発刊にあたって
日本の警察・検察はおかしい。最低限の基本的人権をあからさまに蹂躪している。裁判所にチェック機能はまったくなく、起訴内容を追認しているだけだ。こうした声があふれてきました。
昨年７月、「ええかげんにせえ！警察・検察・裁判所」と銘打って関西集会を開催したところ、主催者の想定を上回る参加をみました。そこで、公安化する日本の治安管理強化の実態を明らかにし、反撃のためのネットワークを作り上げていくために、連続シンポジウムが企画されました。
昨年１０月に第１回「狙われている労働組合」が、今年２月に第２回「分断・差別をあおり、くりかえされてきた弾圧に団結と反撃を！」が、共に２５０名を超える熱気あふれる仲間で開催されました。ここで明らかなのは、今なお国家権力と組織的攻防を担える労働運動・部落解放運動・民族運動が集中的に弾圧に晒されていることです。
現在、時代の変化に際し、闘いの蓄積が切り崩され、国家権力の攻勢が続いているように見えます。その象徴が「国策捜査」です。国家政策の転換を押し進めるために、転換に抵抗する勢力を象徴的に潰す目的で、従来なら違法行為として摘発されない事案を「事件」として作り、捜査・長期勾留・起訴・公判を通して、社会的抹殺をはかることです。
世界では、アメリカ帝国主義の戦争政策が破綻し、多国籍企業主導のグローバリゼーションが世界中に格差をもたらし、サブプライムローン（低所得者向け住宅融資）破綻に伴う金融恐慌を呼び込みかねません。日本でも、労働者間の分断・差別化が激しくなり、派遣や請負、パートや期間工などの低賃金で劣悪な労働条件にある非正規労働者が賃労働者の１／３、１７００万人います。さらに、働けど年収２００万円以下の低所得労働者（ワーキング・プア）が、なんと１０００万人も存在します。２１世紀は、貧困が労働運動の中心的課題として浮上しています。階級構成の二極分解が鮮明になっています。
こうした状況下、国家権力は民族排外主義を煽り、部落差別を利用する、日本の歴史はそう教えています。この第２回シンポジウムで指摘されている様に、在日朝鮮人として被差別部落民として釜ケ崎労働者として生きれること、誇れること、そして、日本社会がそれを求めることが問われました。
権力は朝鮮民主主義人民共和国の「核・ミサイル脅威」「拉致問題」を煽り、アメリカの世界戦略の破綻をつくろう軍事再編を強行しています。戦争ができる体制と分断・差別は不可避的に結合されるのです。
私たちは、国家権力の多様な攻勢に屈し、情勢負けするヤワな団体・個人ではありません。関西の地で弾圧・抑圧されている各労働組合・団体・個人が一堂に結集し、反弾圧、戦争国家体制に反対するネットワーク作りを全国に発信しました。団結しよう！敵には反撃を！共に闘う仲間が、また、まだ見ぬ未来の仲間が、このパンフレットを活用されることを切望します。
反弾圧ネットワーク実行委員会
１８：３０〜
ＤＶＤ上映�…�鮮総聯「歴史を繰り返してはならない―関東大震災・朝鮮人虐殺80周年を迎えて―」
�∀�帯ユニオン「斉藤建材事件の真相」
報告� 〆瀑�朝鮮人から 朝鮮総聯大阪府本部国際統一部長・朴栄致
報告�◆”�落解放運動から 部落解放同盟全国連寝屋川支部事務局長・木邨秀幸
報告�� 釜ヶ崎日雇い労働者から 釜ヶ崎地域合同労働組合執行委員長・稲垣浩
まとめ 弁護士・遠藤比呂通
（呼びかけ文）
全国各地で頻発する警察・検察による人権蹂躙の数々とそれを追認する裁判所の異常な姿は、自公政権の憲法改悪・戦争国家づくりと深く連動しています。
こうした権力の暴走に反撃するネットワークづくりの第１弾として２００７年７月１日、中之島剣先公園にて「ええかげんにせえ！警察・検察・裁判所７・１全関西集会」を開催し、２０００名を超える関西の地で弾圧・抑圧されている各労働組合・市民団体・個人が一堂に結集し集会を成功させることが出来ました。
