2012年08月09日

◆ ネアンデルタール人との混血はなかった

 現生人類とネアンデルタール人との混血はなかった、ということが科学的に判明した。その証拠を示す。 ──
    ( ※ 本項の実際の掲載日は 2012-09-01 です。)

 
 私はすでに、次の仮説を示した。
 「ネアンデルタール人との混血はなかった。かわりに、アフリカのネグロイドが、ネアンデルタール人との共通遺伝子を失っただけだ。そのせいで、非ネグロイド系の人々が、ネアンデルタール人との共通遺伝子を持っているように見える。それだけのことだ」


  ネアンデルタール人  ネグロイド  非ネグロイド
    ●▲■       ●△□    ●△□
     ↓         ↓      ↓
    ●▲■       ○△□    ●△□


     ネグロイドと非ネグロイドは、ネアンデルタール人との共通遺伝子 ● を持っていた。ところが、ネグロイドは時間の経過とともに、共通遺伝子 ● を失った。(かわりに変異遺伝子 ○ をもつようになった。)一方、非ネグロイドは、共通遺伝子 ● を持ち続けた。
     結果的に、ネアンデルタール人と非ネグロイドだけが、 ● を持ち続けた。つまり、別に、両者が交配したわけではない。
 ──

 この仮説が正しいことが、科学的に実証された。その証拠は、次の論文だ。
  → A Draft Sequence of the Neandertal Genome

 実を言うと、この論文は、「ネアンデルタール人と現生人類は、共通遺伝子があるがゆえに、両者は混血した可能性がある」と示した、元の論文である。
 その論文は、当時は無償公開されていなかったが、今では無償公開されているので、上記で読める。で、これを読むと、趣旨とは正反対の事実が読み取れる。つまり、「ネアンデルタール人と現生人類は、共通遺伝子があるがゆえに、両者は混血した可能性がある」と語っていながら、そこで示された遺伝子の事実は、「混血はなかった」ということを示しているのである。

 この論文には、次の文章がある。
 Thus, the gene flow between Neandertals and modern humans that we detect most likely occurred before the divergence of Europeans, East Asians, and Papuans. This may be explained by mixing of early modern humans ancestral to present-day non-Africans with Neandertals in the Middle East before their expansion into Eurasia.

(拙訳)というわけで、ネアンデルタール人と現生人類の間にわれわれが検出した遺伝子流動は、欧州人、東アジア人、パプアニューギニア人の分離が起こる前に生じた。このことは、非アフリカ系の初期の現生人類が、ユーラシアに拡大していく前に、中東でネアンデルタール人と混血したということで説明されるだろう。
 この箇所が問題だ。特に、第1文と第2文との関係が重要だ。
(第1文)ネアンデルタール人と現生人類の間にわれわれが検出した遺伝子流動は、欧州人、東アジア人、パプアニューギニア人の分離が起こる前に生じた。
(第2文)このことは、非アフリカ系の初期の現生人類が、ユーラシアに拡大していく前に、中東でネアンデルタール人と混血したということで説明されるだろう。

 ここで、第1文は問題ない。しかし、第2文はきわめて疑わしい。本当に、第1文から第2文が結論できるのか? 
 まず、論理的に考えてみよう。欧州人、東アジア人については、第2文によって第1文は説明される。次のように。
 「中東で混血が起こった。その後、北方に出た人々は欧州人となり、東に出た人はアジア人となった」

 問題は、パプアニューギニア人(オーストラロイド)だ。彼らは中東で混血したのだろうか? いや、そんなはずはない。前出項目で私が示したように、オーストラロイドは、1度目の出アフリカのあと、次の経路をたどったはずだ。
  アフリカの角 → アラビア半島南岸 → インド → 東南アジア

   → スンダ大陸とサフル大陸 → オーストラリア


 彼らは、アラビア半島の南岸沿いに東へ向かったのだ。つまり、中東は通らなかったのだ。とすれば、中東で混血する機会はなかったのだ!

