井上久男「ニュースの深層」
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大企業の間でひそかに高まる、安倍政権への不信感

引き金は「賃下げ」

2016年03月31日(木) 井上 久男
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【PHOTO】gettyimages

「ベースアップで株価下落」の矛盾

安倍晋三政権が民間企業の賃上げ交渉にまで口を出す「官製春闘」に対して、複数の主要大企業で不満が高まっている。そして「もはやこの政権は支持できない」といった声も出始めている。

ベースアップを実施することで、ただでさえ労務コストの高い日本国内の固定費が上昇し、それが業績を圧迫し始めているからだ。過去2年間の官製春闘の結果を踏まえても、ベアを実施したからと言ってそれが消費の喚起にはつながっていない。

3月16日は春闘の集中回答日だった。官製春闘は今年で3回目だ。賃上げ相場に大きな影響力を持つトヨタ自動車のベアは労組要求額の半分の1500円で妥結、昨年比2500円減となった。トヨタは2016年3月期決算で過去最高を更新して2兆8000億円の営業利益を計上する見通しで業績は堅調だが、豊田章男社長は労使交渉で「経済の潮目が変わった」と訴えた。

2月5日に発表されたトヨタの16年3月期第3・四半期決算(15年10月~同12月)の営業利益は前年同期比5・3%減の7222億円。減益要因で最大のものは労務費の上昇分300億円だった。15年4月~12月までの9カ月累計の連結販売台数も前年同期比3・7%減649万台だった。北米を除く全地域で軒並み販売が落ちているうえ、特にこれまで成長市場と言われた東南アジアや南米などでは景気の悪化から販売が苦戦している。

販売は落ちて労務費も上昇している中で、さらに固定費が上昇するベアを上げる局面ではないのに、トヨタは政治圧力を受けて1500円のベアを断行した。ベアと定期昇給を含めた今回の賃上げでトヨタの労務費はさらに100億円上昇するとの試算だ。

トヨタの株価は昨年夏には8000円台を維持していたのに、最近は下落して6000円台で推移している。その要因は、「固定費の増大による減益を投資家が嫌っている。さらに2017年3月期決算も固定費がさらに増えるので減益になるだろう」(アナリスト)と見られている。

株価を気にする政権でありながら、官製春闘によって日本を代表する企業の株価を落としてしまうとは、何とも皮肉なものだ。

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