落合陽一、映像と物質の次は「音のハック」に挑戦か:CREATIVE HACK AWARD 2015グランプリ受賞インタヴュー

「CREATIVE HACK AWARD 2015」でグランプリに輝いた、筑波大学大学院助教の落合陽一。彼が応募作品を通して挑んだのは、映像と物質の既成概念をハックすることだった。そして早くも彼の頭のなかには次の構想が浮かんでいるようだ。

PHOTOGRAPHS BY KIMIKO NAKAHARA
TEXT BY HIROKI MARUYAMA

「CREATIVE HACK AWARD 2015」グランプリを受賞した作品、「Fairy Lights in Femtoseconds」。

映像と物質という関係性をハックし、更新する。触覚ある映像は物質と区別がつかない。フェムト秒(10の-15乗秒)の単位でプラズマを発火させ、空中に浮かせています。このプラズマという現象は、本来はとても危険なものです。しかし、フェムト秒程度の一瞬であれば、その触り心地を確かめられます。ここで我々が狙っているのは、通常のメディア装置の発想で視覚に属すると思われているような光を、触覚的に味わうことです。私たちは光には視覚が、音には聴覚が対応すると考えがちですが、それはテクノロジーが規定してきた条件に過ぎません。現代のテクノロジーは光が触覚を操ることを可能にしているのみならず我々の受容器の写像としてのメディア装置の存在を覆そうとしています。我々はこの作品によって映像と物質というパラダイムの間にあるもの、新たな魔法的表現によるハックを可能にしました。

──落合陽一

──改めまして、「CREATIVE HACK AWARD 2015」のグランプリ受賞おめでとうございます!

ありがとうございます。2015年のCREATIVE HACK AWARDは全体的にすごくクオリティーの高いコンペだと感じました。共同研究者の熊谷くんや星先生にも感謝です!

──14年の作品もご覧になっていたのですか?

毎年見ていますよ。15年はぼくの研究室の学生さんが応募すると言って、「先生は出さないの?」って聞くから出してみたんです。

──普通、“先生”はあまりアワードに応募するものではないと聞きましたが?

そうなんです。普通は遠慮して学生さんだけにやらせるんですけど、それもちょっとしゃくだから、勝負してみようと思ったんです(笑)。ぼくの元指導教官の東大の暦本純一先生も、前にどこかのハッカソンに自分で応募してグランプリとって賞金もらっていたから、そういうのもあってもいいかなと思ったのです。

──最近、ほかのアワードには応募されていました?

他薦ですが、「WORLD TECHNOLOGY AWARD」っていうアメリカの大きな賞をもらいました。それをもらったときは正直驚きましたね。だって過去の受賞者にインテル創業者のゴードン・ムーアとかがいるんですよ! 「そこにオレが混ざってていいのかな」と思いました。あとは「ASIA DIGITAL ART AWARD」は学生さんが応募したらよさそうだなと思ってみんなに出させて、ついでにオレも出したら受賞しちゃいました(笑)。

──どうして今回の受賞作品をCREATIVE HACK AWARDに出そうと思ったのですか?

ここ2年くらい「映像と物質ってどうやって越えられるのか」という課題に取り組んでいるので、既成概念をハックするというCREATIVE HACK AWARDのお題に合っていると思ったからです。

──2015年11月に出版された著書『魔法の世紀』に書かれている内容にも近い話ですね。

そうです。「どうやったらこれから3次元の時代になるか」ということを考えていくときに、紙とペンの役割をするものをつくろうということです。

──もう少し具体的にお願いします。

つまり、紙には色を書く道具があったわけですが、そうではなくてプラズマで書くとか、モノを浮かべて書くとか、そういうような「3次元的に映像のメタファーを行える装置とは何だろう」って考えたのです。物質は時間と空間には分解できますが、どちらか片側しかできないんですよ。解像度を高くするか、時間性を切って3次元を2次元にするか。でも次元数の話にはいきたくなかったから、解像度とエネルギーの話でいこうと思って、フェムト秒レーザーに挑戦したのです。

──次元数にいきたくなったのはなぜですか?

次元数だとこの現実空間にあるものって、モノになってしまったら、もう駄目なんですよ。例えばレコードは2次元体に1次元情報が乗っているじゃない? 動かないもので記録できる次元数って、大体「3」が限界なんですよ。そっちにはいきたくなかった。だから4次元分の情報をつけるにはホログラムをつくるしかなくて、それをつくるためにフェムト秒レーザーで再生するような方向に行くことにしたのです。

落合陽一︱Yoichi Ochiai
メディアアーティスト、研究者。1987年東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学博士課程修了。筑波大学大学院助教。デジタルネイチャー研究室主宰。ものを動かす概念を変え、現実世界の書き換えをするべく光、電場、空気場、音、磁場、電波、超伝導といった「場」のコントロールを研究領域としている。『WIRED』日本版VOL.22(2016年4月9日発売)では、CREATIVE HACK AWARD 2015グランプリ受賞の副賞として実施されたCREATIVE HACK TOUR「ロンドンのクリエイティヴシーン探訪」の模様が掲載される予定。96ochiai.ws

──今回の作品はどのように既存概念をハックしているのですか?

映像みたいに出てきて、だけど物質みたいに触れられるものがつくれたという意味において、映像と物質の概念をハックしていると思っています。

──「映像は触れないもの」というのが映像の既成概念の部分ですか?

そうですね、あと「物質は触れるけど動かないもの」が物質の既成概念です。そのどちらでもないものはどうやればつくれるか、「モノがなくても触れて光るみたいなものとは何だろう」って考えたわけです。最近それに対する俺の中での答えは空気なんです。空気って人間が生きている限り空間に絶対あるものなので、「空気をどうメディア化するか」という課題はかなり興味があります。空中に触覚をつくることも全部空気を構造化している話なんですよ。

──これからはどんな作品をつくっていきたいですか?

2016年は音が出ると思います。

──音は何に注目しているのですか?

最近ヴィジュアルをいっぱいやってきたから、次は聴覚を21世紀風にしたいなという思いがあります。

──音に反応して何かが動く…とかということですか?

いやそうではなくて、音そのものをつくるプロセスを変えたいなと思っています。

──では2016年のCREATIVE HACK AWARDの応募も楽しみにしています!

いやあ、さすがに2年連続で応募するのはちょっとためらいますね(笑)。

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──ところで、グランプリの副賞として贈呈された液晶ペンタブレットCintiq 27QHD touchは、いまどのような使い方をされているのでしょうか?

研究室に置いてあります。いままではイラストをiPadなどのタブレットで書いてパソコンに転送していたのですが、そのプロセスが簡略化されたので助かっています。製図と実装みたいな…研究者っぽい構図になりました。

──もし「CintiqをHACKせよ」という課題が出たとしたら、どのようなことをされますか?

液晶画面をもっと油絵っぽい質感につくり変えたいですね。光る色じゃなくて自然光の反射光でできた装置になったらもっとテンション上がりますね。そういう現実の物質感のある描画表現ももっとやっていきたいです。

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