今シーズンのフィギュアスケートも残すところあと1試合、世界選手権(3月30日~4月2日、米ボストン)だけになった。2月に開かれた四大陸選手権の男子は2014年ソチ冬季五輪銀メダリスト、パトリック・チャン(カナダ)がフリーで素晴らしいスケーティング技術を見せ、逆転優勝を飾った。シーズン当初から「今季の男子は見ていてワクワクする」と話していたプロスケーターの太田由希奈さんは、この大会で男子の新たな傾向が見えたようだと語った。
四大陸選手権の男子フリーの結果を見て、「納得」したフィギュア関係者は多かったかもしれません。「総合芸術としてのフィギュアスケートが評価されている」ということを証明する、チャン選手の勝利でした。
■これぞ、フィギュアスケート
チャン選手は、ショートプログラム(SP)でトップの金博洋選手(中国)から12.23点差の5位と大きく出遅れました。フリーでは最終滑走でしたが、その前に金選手が4回転ジャンプを4度、ミスなく決めて演技を終えていました。チャン選手の4回転ジャンプは2回のみ。それでも、昔から定評のあるスケーティングは本当に素晴らしく、技術的なミスもなく「これぞ、フィギュアスケート」といえる演技でした。ジャッジも技術面のGOE(演技の出来栄え点)と演技構成点で大きく報いました。
男女のフリーを現地で観戦しました。男子はレベルが高いだけでなく、会場が「非常にいい雰囲気」に包まれていました。1人がミスの多い演技をすると、他の選手がつられるように次々と失敗してしまう試合がありますが、今回はみんなが良い演技をするので「自分ももっとやれる」と気持ちが高まり、すばらしい相乗効果になっていました。
それに対して、ジャッジも的確な点数を出していました。今季はこれまでジャンプが得意な選手が優勢で、スケーティングが上手な選手でもジャンプの難度が低いとなかなか評価されず、苦しんでいました。そうした傾向を、チャン選手が今回のフリー演技で覆しました。誰も大きなミスをしない中での高評価ですから、重みがあります。本人も自信がよみがえったことでしょう。四大陸選手権の男子については、皆さんも「納得」と思えるような順位だったのではないでしょうか。
■男子、一段とミスが命取りに
それにしても、男子の試合はミスが命取りというか、大きく順位を落とす原因になりかねない状況になりました。SP2位ながらフリーは5位と、1.74点差で表彰台に届かなかった宇野昌磨選手(愛知・中京大中京高)の演技は、4回転ジャンプでミスがあったとはいえ、全体的には悪くはありませんでした。しかし、他の選手がほぼミスのない演技をしたため、4位になってしまったのです。プログラムに4回転ジャンプはトーループしか入れていない宇野選手は「4回転の種類を増やさないといけない」と策を講じていることと思います。
男子のトップ選手は1つのプログラムで4回転ジャンプを2度以上跳び、しかも複数の種類を入れるのが当たり前になっています。各選手とも持てる技術を最大限に出して勝負してきますから、見ている方は非常にスリリングですね。