産経記事「成人式で赤紙本当なのか」にツッコミたい
- 2016/03/31
- 00:23
要約
“【話題の肝】「成人式で赤紙が配られた」…ネットで拡散したウワサは本当なのか? (1/2ページ) - 産経ニュース” https://t.co/W0P4UJdeaU この記事は「風説」と結論付けてるが、成人式の赤紙ビラ配布自体は多くの証言があるので違うとしたら場所か団体名くらいか
— ネット上の情報検証まとめ (@jishin_dema) 2016年3月29日
成人式で赤紙ビラを配る活動が実在するのは間違い無い https://t.co/brdXsEfsny https://t.co/rdGWc1ni3U https://t.co/DMJds0dgtu 茨城であったか、今年の成人式でもやってたかは確認できなくても「風説」扱いは違和感
— ネット上の情報検証まとめ (@jishin_dema) 2016年3月29日
産経の検証記事
先日Twitterなどで話題になった「成人式で赤紙ビラ」騒動に関して、3/26付で産経新聞が検証記事を出した。
・【話題の肝】「成人式で赤紙が配られた」…ネットで拡散したウワサは本当なのか? (1/2ページ) - 産経ニュース
成人式の会場付近で「臨時召集令状」(赤紙)を模したビラが配布され、お祝いに水を差された-。ネット上でそんな噂話が流布している。
結局、成人式で配られたという事実や、どういう経緯でこの情報がネットを騒がすことになったのかは分からずじまい。ネット上では、配布した行為をデリカシーがないと批判する意見が大勢だが、何らかの悪意を感じさせる後味の悪い風説だ。
産経新聞といえば右寄りなスタンスが有名だが、意外にも(?)記事ではこの話を「風説」扱い。「あの」産経が左翼団体の汚名払拭に貢献するかのような珍しい構図に、ネットでは「産経までもが否定するなら間違いない」「いい検証だ」と喝采も飛んでいる様子だ。
だが「誰々が言ったから本当」というバイアスは検証には禁物。誰の言った事だろうが、正しい物は正しく間違っている物は間違っていると言わなければいけない。そして正直言うと私はこの記事について、間違いだとまでは言いきれないものの、「いい検証」だとは決して思わない。理由を以下に示したい。
「風説」とは?
そもそもよく見ると記事は噂について別に肯定も否定もしていないようにも読める。色々な関係者から話を聞いた末に結局「分からずじまい」という結論で、「配布はなかったのではないか」という教育委員会の返答も決定的な証言とは見られていないようだ。
「何らかの悪意を感じさせる後味の悪い風説だ」という締めの一文は曲者である。「風説」という言葉を単なる噂全般の意味とするか虚偽の噂と限定するかは辞書によって定義が違ったりして、必ずしも噂を誤りだと言いきっているのか厳密には疑わしい。とはいえ「根拠が無い」くらいのニュアンスはどうしても含まれるわけで、読み手からしてみればこれは否定だと思うのが普通だろう。現にネットの反応を見てもほとんどの人はそう受け取っている。
分からないのか否定したいのか、どうも腑に落ちない書き方である。
多数の証言
まず見出しにもなっている「成人式で赤紙が配られたという噂は本当なのか?」という問いだが、これについては「本当」としか言いようがない。ただしこの疑問文に茨城の話という限定は無い事に注意。
成人式きてるけど受付入る前におめでとうございますとか戦争したくないでしょとか言いながら赤紙配ってる老人がいっぱいいた 都市伝説かと思ってたけど本当にいるんだな
— フローレンス@FSA (@Florence_FSA) 2016年1月10日
成人式、開場から終了まで常に大騒ぎしてるし、ステージに登ろうとしたヤツが取り押さえられてるし、何故か赤紙が会場前で配られてるしで最高にカオスだった pic.twitter.com/w8hmtzH8Pl
— わるぷる@革戦 (@Walpurgis_1995) 2016年1月10日
会場にいたおばさんにこれどうぞ〜って言われてもらった封筒の中身赤紙で心臓止まるかと思った pic.twitter.com/7sdmDAItff
— ゾンビ (@niceboat21) 2016年1月10日
新聞では風節としていますが、成人式で配られた事は事実です。
