多種多様な個性が息づく社会とは

2016年03月31日 07:10

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大瀧靖峰弁護士(フロンティア法律事務所、東京弁護士会所属)

「障害者の権利に関する条約」(権利条約)は、2014年1月の批准により、同年2月19日から日本においても効力が発生することになりました。それにともない、制定された差別解消法、雇用促進法が、2016年4月1日から施行されます。

私の友人である、大瀧靖峰弁護士が『Q&A障害者差別解消法』野村茂樹・池原毅和【編】(生活書院)を共著にて上梓しました。本書は、身近な障害者差別に関する事例をこれらの問題に取り組んできた弁護士がQ&A方式で分かりやすく解説したマニュアル集です。今回は、一部を引用しQ&A方式で差別解消法について事例を紹介したいと思います。

●差別解消法とはどのようなものか

次のようなケースがありました。皆さまはどのように判断されますか?

Question
私には精神障害があります。行きつけのネットカフェを利用していたところ精神障害者手帳を落としてしまいました。そのことが起因してお店側が「他のお客さんに迷惑をかけたりトラブルを起こす可能性があること」を理由にして以降の入店ができなくなりました。これは差別でしょうか。

Answer
差別解消法では、障害を理由とする不当な差別的扱いを禁止しています。仮にネットカフェのような民間事業者であってもこれは違法です。差別的な取扱いは、正当な理由がある場合は差別には当たりません。正当な理由とは障害を理由とする拒否が「客観的に見て正当な目的の下におこなわれたものであり、その目的に照らしてやむを得ないと言える場合」に認められます。違法な差別であれば慰謝料などの損害について賠償を請求することができます。このような場合は弁護士や監督官庁である警察庁の相談窓口に相談する方法もあります。

次は別のケースです。皆さまはどのように判断されますか?

Question
私には聴覚障害があります。ある有名な温泉地の旅館に宿泊したいと思いFAXで聴覚障害があることを伝えて予約しようとしたところ、緊急時の安全が確保されないとの理由で宿泊はお断りするとの返事がきました。これは差別でしょうか。

Answer
旅館が宿泊客を拒否することができるのは、客が伝染病の場合、客が賭博や違法行為をしそうな場合のみです(旅館業法5条)。仮にエボラ出血熱の流行していた国に滞在していた履歴があったとしても、それだけでは宿泊の拒否が正当化されることはありません。差別解消法では障害を理由とする不当な差別的扱いを禁じています。よって本件は差別的扱いにあたります。このケースは差別であるため、旅館に抗議して宿泊させてもらうように交渉することが可能です。また違法であることから慰謝料などの損害について賠償を請求することができます。また監督官庁である警察庁の相談窓口に相談する方法もあります。

ここで紹介したQ&Aは大瀧弁護士の事例を分かりやすく整理したものです。差別解消法の意義や仕組みが理解できるのではないかと思います。しかし差別解消法の目的は、障害のある人もない人も分け隔てることなく、共に学び共に働き共に地域で暮らすインクルーシブな社会を目指すことを目的にしていることを忘れてはいけません。

●各自治体の取組み等について

本記事のタイトルである「多種多様な個性が息づく社会」は富山県の条例です。「障害のある人の人権を尊重し県民が共にいきいきと輝く富山県づくり条例」からの引用です。同様に障害者を尊重する条例は各都道府県で制定されています。その一部を紹介します。

・障がいのある人もない人も共に学び共に生きる岩手県づくり条例
・障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例
・障害のある人もない人も共に生きる熊本づくり条例
・障害のある人もない人も共に生きる平和な長崎県づくり条例

このように障害者を交えた社会システムの考え方は、かなり浸透してきているといえるのだと思います。しかし現実的には障害を理由とする差別が残っていることも事実です。

いま多くの企業で障害者採用の取組みがおこなわれ浸透してきています。しかし一般の採用枠とは別に障害のある人のみを対象とした障害者採用がおこなわれている実態があります。一般の採用枠に障害者を受け付けないとすればこれは機会の平等を毀損していることになります。労働条件等に隔たりが存在するようであれば差別と判断される場合もあるでしょう。また採用後に障害者でない者との間で差別的扱いをすることも禁じられています。そのような観点から鑑みれば、現在、多くの企業で実施している一般の採用枠と異なる障害者の別コース採用は差別解消法になじまないと判断することもできます。

最後に、編者である野村茂樹弁護士の一文を引用しまとめとします。「裁判例や立法活動などの積み重ねによって、社会モデルの考えが社会に浸透し、ひいては、障害のある人もない人も個性がいきいきと輝く、共に学び共に働き共に暮らす平和な平等社会が実現されることを願って止みません。」

追伸

大瀧弁護士は障害者支援に造詣が深い弁護士です。日弁連の「障がい差別禁止法特別部会」のなかでは、「障がいのある人の権利と施策に関する基本法改正案」(現行の障害者基本法の改正案)という日弁連案の草案作成にも関わっています。僭越ながら障害者支援をはじめとする様々な社会貢献活動に敬意を表します。

尾藤克之
コラムニスト

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