餓死にもつながる生活保護停止ー生活保護受給者のギャンブル行為を感情論で判断してはいけないー

生活保護受給者とギャンブル

3月18日の読売新聞によれば、大分県は別府市・中津市がパチンコなどのギャンブル行為をおこなう生活保護受給世帯への生活保護の停止・減額措置に対して、是正要請をおこなった。

生活保護受給世帯がギャンブルをおこなうことを理由に、生活保護の停止・減額をしてはならないと要請したのである。

これらの是正要請を受けて、両市は新年度から処分を行わない方針を決めた。

両市の福祉事務所のケースワーカーが管内のパチンコ店などを見回り、生活保護受給者が店内にいた場合は、指導や生活保護上の処分をおこなってきたが、これらは今後おこなわれなくなる。

一連のギャンブル行為をおこなう生活保護受給世帯への福祉事務所の関わりが物議を呼んでいる。

今回の騒動を整理したい。

まず生活保護受給者はギャンブル行為をおこなってはいけないのか。

生活保護法には第60条に「被保護者は、常に、能力に応じて勤労に励み、自ら、健康の保持及び増進に努め、収入、支出その他生計の状況を適切に把握するとともに支出の節約を図り、その他生活の維持及び向上に努めなければならない。」と規定されている。

ギャンブル行為はこの節約を図り、その他の生活の維持及び向上に努めていないものといえるかもしれない。

だから、同法第27条には「保護の実施機関は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる。」と規定している。

そして同法62条には「被保護者は保護の実施機関が、(中略)必要な指導又は指示をしたときは、これに従わなければならない。」と規定されている。

そのため、生活保護受給者に対して、「ギャンブル行為をするな」という福祉事務所による指導・指示が行われるならば、この措置に従わなければならないと解釈できるだろうか。

ここは今回の大きな争点である。

一方で、同法27条2項には「指導又は指示は、被保護者の自由を尊重し、必要の最少限度に止めなければならない。」とされており、なおかつ同法27条3項には「被保護者の意に反して、指導又は指示を強制し得るものと解釈してはならない。」という規定もある。

生活保護受給者には当然自由があり、それを尊重しなければならないし、指導や指示は意に反して強制してはならない。

ではギャンブルをする自由は認められるのだろうか。

生活保護法にはギャンブルを禁止する明確な規定はない

要するに、生活保護受給者だからこれをしてはいけないという具体的な禁止行為はない。

市民と同じく、公共の福祉に反しない限り、何をするのも自由である。

決して生活保護受給者は市民より劣り、生活上の制限があるような二級市民ではない。

結論からいえば、ギャンブルをするのも自由であろう。当然、どのような生活をしても構わない。

ギャンブル依存症者とケースワーク(個別援助)

しかし、ここで考えなければならないことは、生活保護受給者がなぜギャンブルをするのか、ということである。

生活保護法には「生活保障」と「自立助長」によって、生活保護受給者にケースワーク(個別援助)をおこなうことが規定されている。

2つめの自立助長がここで問題となるのだ。

ギャンブル行為を繰り返す場合、一般的にはギャンブル依存症が強く疑われる。

要するに、治療が必要な病者である。その病者に対して、福祉事務所は必要な指導・指示を検討しなければならない。

それはギャンブルをするなという助言やそれに違反した場合の保護の停止や廃止が適切なのだろうか。

今回問題となったのはその処分が適切ではなく、ケースワークを通じた自立助長をおこなう必要があるという見解だろう。

だから大分県の是正要請は当然であり、厚生労働省も同様の見解といえる。

病者を追いつめるよりも本来のケースワークをおこない、適切な支援をするべきだということだ。

両市の福祉事務所には、責め立て、注意して処分するのではなく、ケースワークとして彼らの何を支援したのかという問いが立てられるべきである。

これはギャンブル依存症者に限らない。

アルコールや薬物依存、様々な理由で困窮する人々が助言や支援を求めてこられるのだから、事情を考慮して適切な指導・指示でよりよい生活に導いていくことが福祉事務所の役割だといえる。

是正要請を受けた福祉事務所には、法の趣旨に則った原点回帰が求められるだろう。

これらの理由を考慮することなく、生活保護の停止や廃止を恣意的におこなってしまえばどうなるだろうか。

おそらく餓死や孤立死が頻発してしまうに違いない。

それだけではなく、一部では窃盗や強盗、無銭飲食などを繰り返し、犯罪をしなければ食べていけない人々が現れてしまうかもしれない。

そのため現在の生活保護法は、無差別平等の原理を掲げている。

同法2条に「すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護を、無差別平等に受けることができる。」と規定されている。

要保護性があれば、どのような理由で困窮に至ったとしても、その理由を問わずに保護をして、自立助長をするというものだ。

どのような者に対しても差別することはないという規定である。

困窮理由がギャンブルでも、事業失敗でも、DVや家庭内暴力の末の孤立であれ、前科があっても構わない。これは国民の生命や社会秩序を守る上で重要な規定であり、人類が到達した叡智だともいえる。

今回の事件は、生活保護法の趣旨や理念を正しく理解し、一時的な感情に左右されない冷静な判断を私たちに求めているといえるだろう。

(IRONNA掲載記事の転載より)IRONNA掲載記事