死の方が、事故物件としてはダメージが大きいのである。

大島「ちょっと込み入った話なので、サクッとは説明できないですよね。イベン トでなら、実際に登記事項証明書の実物をスクリーンに映して説明するんですけど。不動産関係のお客さんなんかは面白がってくれますが、一般の方はどうなんでしょうかね」

 ちなみに、登記情報は1件数百円程度で確認できるとのこと。これならば確かに、「やらないほうが おかしい」というレベルの話である。
(取材・写真=福田光睦/Modern Freaks Inc. 代表)

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