arabian.gif
Google 地図


 では、その仮説が間違いだったのだろうか? オーストラロイドは、アラビア半島南岸を通って東に向かったのではなく、中東にいたのだろうか? そこでネアンデルタール人と混血したのだろうか? その場合には、次の奇妙な理屈となる。
 「オーストラロイドは、中東にいて、ネアンデルタール人と混血した。その後、東に向かうと、イラクとイランの間の山脈に行く手を阻まれたので、海に出て、オマーン湾経由で、インドに向かった。その際、中東にいたオーストラロイドは、すべて消えてしまった。一方、オマーン湾のすぐ先では、オーストラロイドと古モンゴロイドの混血ふうのドラヴィダ人が大量に残っていて、のちにインダス文明を形成した」
 ここでは、「中東にいたオーストラロイドがまったく痕跡を残していない」ということが、どうにも説明不可能となる。これを説明するとしたら、次のシナリオしかありえない。
 「中東ではコーカソイドが、先住民であるオーストラロイドを大量虐殺して、人っ子一人残さないようにした。それほどにもコーカソイドは残虐であり、かつ、コーカソイドはオーストラロイドに対して圧倒的に優位な文明を持っていた」
 だが、これは成立しない。こんなことは、ただの与太にすぎない。とうていありえないことだ。(5万年ぐらい前に圧倒的な軍事力のある文明が発達していたことなど、ありえない。)
 とすれば、論理的には、次のことが真実だ。
 「中東にはオーストラロイドは存在しなかった」
 つまり、こうだ。
 「オーストラロイドは、中東経由でインドに向かったのではなく、アフリカの角からアラビア半島南岸を通ってインドに向かった」
 真実はこれしかありえない。
 しかしながら、この通りだとすると、次のことは成立しないことになる。
 「中東でオーストラロイドとネアンデルタール人が混血した」
 これは成立しないのだ。中東は通らなかったのだから。
( ※ そもそも、オーストラロイドが中東になかったからこそ、コーカソイドは中東の多大な領域を占めて、欧州に出ることもできたのだ。)

 結局、オーストラロイドは中東でネアンデルタール人と混血する機会はなかった。とすれば、オーストラロイドには、ネアンデルタール人との共通遺伝子があるはずがない。
 ところが、オーストラロイドには、ネアンデルタール人との共通遺伝子があるのだ。そのことは論文に示されている。
 To analyze the relationship of the Neandertals to a more diverse set of modern humans, we repeated the analysis above using the genome sequences of the French, Han, Papuan, Yoruba, and San individuals that we generated (SOM Text 9). Strikingly, no comparison within Eurasia (Papuan-French-Han) or within Africa (Yoruba-San) shows significant skews in D (|Z| < 2 SD). However, all comparisons of non-Africans and Africans show that the Neandertal is closer to the non-African (D from 3.8% to 5.3%, |Z| > 7.0 SD) (Table 4). Thus, analyses of present-day humans consistently show that Neandertals share significantly more derived alleles with non-Africans than with Africans, whereas they share equal amounts of derived alleles when compared either to individuals within Eurasia or to individuals within Africa.
 ここで示されているように、オーストラロイド(Papuan)は、他の非アフリカ人(French, Han)と同様の数値を出しているのだ。

 以上をまとめると、次のようになる。
  ・ 地理的考察では、オーストラロイドは混血したはずがない。
  ・ 遺伝子の数値では、オーストラロイドは混血したはずだ。

 こうして、矛盾にぶつかる。

 ──

 結局、あちらが立てば、こちらが立たず。通常は、「遺伝子の数値が正しい」というふうに判断するのだろうが、そうすると、地理的考察と矛盾する。次の説を採るしかなくなる。
 「オーストラロイドは、中東に行ってから、完全に追い出されたか、完全に虐殺された。そのせいで、今では中東にはオーストラロイドがまったく残っていない」
 しかしこれは、ありえないことだ。仮に、イラクあたりの一地域でオーストラロイドが一掃されるということはあるにしても、中東や欧州にかけての全領域でオーストラロイドが痕跡一つ残さずに一掃されたということはありえない。どう考えても、「ここにはもともとオーストラロイドがいなかった」と考えるしかない。しかし、そうすれば、「ネアンデルタール人との混血があった」という遺伝子データとぶつかる。

 というわけで、どうにもならない形になって、行き詰まる。
 そのことが、この研究からわかったことだ。

( ※ 仮に、「中東で混血があった」とするならば、「中東を通らなかったオーストラロイドには、ネアンデルタール人との共通遺伝子がなかった」という数値を出す必要がある。ところが、数値はそうではなかった。だから、遺伝子の数値から、「中東で混血があった」という説は否定されるわけだ。)