— 井手よしひろ (@ibakengee) 2016年3月26日
今年の成人式で、茨城県結城市で配られました。 https://t.co/c4oZDabkue
配った側の話もある。
・“成人式へのビラ配り ( その他自然科学 ) - 瀬又科学研究所 - Yahoo!ブログ”
九条の会のメンバーは、下のお祝いの言葉の裏に「赤紙」を印刷して若者たちに配りました。
以下2つは今年のものではないが参考に。八幡平市の成人式は8/15らしい。
・“平和憲法・9条をまもる岩手の会ニュースNo.74”(PDF)
日本婦人の会にも呼びかけ、9条をまもる署名の他に、核兵器廃絶署名や戦時中の徴兵のための赤紙の配布も行いました。
共産党衆院議員の方。
・“藤野やすふみ | Facebook”
長野県小布施町の「9条の会」が、成人式で配った贈り物セットがいい⭐
今日、須坂市の演説会場でいただきました。手作りの「憲法冊子」、折り鶴、レプリカの赤紙、解説ビラなど、盛り沢山ながらポケットサイズ♪
挙げるときりが無いが、これほど証言が揃っているとなると「今年を含む成人式の日に、どこかの団体が、どこかの場所で赤紙ビラを配った」というところまでは確定と言っていいと思う。この時点で産経記事の、「成人式に赤紙」という話全てを否定していると取られかねない見出し及び結語は不適当と言わざるを得ない。
「茨城でも」ビラは配られたか?
【コレは酷い】共産党関係者が成人式で赤紙ビラを配布。
— ペン坂ジュニア (@pensakakun1) 2016年2月24日
共産党『おめでとうございます』サッ
新成人『(なんだ?)』ガサガサ
新成人『・・・・・』
現行憲法で徴兵制は不可能。お祝いムードに水をぶっ掛けるデリカシーの無さに呆れるッス pic.twitter.com/GGVCG3fzcD
産経が記事で言及しているのは多分このツイートの事だろう。「共産党関係者」と呼べるかどうかは別問題として、ビラには「茨城県母親大会連絡会」の記述が確かにある。「各地の母親大会連絡会が作成していることは、一部では周知の事実」だそうで、取材された連絡会側もビラの作成に関しては特に否定していない。
成人式で赤紙ビラを配る活動自体が実在するのまでは確認したが、記事の焦点はその活動が今年茨城でも行われたか、配ったのは母親大会連絡会なのか、である。
これは現段階で分からない、つまり肯定も否定もできない。産経記事の内容だけでは赤紙ビラの配布が本当に無かったのか、それとも関係者がすっとぼけているだけなのか、あるいは知らないところで誰かが配ったのか判断するのは難しい。連絡会は「関係する団体が自主的に配ったのかもしれない」と歯切れが悪いし、「関係が深い」新婦人の会に「聞いていない」と言われてもあまり参考になる気がしない。教育委員会だって式そのものを取り仕切っているだけだろうから、会場外のビラ配りについて本当に全て把握してるのかは怪しい。そもそもこういう問題になりそうな案件で当事者を直接追及したって、仮にやっていたとしてもはいそうですとは簡単に認めないだろう。
これを言いだすといわゆる悪魔の証明というやつで、やってないという事を証明するのは難しい。だが難しいから適当なところで妥協して証明できた事にしちゃいましょうというわけにはいかなくて、分からないならそれは分からないままにしておかなければいけない。そういう意味では産経記事のよく見ると曖昧な結論は正しい態度なわけだが、いかんせん書き方が悪くて否定のニュアンスが強すぎる。「風説」という言葉を使っていなければだいぶましだっただろうが。
結論
・「どこで誰が」というのを抜きにすれば、「成人式で赤紙ビラが配られた」のは本当。産経は見出しを工夫するべき。
・茨城の成人式でも配られたかどうかは不明。配られたとして、それが茨城県母親大会連絡会によるものかどうかも不明。
・「当事者が知らないと言ってます」はたいして強い証拠じゃない。
・産経記事は噂を誤りだと言いたいのかそれとも分からないという結論なのかあやふや。分からないなら分からないでいいからはっきりしてほしい。
・「風説」という言葉の使い方には気を付けるべき。
・「産経新聞が反戦団体への誹謗をデマと証明した」というストーリーは確かに劇画的で面白いが、それが正しいかどうかは話が別。
以上です。