アプリの休眠ユーザを効果的に復帰させるための分析方法

データサイエンティストの佐藤真(Makoto Sato)です。

 最近新しいアプリを開発する費用はどんどん高騰しています。また広告を利用して新しいユーザを開拓するのにも時間が経つに連れ、獲得単価がどんどん上がっていきます。そこで、一度アプリをインストールしたにも関わらずアンインストールしてしまったユーザや起動しなくなってしまったユーザを呼び戻すための施策に注目が集まっています。実は、一度リリースしたアプリにとって休眠しているユーザにはかなりの資産価値があるからです。

アクティブユーザ数増加の施策で忘れがちな復帰施策。
自然に復帰するユーザに+αできれば、かなりの資産価値がある。

代表的な復帰施策にプッシュ通知がありますが、ユーザが通知をオフにしていたら届くことはありません。また、そもそもユーザがアプリをアンインストールしてしまったらこの方法は使えません。そこで、一度興味を持ったユーザにリーチするために、ユーザを特定して広告配信を行うリマーケティング広告の利用が有効です。モバイル端末単位に広告用に割り振られたID(IDFA/AAID)と行動履歴を蓄積したプライベートDMPとTwitter、Facebook、Googleディスプレイネットワーク(GDN)のようなIDを直接活用できる広告媒体を組み合わせます。この手法は、Webではリマーケティング広告と呼ばれ、他のターゲティング手法よりも効果が非常に高いと言われています。

リマーケティング広告は、コストの面でも大きなメリットがあります。たとえば、リリースから時間が経つと広告経由の一人あたりユーザ獲得のコストは、1,000円を超えることがあります。ところがクリック毎に料金の発生するリマーケティング広告の場合、一人あたり復帰ユーザ獲得コストが100円を切ることもあるのです。これは、現状「広告を見る→クリック→アプリ起動」という行動がそこまで浸透しておらず「広告を見る→ホームに戻る→アプリ起動」という行動が多くとられるためです。すなわち、露出(Imprssion)があればそれなりの効果が見込めるのです。

 復帰施策に踏み切る前にどれほどの効果があるのか分かれば話は早いのですが、現実ではなかなかその効果を予測することはできません。そこで、あるアプリにとって休眠ユーザにどれほどの価値がありそうなのか調べ、リマーケティング広告を利用した復帰施策を行う上でチェックすべき指標をご紹介したいと思います。

 

復帰までの流れ。ログインが途切れた時、離脱。
しばらく休眠期間があって再びログインした時、復帰。休眠期間中に復帰施策を打つ。

休眠施策の位置づけは休眠している既存ユーザに対するアクティブ化。

休眠ユーザとは?

休眠ユーザとは、アプリを起動しなくなってしまったユーザと定義します。たとえば、7日ログインしなかったユーザを7日間休眠ユーザと呼びます。私たちのデータによれば、7日間休眠ユーザが離脱してから30日以内にログインする割合は、平均で約2割でした。すなわち、7日間起動しなくなってしまったら8割のユーザは、再びそのアプリを起動することはありません。

7日休眠してしまうと30日以内に復帰するのは2割。
離脱後どのような施策を打つかがキモ。

なぜ休眠するのか?

施策を打って、ユーザが定着して、オモシロイと思って課金してくれるためには、アプリの質を上げることは絶対条件です。どこを重点的に改善するかという優先度を探る必要があります。離脱の要因は、ちょっとやってみたけどあんまり肌に合わなかった、なんか飽きてしまった、欲しいアイテムが手に入らなかった、などが考えられます。その傾向はインストールしてからの起動頻度、課金頻度を見ると推測できます。

たとえば、下記のような独自のセグメントを設定してユーザ数を確認すると当該アプリでどういうユーザが離脱可能性が高いか確認できます。

2つのアプリを対象に仮説に基づき3つのセグメント設定。
アプリXではアプリYに比べて「数日間起動後離脱」のユーザの割合が大きいです。これは、アプリの楽しさが十分に伝わりきらなかった、想定したターゲット層にリーチしていなかった、などなどの要因か。イベントフラグなどを利用してさらに深掘りも。

復帰ユーザの売上への貢献

実は、多くのアプリで売上の5~20%を休眠から復帰したユーザが担っていることがわかっています。もし休眠ユーザが十分に蓄積されているならば、新規ユーザの開拓よりも効率のいい場合もあります。復帰施策はこの割合を底上げしようというのも狙いの一つです。

売上の構成の平均。多くのアプリで復帰ユーザによる売上が全体の5~20%を占めている。この部分の底上げが施策の目的。

復帰施策の流れとそのまえに分析すべきこと

復帰施策の手法としてはアプリ内であればプッシュ通知、アプリ外であればオフライン・オンライン広告などがあります。復帰施策を行う前に分析すべきことは、大きく分けて

  • 施策対象ユーザ数の見積もり
  • 復帰後KPIの設定
  • コストの効率化

の3つとなります。

復帰施策の前に効果がありそうかどうか見定める。 

復帰施策対象のユーザ数の見積もり

どんなに継続率の高いアプリでも自然流入者の継続率は1ヶ月もすれば30%以下に落ち着いてきます。つまり1ヶ月経つと7割程度のユーザはアクティブでなくなっているということです。6ヶ月も経てばターゲティング対象になるユーザは、過去にインストールしたユーザの50%~90%にもなります。復帰施策に取り掛かる前に現在までの復帰施策対象ユーザ数を見積もって、すべての休眠ユーザの規模感を把握します。

リリースから半年経過平均70%が休眠ユーザ。継続率の高いアプリでも40%が復帰施策対象となる。おおよその値はアクティブユーザ数に対する総インストール数で確認できる。