 ──

 というわけで、「中東で混血があった」という説は、破綻する。となると、残るのは、冒頭の仮説しかない。つまり、こうだ。
 「ネアンデルタール人との混血はなかった。かわりに、アフリカのネグロイドが、ネアンデルタール人との共通遺伝子を失っただけだ。そのせいで、非ネグロイド系の人々が、ネアンデルタール人との共通遺伝子を持っているように見える。それだけのことだ」

 論理的には、これしかありえないのである。
 そもそも、「現生人類とネアンデルタール人とが混血した」という「異種間交雑」は、ありえない。仮に少数の例外があるとしても、ユーラシア大陸全体に(ほぼ均一の)影響を及ぼすほどの大規模さで「異種間交雑」があったはずがない。
 それに加えて、今回の遺伝子の調査(オセアニアのオーストライドもまた共通遺伝子をもっていたこと)から、「中東で混血があった」という仮説は、矛盾を起こして破綻してしまうのだ。
 つまり、現生人類とネアンデルタール人との混血はなかった、ということが科学的に判明したわけだ。

                  (証明終)



 【 追記 】
 ネグロイドや、コーカソイド・モンゴロイドでは、大規模な遺伝子消失が起こった。( → 前項 (7)
 では、このような大規模な遺伝子消失が起こったのは、なぜか? 

 それは別に、特別な理由は必要ない。それらは、古人類からホモ・サピエンスへの進化にともなって、必要とされなくなった遺伝子(中立な遺伝子)であるからだ。そのような遺伝子は、ホモ・サピエンスにおいては、あってもなくてもいい。だから、ある種の集団では、遺伝子の消失が起こった。
 このような大規模な遺伝子の消失が起こることは、一見、意外に思えるかもしれない。しかし、意外ではない。そもそも、種の進化が起これば、不要となる遺伝子が数%ぐらい出現するのは、当然のことだ。
 ただし、その数%にことさら着目すれば、「どうしてこれらは消失したのだろう?」と疑問に思えるのだろう。しかし、いちいち疑問に思う必要はない。これらの遺伝子が消失したことに特別の理由があったわけではない。もともと進化にともなって、遺伝子の数%ぐらいは不要となるのが当然なのだ。そして、不要となった遺伝子は、そのまま残ることもあるが、消えてしまうことも多い。ただし、一部の集団(メラネシア人など)では、たまたま残らずにいることもある。すると、それを見て、「これらの集団では混血によって新たに遺伝子が獲得されたのだ!」と勘違いする人が出てくるわけだ。 

 実は、論理的には、そのどちらも成立する。論理ではなくて、科学的にどちらが正しいかは、次のことによって論証される。
 「その遺伝子は混血によって急激に拡大するほど、ホモ・サピエンスにとって有益であったか?」
 これは科学的に成立しない。なぜなら、もしそれが正しいとすれば、過去において喪失したはずがないからである。ま、一つや二つの例外はあるかもしれないが、大量に起こるはずがない。「いったん喪失した遺伝子が、あとになって混血で獲得される」というような現象は、ごくわずかな例外を除けば、ありえないのである。
( ※ たとえば、人間が類人猿の形質を多く失ったのは、それが不要な形質だからだ。その形質をあとになって混血によって再獲得するということは、ありえない。ごく例外的な少数の例はあるかもしれないが、大量に起こるはずがない。もし起こるとしたら、そもそも失うはずがないからだ。)
 


 [ 付記1 ]
 どちらの仮説が正しいかを知るための、決定的な方法がある。次のことを調べればいい。
 「ネグロイドに、ネアンデルタール人の遺伝子の『残骸』があることを確認する」
 混血説に従えば、ネアンデルタール人の遺伝子はまったく存在していないはずだ。
 私の説に従えば、ネアンデルタール人の遺伝子が存在したあとで、その遺伝子が無効化したことによる残骸が残っているはずだ。それはいわゆる「偽遺伝子」である。遺伝子の大部分は残っているのだが、遺伝子の発現のスイッチが消えている。さらには、もともとの遺伝子の塩基の多くの部分が置換されてしまって、スカスカの状態になっている。それでも、かつてはその遺伝子があったことを窺わせる残骸が残っているはずだ。
 このような残骸(偽遺伝子)を確認することは、そう容易ではない。普通の方法では困難だろう。ただし、全ゲノム検査のような方法を使えば可能だろう。それがうまく見出されれば、決定的な証拠となるあろう。

