(wikipedia:「ルイ・パスツール」より)
目次
「ミトコンドリアのちから」が面白い
炎上をきっかけに水素 に興味が湧いて、「水素水とサビない身体: 悪玉活性酸素は消せるのか」を読みました。さらに、活性酸素について知りたくなって「ミトコンドリアのちから」を読んでいます。
この本には面白いことがいっぱい。
高校のときは物理は好きでしたけれども、化学や生物は違いました。生物は苦手でしたから知識が少なくて余計に面白く感じられるのかも知れません。
読み始めて驚いたのは酸素は危険なものであり、生物は酸素と闘ってきたということでした。ミトコンドリアは危険なエネルギープラントと呼ばれています。エネルギーを作るのに酸素を選んでしまったからです。
ミトコンドリアや活性酸素のことは別の機会に書くことにして、今回は生物の自然発生説の話です。
パスツールが発酵を研究する話の中に甜菜(シュガー・ビート)の発酵が失敗して腐敗、酸っぱくなってしまう原因を突き止めようとしたエピソードがあります。
樽のサンプルを顕微鏡で観察すると、うまく発酵した方には酵母が見えます。しかし、酸っぱくなった液には酵母のほかにバクテリアがうようよ。顕微鏡で観察してこのバクテリアのいる樽を見つけたら、その樽の溶液は全部捨てることを指示して腐敗することはなくなります。
この細菌は腐敗の原因なのか、結果なのか。このバクテリアはどこから来るのか。生物は自然に発生するのかしないのかの大論争をしている時代、自然には発生しないと考えていたパスツールは有名な白鳥の首フラスコの実験で生命は自然には湧いて来ないこと証明します。
あれ、「白鳥の首フラスコ」ってなに?
有名とか言われても知らないし・・・ 検索してみると面白かったので記事を書くことにしました。
なぜ、「白鳥の首フラスコ」の実験が必要だったのか
自然発生説は「生物が親なしで生まれることがある」という説です。Wikipediaの自然発生説を見ると、今考えるととんでもない説もあります。
1.小麦の粒と汗で汚れたシャツに油と牛乳をたらし
2.それを壺にいれ倉庫に放置することにより
3.ハツカネズミが自然発生する
これが17世紀。反対の実験も行われています。
1.2つのビンの中に魚の死体を入れる。
2.一方のビンはふたをせず、もう一方のビンは布(目の細かいガーゼ)で覆ってふたをする。
3.そのまま、数日間放置する。
4.結果、ふたをしなかったビンにはウジがわくが、ふたをしたビンにはウジはわかなかった。(レディの実験)
しかし、「寄生虫は自然発生する」と言っています。さすがにパスツールの時代にはこんな説はありません。
加熱した有機物を密閉すれば長期間保存しても微生物は現れないことが実証されます。缶詰が長期保存できる原理、添加物がなくてもカビない山崎パンと同じです。
1.フラスコ内の有機物溶液を加熱した後、金属でフラスコの口の溶接密閉を行なう。
2.長期間保存しても微生物は現れない。
3.フラスコ壁面に微小な亀裂を生じると微生物が発生する。
4.結果、微生物を永久に有機物溶液内に発生させないようにするには、溶液を加熱した後、容器を溶接密閉した状態に保つ、とした。
しかし、フラスコ内の空気に「生命力」がある。その空気が加熱され「生命力」を失ったから自然発生しないのだと批判されてしまいます。
また、次のようなプーシェの説もありました。
無機物から有機物が生じることは無いと考えていたプーシェは、水に枯草を入れて高温殺菌したものを逆さにして水銀に浸け、生物は存在しないが有機物は存在する状態をつくり、それを放置すると微生物が生じることから自然発生説の裏づけとした。
— κねこせん (@necocen) 2009年7月12日
この実験はパスツールが論文を丁寧に読み込み 、水銀に微生物がついていたことを見破ります。そして、「白鳥の首フラスコ」を使って生物が自然発生しないことを証明したのです。
白鳥の首フラスコ実験とは
「ミトコンドリアのちから」に「白鳥の首フラスコ」という名前が出てきて、どんなフラスコなのだろうと疑問が生まれて検索しました。
理科・小学5年 パスツールの実験
あわわ、小学生の理科でした・・・Orz
(wikipedia:「生命の起源」より)
最初はこのフラスコ見て、なぜこんな白鳥の首のような形にしたのか理解できませんでした。
しかし、『フラスコ内の空気に「生命力」がある。その空気が加熱され「生命力」を失ったから自然発生しないのだ』という批判を封じ込めるために空気が外とつながっている状態を作り、なおかつ、外から微生物が入らないフラスコを発明しました。静かな空気の中では、入り口から微生物が入っても下降して、さらに上昇、さらに下降して肉汁まではたどりつかないのです。
これには感動してしまいました。パスツールはすごいですね。
プーシェの実験
プーシェが同じ実験をして細菌が発生すること確認しています。しかし、これは煮沸によって細菌が死ななかっただけで、自然発生したわけではありません。細菌が死滅しなかったことを証明する、死滅させる方法をみつけることによって論破できそうです。
同じ実験をプーシェという人物が追試しています。そして細菌が発生することを見いだします。このプーシェは実験に失敗したのでしょうか?
実は違います。実験として正しいのはプーシェです。今の私たちが同じ実験をすると細菌の発生が確認できます。実は100℃(水の沸点)では死滅しない菌がいるのです。枯草菌の仲間です。プーシェは自分の実験から自然発生があると結論します。この結論自体は誤りですが、実験はきちんとしたものでした。
ですが彼の実験結果は無視されてパスツールの意見が世間に認められます。その理由は簡明で、キリスト教が後押ししたからです。キリスト教では神が世界創造の最初の7日ですべてを創りだし、その後は何も創っていないとしています。この教義を覆す自然発生説は邪魔ものでした。そしてパスツールを支持します。またパスツール自身が敬虔なカトリック教徒でした。
つまりパスツールによってなされた自然発生説の否定は(現代でも通用していますが)宗教の影響を思いっきり受けているということです。
生命の自然発生派とそれを否定する闘いはすさまじいものがあります。ミトコンドリア研究の中からは多数のノーベル賞受賞者が生まれています。その先陣争いも厳しそうです。
まとめ
「ミトコンドリアのちから」を読んでいると、パスツールは「白鳥の首フラスコ」を使って生物が自然発生しないことを証明したという記述がありました。「白鳥の首フラスコ」はどんなものなのか、なぜ、そんな形にする必要があるのか調べてみました。
生命自然発生派の『フラスコ内の空気に「生命力」がある。その空気が加熱され「生命力」を失ったから自然発生しないのだ』という批判を封じ込めるためのものでした。
パスツール研究所内にはパスツールが生きていた当時の肉汁が入った白鳥の首フラスコが展示れされ、100年以上を経ても濁りのない状態なのだそうです。( 参考:はてなキーワード「白鳥の首フラスコ」)