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どうして女性騎手は苦戦するの?JRA女性ジョッキー、菜七子で4年3か月ぶり勝利

スポーツ報知 3月31日(木)10時33分配信

 3月24日、競馬の世界に新たな歴史が刻まれた。JRAで16年ぶりの新人女性ジョッキー、藤田菜七子騎手(18)=美浦・根本厩舎=が浦和競馬3Rをアスキーコードで逃げ切り、中央・地方合わせて36戦目で初勝利。JRA女性騎手の勝利は、11年12月1日に牧原(現増沢)由貴子騎手が荒尾で挙げて以来、実に4年3か月ぶりだった。女性騎手を取り巻く現状や活躍することの難しさについて探った。(石野 静香)

【写真】ピンクのムチを手に、調教に騎乗した藤田菜七子

 現在JRAに所属している133騎手のうち、女性ジョッキーは藤田のみ。過去を見ても6人しかいない。人数が少ない最大の理由は、男女が同じフィールドで勝負するスポーツだからだ。ほとんどの競技は男子と女子は種目として分かれているが、競馬は男女が同じレースに騎乗する。

 女性騎手には、まず筋力面の差が大きな問題となる。JRA競馬学校では男子生徒と同じ筋力トレーニングを女子に課している。人を肩に乗せてスクワットしたり、足を使わずに綱を登ったりと過酷な訓練で、藤田は「フィジカルトレーニングが一番つらくて、何回か学校を辞めようかなと思った」と競馬学校時代を振り返っている。

 藤田の師匠で、87年のダービー(メリーナイス)を制した元騎手の根本康広調教師(60)は「体を追い込み過ぎるな、といつも言っている。硬い筋肉はいらない。女性特有のしなやかさと柔軟性が必要だ」と語る。力ずくではなく、ソフトに乗って馬の力を引き出すという考え方。「体に合った乗り方」(根本師)を教えている。

 藤田は自らの持ち味を「馬への当たりの柔らかさ」と話す。特に気を付けているのがハミの取り方。ハミとは馬にかませる金具のことで、手綱を引くと抑えが利く仕組み。「あまり強く引かずに、柔らかく、ゆっくり引くイメージで乗っています。ただ柔らかくするだけでは馬は走っていってしまうので、柔らかい中にも強く抑えないといけない。馬によっても違うので難しいんですけどね」。力の差を騎乗技術でカバーしようとしている。

 根本厩舎には藤田の他に、丸山元気(25)、野中悠太郎(19)の若手騎手2人が所属している。藤田との育て方の違いについて、2人の娘の父でもある根本調教師は「女の子はふさぎ込むと良くないので明るく接している。いつもスマイルでね」と気遣う。競馬場では女性騎手控室で一人になってしまうのを防ぐため、女性が多く働くバレット(馬具や鞍を用意する騎手のサポート役)の部屋に菜七子が出入りできるよう、トレーナー自ら要請した。

 藤田が騎乗する競馬場には、毎回100人を超える報道陣が集結。テレビでも特集が組まれ“菜七子フィーバー”を巻き起こした。過去にない盛り上がりを見せたのは、久々の女性騎手という理由だけではない。「僕がこの世界に入った昭和46(1971)年と比べて、競馬はグンとクリーンなイメージになったし、競馬サークルで働く女性も増えていったからじゃないか」と根本師。女性の活躍を進める今の社会も後押ししたのではないだろうか。

 美浦トレセン内の乗馬苑で藤田を教えていた角野南海男元教官(57)は、体重の軽い若手女性騎手が結果を出すことの大変さを強調する。JRAのレースでは、キャリアが浅い若手騎手には負担重量(騎手、勝負服、鞍などの総重量)が軽減される減量特典があり、菜七子騎手も中央の平場(特別以外のレース)では通常より3キロ軽い斤量で乗れる。

 だが、重賞を含む特別レースでは周りと同じ斤量で乗ることになる。例えば定量戦で57キロの場合、体重が45・6キロと軽い菜七子は約12キロ(鞍などを含む)の「死んだおもり」(角野さん)を背負わなければならない。死んだおもりとは「動かない」おもりのことで、「量るとどちらも57キロだけど、体重が53キロの人と47キロの人だったら、6キロ差があるから、6キロ分なまりを背負わなければいけない。『生きたおもり』ならば体が動くから、バランスで軽く感じさせることができるけど、『死んだおもり』はあくまでも6キロは6キロの重さ。それが馬の背中には負担がかかる」と角野さんは説明する。

 そもそも、若手の減量特典についても、角野さんは「減量が利くレースで勝つよりも、減量を持てないレースでいかに勝負できるかが大事。そうなれば『乗れる』と認められて、多くの馬に乗せてもらえる」と話す。体重が軽めの若手女性騎手が勝つことは容易ではないのだ。

 ◆藤田 菜七子(ふじた・ななこ)1997年8月9日、茨城県生まれ。18歳。幼い頃からピアノ、英会話、水泳、空手を習い、空手は初段、剣道は二段の腕前。小学6年生から美浦トレセンの乗馬苑に通う。同期より一足早く3月3日に川崎競馬でデビュー。中央のデビュー戦でいきなり2着に入り、JRA所属の女性騎手で最高着順をマークした。目標は、昨年、短期免許で13年ぶりにJRAで騎乗したママさんジョッキーのリサ・オールプレス(ニュージーランド)。家族は両親と弟。157.4センチ、45.6キロ。血液型A。

最終更新:3月31日(木)14時28分

スポーツ報知

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