 [ 付記2 ]
 もう一つ、比較的容易に判定が付く方法がある。次の方法だ。
 「エチオピア人は、アフリカ人と非アフリカ人の、どちらに分類されるか?」
 つまり、エチオピア人の遺伝子を調べて、古人類(ネアンデルタール人やデニソワ人)との共通遺伝子の有無を調べる。
  ・ 共通遺伝子あり → 非アフリカ人と同様
  ・ 共通遺伝子なし → ネグロイドと同様

 これを調べる。そして、仮説と照合する。
  ・ 混血説が正しい → ネグロイドと同様
  ・ 私の説が正しい → 非アフリカ人と同様

 こうして、はっきり区別される。
 
 私の説ならば、こうなるはずだ。
 「エチオピア人の遺伝子は、非アフリカ人の遺伝子と同様のはずだから、古人類との共通遺伝子を持つ」
 混血説が正しければ、こうなるはずだ。
 「エチオピア人の遺伝子は、ネグロイドの遺伝子と同様のはずだから、古人類との共通遺伝子を持たない」
 どちらが正しいかは、これで決着が付くはずだ。さっさと調べてもらいたいものだ。

 ※ 
 ついでに、ベルベル人の遺伝子を調べてもいい。
  → ベルベル人 (北アフリカの先住民であるコーカソイド)
 


 【 関連項目 】

→ 原人との混血はあったか?
  「ネアンデルタール人との混血があったすれば、原人との混血もあったはずだ。しかしそれはありえない。ゆえにネアンデルタール人との混血はなかった」という話。
posted by 管理人 at 19:00| Comment(3) | 生物・進化 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんな報道が。

>デニソワ人のゲノムを現生人類(ホモ=サピエンス)と比較したところ、パプアニューギニアの個人の遺伝子は、比較した他の現生人類よりもデニソワ人との共通遺伝子が多く、大まかな傾向として、デニソワ人の対立遺伝子は、ヨーロッパ人集団と比較してアジアおよび南アメリカの人類集団で多く認められた
>現代人(の祖先集団)がデニソワ人から直接遺伝子を受け継いだのではなく、デニソワ人の近縁であるネアンデルタール人(ホモ=ネアンデルターレンシス)と現生人類との交雑によるものと考えられる
>デニソワ人のゲノムにおける対立遺伝子のなかに、現生人類では褐色の肌・髪・眼と関連しているものがあることが確認されました。
>こうしたデニソワ人と現生人類とのゲノム比較により、現生人類に特有の遺伝的変化を(その全てではないにしても)一覧で示すことも可能になりました。

デニソワ人のゲノム配列
http://sicambre.at.webry.info/201209/article_4.html
Posted by ヒルネスキー at 2012年09月06日 20:23
貴方の説ですとネグロイドには固有の共通祖先が存在し、非ネグロイドにも固有の共通祖先が存在し、人類は両者の共通祖先からネグロイドと非ネグロイドに別れ、その後ネグロイドの共通祖先はネアンデルタールと共通の遺伝子を喪失した。
私はネグロイドの共通祖先から分岐した人類の一部が非ネグロイドと理解しています。貴方の説は遺伝子学的にはありえない説と思います。
Posted by takitamasao at 2014年02月27日 11:31
> 私はネグロイドの共通祖先から分岐した人類の一部が非ネグロイドと理解しています。

 そうではないという話を、本項以前のシリーズで詳しく説明しています。本項以降でもいろいろと書いています。まずは私の話を詳しく読んでください。
 話の一部だけを囓っても、矛盾があるように見えるのは、当り前です。相手の話に疑問を感じたら、相手が何を言っているのか、まずは読みましょう。相手の話を読まないで批判しても仕方ありません。

 なお、項目一覧を見るには、「生物・進化」カテゴリの、この日のあたりの項目を見ればわかります。(2012年夏ごろの項目。カテゴリ内。)
 単純に「前項」や「次項」を追っていっても読めます。

 ──

 簡単に言えば、「現代人とネアンデルタール人が混血したことはありえない」という前提から、「ネグロイドの共通祖先から分岐した人類の一部が非ネグロイド」という定説は否定されます。どういうふうに否定されるかは、お楽しみ。
 遺伝子的にはそれしかありえない、ということがわかりますよ。
 だいたい、デニソワ人との遺伝子差はものすごく大きいと判明しているのに、その混血があったと考える方が非科学的です。
 http://openblog.meblog.biz/article/20015516.html
Posted by 管理人 at 2014年02月27日 12:08
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