電力の小売りが、きょうから全面自由化される。一般の家庭でも、電気をどこから買うか選べるようになり、8兆円規模の市場が新たに開放される。

 当面の話題は、「どの会社の契約が得か」に向きがちだ。思ったほど選択肢がなく、期待はずれに感じる人も少なくないだろう。事業者や行政には一層のサービス向上を求めたい。

 大きな電力改革の流れから見れば、今回の自由化は通過点にすぎない。制度やインフラなどの整備にはなお時間がかかる。

 価格への注目は当然だが、そこにとどまらず、電気の使い方と選び方を家庭で考える機会としたい。自分の使う電気の源は何かを出発点に、暮らしを支えるエネルギーのあり方に関心を深めていくことが大切だ。

 3月末までに小売り登録を済ませたのは約270社。ガス、石油といったエネルギー企業のほか、鉄道、通信、放送などのインフラ産業、商社や再生可能エネルギー関連会社、地域主導の「ご当地電力」など多彩な顔ぶれがそろった。

 ただ、新規参入が多いのは都市部中心で、地域的な偏りが大きい。また、営業の的は、電気の使用量が多く、利益が見込める世帯向けに絞られている。

 どんな電源から調達しているか、電源構成についての情報公開も今回の改革では努力義務にとどまった。選びたくても情報が乏しければ困る。法制化は今後の重要な検討課題だ。

 企業向けでは、新電力5位の日本ロジテック協同組合が必要な電力を確保できず、破産手続きに入るなど、自由化の負の側面もあらわになった。競争に淘汰(とうた)はつきものだが、混乱を避ける手立ての充実が求められる。電力の売買がやりやすい卸売市場の活性化も急務だろう。

 なにより、2020年には大手電力がもつ送配電網の分離・中立化(発送電分離)が予定されている。その履行を着実にしなければならない。再エネ普及を促し、電気料金を抑えるためには、誰もが公平に接続できる送配電網が不可欠だからだ。

 大手電力の間には、発送電分離への抵抗感がなお強い。既得権が温存されないよう、新設された規制機関だけでなく、消費者もしっかり監視し続ける必要がある。

 福島第一原発事故まで、日ごろから電源に思いを巡らせる人は多くなかっただろう。だが電気を自由に消費する社会と原発のリスクは表裏一体の問題だ。自由化を機に、一人ひとりが電力市場を形づくる参画者であることを自覚したい。