『Number』2/4号(894号)から。
『1984年のUWF』柳澤健氏 連載3回目の主役は佐山聡です。
Number(ナンバー)894号 ?エディー後?のジャパン。特集 日本ラグビー「再生」 (Sports Graphic Number(スポーツ・グラフィック ナンバー))
- 作者: Number編集部
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2016/01/21
- メディア: 雑誌
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言わずと知れた「天才」佐山聡。
弱点は異常に太りやすい体質のみ。
その天才ぶりが新日入門以前から、既に遺憾なく発揮されていたことを初めて知りました。
下関のスポーツ万能少年は、中学校での柔道部経験を経て、レスリング部のある山口県立水産高校に入学します。ところが残念なことに、その顧問の先生にはレスリング経験が無かったと。
そこは調べてから入学しようよと思いますが、推薦の関係とか色々あったのだろうという事でどうか穏便に。
佐山は柔道の経験を生かしてレスリングに取り組まざるを得なかった。それでも、卓越した身体能力の持ち主は1年生のときから、国体の候補選手に選ばれた。
元々競技人口が多いとは言えないスポーツですので、ここまではよくある話でしょう。格闘技経験者のアドバンテージはかなり大きいはずですし。
ですが佐山君は県内名門レスリング部の監督にすぐに素質を見抜かれ、集中的に指導を受ける事となります。見る人が見れば、というやつですね。
さて、天才に一流の指導者が付くとどうなるか。
まもなく国体の山口県代表選考のための合宿に呼ばれた。
スパーリングの相手はインターハイ4位の強豪。レスリングを始めたばかりの1年生にとっては酷な組み合わせとも思えたが、佐山はなんとフォール勝ちを収めてレスリング関係者の度肝を抜いた。
高校レスリングの新人戦には、1年生と2年生が出場することができる。
しかし、75kg級にエントリーしたのは佐山聡ただひとり。ほかの選手は佐山を恐れて階級を変えていた。
北斗3兄弟ではないですが、天才と時を同じくした不幸な生徒続出。 後年、再び佐山聡の名を聞いて、皆納得したこととは思いますが。
ここで佐山君、山口県レスリング協会会長からなかなかの試練を与えられます。
1試合も戦わないまま、1年生の佐山を優勝させるわけにはいかないと考えた。
1階級下の1位、2位、3位の選手、そしてヘビー級チャンピオンの4人と試合をしなさい。いい成績を収めれば75kg級の優勝者として認めよう。
佐山は4人のうち3人を1ラウンドでフォール、残りのひとりも2ラウンドで片づけ、ようやく優勝者として認められた。
今、ずっこけませんでした?
レスリングを初めて半年かそこらでですよ。
いい試合どころか 2年生含めて県内敵なし。どんな化け物だよ!と。
さすが我らが天才、佐山聡の面目躍如。
佐山君はレスリングで自信を付けると同時に早々に高校にも見切りも付け、憧れのプロレスラーを目指して上京することになります。
詳しくは連載をご覧いただきたいのですが、新日に入門した佐山君は入門半年にして、ひたすら愛してきたプロレス界の裏事情を、先輩レスラーから詳らかにされます。
普通の人間ならば、諦めてショーを演じ続けるか、絶望して去るところだ。
しかし、佐山聡は普通の人間ではなかった。第3の道を選んだのだ。
関節技を生かした新たなる格闘技を作り上げよう。つくりもののプロレスを、すべて本物に変えてしまおう。
それこそが18歳の佐山聡が歩み出した第3の道だった。
佐山の考えた新格闘技とは、打撃戦から始まり、組み付いて投げ合うテイクダウンの攻防から寝技の攻防に移行し、最終的には関節技で極めて完全決着するというものだった。
1970年代半ば、すでに総合格闘技を構想し、実現に向けて歩き出した18歳の青年がいたということだ。
天才としか言いようがない。
佐山以前に、そのようなことを考えたプロレスラーはひとりもいなかったのだから。
確かに「新しい格闘技を創る」という発想は常人からは出ませんよね。
格闘家として天才であるだけでなく、「打・投・極」の3体系を統合した新たな格闘スタイルを、既にイメージしていたということ自体がすごい。まさに時代の先駆者、異才と言っていいでしょう。
タイガーマスクであった時間は別にして、佐山聡としてはシューティングを始めた頃が一番露出が多かったと思うのですが、彼のインタビューでの理論派ぶりには驚かされたものです。
スポーツ・武道を問わず、天才であればあるほど、自身の動きの言語化が追いつかなくなるのが普通だと思いますが、佐山の場合は違いました。
入門から1年を待たずに、新格闘技の構想を練り始めていた佐山聡の中では、新格闘技を広く普及させるための手段である体系の言語化は、とっくの昔に完了していたんですね。
「シューティングの蹴りは空手とどう違うんですか?」という質問に対し、佐山はTVでこう答えていました。
「膝から下を折りたたんで、ジャックナイフを開くように蹴るのが空手の蹴りです。シューティングの場合は、左右の肩に水平に棒を渡して、両端にロープで重りを吊るした状態をイメージして下さい。そのロープをスイングさせて、鞭のようにしならせて蹴るのがシューティングの蹴りです」と。
格闘家とは思えない分かりやすい説明、理路整然とした内容に驚いて、未だに覚えています。
その時は「佐山、意外と理論派じゃん。ファイトもアタマもスマートな男なのね」程度の感想だったのですが、今思えば佐山聡の中では何度も何度も練られた説明だったのでしょう。
格闘技に求められるのは再現性。スポーツライクな競技として認められるには、まず自分が理論を確立する必要がある。そうした前提を踏まえていたに違いありません。
連載では次回も Uの遺伝子の中核である「佐山聡編」が続くのですが、本ブログで過去に触れたので1回トバします。もし興味のあるかたは、下の拙稿をご覧頂ければ。
以上 ふにやんま