首相「日米同盟強化」、野党「違憲、廃止を」
安倍晋三首相は29日午前の参院予算委員会で、同日施行された安全保障関連法について「廃止すれば日米同盟の絆は大きく毀損(きそん)される」と述べ、同法廃止を掲げて夏の参院選での協力を進める民進党や共産党などをけん制した。一方、この日も全国各地で抗議集会が予定され、安保関連法を有権者がどう評価するかが参院選の行方を左右する情勢になっている。
参院予算委で首相は、北朝鮮による2月の弾道ミサイル発射に日米が協力して対応したことを挙げ、「日米の情報共有体制を構築する面でも、はるかに協力は進んだ」と表明。その時点では安保関連法は施行されていなかったが、法整備が日米同盟の強化に貢献したと強調した。
安保関連法の施行に伴い、日本と密接に関係する他国への攻撃によって日本の存立が脅かされる「存立危機事態」で、集団的自衛権として必要最小限度の武力を行使できるようになる。他国軍への後方支援や国際協力活動でも自衛隊の任務は拡大した。
ただ、平時の米艦防護や、国連平和維持活動(PKO)で離れた場所にいる他国軍部隊を救助する「駆け付け警護」など、自衛隊の新たな任務の実施を政府は参院選後に先送りした。中谷元(げん)防衛相は29日午前の記者会見で「隊員への周知徹底を図り、部隊を通じてさらに検討する作業を慎重に実施している」と説明。「基本的には自衛隊の任務、役割が大きく変わるものではない」と述べた。
民進党など野党は、集団的自衛権の行使容認や自衛隊による他国軍の後方支援拡大が憲法9条に違反すると批判してきた。社民党の福島瑞穂副党首は29日の参院予算委で「憲法違反の法律は廃止するしかない。多くのみなさんと廃止に全力を挙げる」と主張した。
民進党の枝野幸男幹事長は、民主党当時に共産党などと国会に共同提出した廃止法案の審議入りを与党に要求する構えをみせている。共産党の山下芳生書記局長は28日の会見で「戦後初めて、自衛隊が海外で殺し殺される現実的危険が迫っている。国政選挙で厳しい審判を下したい」と述べ、参院選で争点化する方針を重ねて示した。
こうした野党の主張に対し、中谷氏は29日の会見で「『戦争法』と言われるが、戦争を抑止し、平和を維持するための法律だ」と反論。安保関連法を巡る与野党の対立が続いている。
岸田文雄外相は会見で「米国、欧州、アジアなど多くの国々から支持、歓迎されている」と述べ、首相と各国首脳の会談などを通じて安保関連法は国際的に評価を得ているとの見方を示した。ただ、国内では同法への批判が根強い。石破茂地方創生担当相は会見で「理解が国民全体に広がるにはさらなる努力が必要だ」と指摘した。【野口武則、飼手勇介】