そして何より大切なのは、対象となるユーザと接触できる媒体はどこなのかを発見することです。当たり前といえば当たり前なのですが、Facebookを使っていないユーザにはFacebook経由では広告を配信できません。 ユーザのIDを持っていても彼らが普段接触するメディアに広告を配信できなくては意味がないのです。このメディアを抑えておくことはリマーケティング広告を利用する上で非常に大切です。

IDを利用するためには対象ユーザが潜んでいる媒体を見つけるのが一番大事。

復帰施策のKPI

テレビCM、動画広告・記事広告などのPRメディア、そしてリマーケティング広告など複数の媒体を使って広告を行った場合、どの広告がどれほど効果があったかどうかを直接測ることはできません。アトリビューション分析などで要因を推定する方法もありますが、確実なものではありません。目的に応じた適切なKPIを設定し、その基準に達したかどうかで効果を測ることします。

KPIとしては、復帰施策の目的に応じて 

  • 復帰数が有意に増加しているか
  • 対象ユーザのDAUがどのように変化しているか
  • 対象ユーザによる売上が増えているか
  • 対象ユーザが定着しているか

などを設定します。

ここで大切なことは、CPC広告の場合、クリックによって復帰したユーザのみを効果の対象としては見なさないということです。というのも、復帰施策の成功はいかに露出を増やして施策対象のユーザに伝えたいことを伝えられたかということを測る必要があるからです。そこで、施策がうまくいったかどうかは対象のユーザの復帰数を、そしてアプリの改善がうまくいったかどうかはDAUを追うことによって確認することをおすすめします。

まずは認知され復帰に寄与したかどうかを確認したい。露出との相関を見れば広告との相性も測れる。

施策前のKPIの予測

KPIを対象ユーザが復帰後どれくらい課金してくれるかに設定するならば復帰後のLTVを見るといいかもしれません。復帰後LTVは7日以上休眠したユーザの経過日数ごとに総課金額を復帰ユーザ数で割った値です。たとえば100人が復帰して、この復帰ユーザが30日後までに50,000円分売上に貢献したら、復帰後30日LTVは50,000÷100=500円になります。このとき一人あたり復帰させるのに500円のコストまでは許容できることになります。

復帰施策を実施する前にこれを推定するためには自然流入のユーザの復帰後LTVを見てみます。復帰施策が成功したかどうかのベンチマークとして扱うことができます。また、復帰後の30・60・90日間のLTVをみれば、復帰ユーザ一人あたりにかけられるコストを見積もることができます 。

復帰後日数と復帰後LTVの関係の例。復帰ユーザの30日までの売上をユーザ数で割った値をLTV30と呼ぶ。LTV30が500円なら復帰ユーザ一人あたり500円かけても30日で回収できる。復帰施策を継続的に行う場合、長いスパンで見たほうがよい。

復帰後ユーザの定着率を図るためには復帰後7日目までの継続率の分布を見ます。5~7日目までの割合が多ければ多いほど、ユーザ数が定着してることになります。こちらも復帰後LTV同様、過去の自然復帰ユーザの分布をベンチマークとして取り扱います。

カジュアル系のアプリの場合は復帰後の継続率をKPIとするとよい。

コストの効率化

適切なセグメントを設定することで、より効率のよい広告配信を行うことができます。配信対象となるターゲットに応じてクリエイティブを出し入れするとより効果的かもしれません。

セグメントの切り方としては、

  • とりあえず全体を対象に広告を打ってみて、効果の高そうなセグメントの切り方を考察。あるいは、過去自然復帰のユーザのデータを分析してセグメントを設定
  • 考察した仮説に基づき、セグメントを切って広告を配信。結果に応じて配信強度を変更

以上のようなプロセスを回して効果が実感できるようになったら、機械学習とABテストやバンディットアルゴリズムの組み合わせを利用して自動化する方向を考えるのも手だと思います。

セグメント例。休眠前プレイ期間、休眠期間、休眠前ARPUでセグメントを切って、復帰後ARPU、FQ7の分布を確認。設定したKPIに対してもっとも効果的なセグメントの広告配信を強める。他にもイベント進捗やインストール日などでセグメントを切ることもできる。

さらに重要なのが設定したセグメントに対するクリエイティブの制作です。ユーザを特定して広告配信ができるので、セグメントと改善内容を的確に表現したクリエイティブを作る必要があります。ターゲティング広告では柔軟に配信対象のターゲットが変更できるため、制作→配信→A/Bテスト→分析のサイクルを高速で回すことができます。このサイクルを回し続けることがよりよい効率化につながります。

セグメントとクリエイティブの具体例。想定した離脱理由でセグメントを着ることでクリエイティブを出し分ける。ただし最初に出したものが正解とは限らないので運用コスト内でPDCAサイクルを回し続けることが重要。

まとめ

復帰施策は以前、アプリに接触のあったが長期間起動していないユーザに対してプロモーションを打つ手法です。一回でもインストールしてくれたユーザにもう一度アプリの良さを伝えるためにかなり有効な手段になりえます。アプリ復帰施策を進めるにあたり考慮すべきことは、以下のとおりです。

  1. ユーザ数の見積もり
    • 離脱ユーザデータの概観
    • 復帰対象数の確認
    • 対象IDがある媒体の発見
  2. 復帰後KPIの設定
    • なぜ離脱したか考察
      • アプリの改善ができているか確認
    • 復帰施策のKPIの設定
  3. コストの効率化
    • 仮説か実績からセグメントの(再)設定
    • セグメントに応じたクリエイティブの制作
    • 具体的な出稿プランの策定

ポイントとなるのは、対象IDが存在する媒体の発見と、どのような行動パターンで離脱したかという仮説をつくるところになると思います。私たちはユーザ行動を分析するためのデータ蓄積する環境とモデルを提供することができます。

もしご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。

 

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