(英フィナンシャル・タイムズ紙 2016年3月29日付)

 過去10年間の石油産業の歴史は、偉大な米国人経済学者ハイマン・ミンスキーが打ち立てた投機ブームのモデルとぴったり合致している。

 まず、安定した時期が借り入れによって賄われる投資の拡大につながる。投資拡大は資産価格を上昇させ、そうした資産が生み出すキャッシュフローが資産購入のために背負った債務を支えられなくなるまで価格の上昇が続く。

 やがて、「ミンスキー・モーメント」と呼ばれるようになった局面が訪れる。資産価格が急落し、資金が出口に殺到する瞬間だ。バブルが弾けた後も債務負担は残り、長期にわたって経済活動を落ち込ませることがある。

 石油・ガス産業は2014年夏から、このサイクルの下降局面に入っている。好況期に業界が積み上げた3兆ドルの債務負担は、今、業界に重くのしかかっており、設備投資、雇用、配当の削減を企業に強い、資金を貸し付けた銀行と投資家に多額の損失を負わせている。すでに財政的に弱く、石油収入に依存していた国々は、危機に追い込まれた。

 石油の宴(うたげ)の後の二日酔いは、経済政策の立案者が検討すべき重要な要素であり、世界の見通しが複雑な中で考慮に入れるべきもう1つの問題だ。エネルギーの未来にも影響を及ぼす。

 石油の暴落は、いくつかの点でサブプライム住宅ローンのバブル崩壊と似ているが、サブプライム危機と同じシステミックなインパクトをもたらす可能性は低そうだ。

 銀行は現在、自己資本が厚くなっているし、当時と同じ信用デリバティブ(金融派生商品)の蔓延もない。問題となる絶対額も比較的小さい。今回、全世界の石油・ガス会社の株式、債券の価値が約2.5兆ドル吹き飛んだのに対し、住宅ローンバブルの崩壊は米国の家計の富から約11兆ドルを奪ったと試算されている。

 それでも、国際決済銀行(BIS)と国際通貨基金(IMF)の双方が指摘したように、石油ブームの後遺症は政策面の難題を生み、成長の足かせの役を果たすと同時に、金融市場で混乱を招く可能性がある。