さらに１０月１２日には「これで法治国家といえるのか！今、公安警察の弾圧で何が起こっているのか！狙われている労働組合」と題した連続シンポジウムも開催し、学者・弁護士・議員・労働組合代表でのパネルディスカッションには会場収容を超える仲間が参加しました。国民の基本的人権が尊重され、差別や抑圧のない平和な国を私たちの力でつくりあげるまでこのネットワークを関西から全国に拡大していき、継続的なシンポジウム等を開催することで弾圧の本質や背景を明らかにしていきたいと思います。
発言者紹介
朴 栄致（パク・ヨンチ）
在日本朝鮮人総聯合会（朝鮮総聯）大阪府本部常任委員会 国際・統一部長
１９６６年大阪市生まれ。在日朝鮮人３世。関西大学工学部卒業。
祖父母が、日帝植民地支配下での過酷な弾圧と生活苦により、１９２０年代朝鮮・慶尚北道清道郡（現在の大韓民国清道郡）より渡日を余儀なくされ大阪に住み着く。大学卒業後、留学同大阪地方本部組織部長、留学同中央本部委員長、朝鮮総聯大阪府本部総務部副部長を経て、現在に至るまで専従として祖国の統一と発展、在日韓国・朝鮮人の同胞生活と民族権利を守る活動に参加。
木邨（キムラ） 秀幸
部落解放同盟全国連合会中央執行委員 寝屋川支部事務局長
１９５３年寝屋川市出身。中学卒業後、実家の非鉄金属業を手伝いながら、夜間定時制高校に通う。高校３年生のとき、狭山差別事件を知る。無実の石川一雄さんにたった半年で死刑判決を下した浦和地裁への実力糾弾闘争に起ち上がった部落青年の闘いに衝撃を受ける。以来、部落解放運動の道に。０３年「寝屋川でっち上げ」弾圧の元被告。０５年５月一審無罪、検察は控訴できず、同年６月無罪確定を勝ち取る。
稲垣 浩
釜ヶ崎地域合同労働組合執行委員長
１９４４年生まれ。兵庫栄養専門学校卒業。１９７０年給食会社一富士で労働組合を作ろうとして解雇される。同年６月安保闘争に参加し９ヶ月間未決勾留。１９７２年暴力手配師追放釜ヶ崎共闘会議に参加。１９７８年釜ヶ崎解放会館設立。１９７９年釜ヶ崎の日雇い労働者の代表として初の市議選を闘う。これまでの不当逮捕歴は２２回。しかし、それにも懲りず闘いの現場でますます意気盛ん。また、ホームレス自立支援法は排除と収容の悪法であると一貫して批判している。１９７５年１２月１０日から１日も休まず炊き出しを続け、現在３３年目に入る。
遠藤 比呂通
弁護士
１９６０年山梨県生まれ。１９８７〜９６年東北大学法学部（憲法講座）助教授。１９９７年弁護士（大阪弁護士会）に転身。１９９９年より毎月一度、釜ヶ崎いこいの家で法律相談を行う。２０００年より毎月一度、住吉人権文化センター（旧解放会館）で法律相談を行う。連帯ユニオン関西地区生コン支部への第３次弾圧＝政治資金規正法違反事件の第３審では、戸田ひさよし門真市議（連帯労組近畿地本委員長）の弁護人を務める。
司会挨拶
西山 直洋（連帯ユニオン関西地区生コン支部執行委員）
それでは今から「ええかげんにせえ！警察・検察・裁判所 連続シンポジウム�供廚魍�催します。本日、司会進行を担当させていただきます全日本建設運輸連帯労働組合の西山です。よろしくお願いします。
今のＤＶＤを見て分かったように、本当に現在日本が怖い社会に進んでいるんだ、ということを実感してもらえたと思います。
現在、弾圧事件がますます広がっています。これは全国各地にあります。冤罪事件についても新聞等の報道を見てもらえれば分かるように、例えば、鹿児島の志布志（しぶし）事件（公職選挙法違反容疑で住民が逮捕され、自白強要されたものの無罪が確定した事件）というものがあります。先々日の朝日新聞にもありましたが、このときに逮捕されたおばあちゃんの記事が載っていました。本当にひどいやり方です。今の日本の「警察国家化」「戦争国家化」を食い止めるには、やはり、私たちが団結し、今から反撃の戦線を作って訴えていくしかないと思います。
今日もたくさんのみなさま方に集まっていただいております。今年、夏には北海道・洞爺湖でＧ８サミット（主要国首脳会議）が行われます。このＧ８においても、現在、警察が厳重な警備体制を敷いて、全国各地で訓練をしています。また、先週の報道でしたが、「サミット期間中においてハイジャックされれば撃墜しろ」と、このような命令が政府から出される。まさに怖い社会になっていると思います。
今日は、先ほどのＤＶＤにもありましたように、在日朝鮮人の立場からということで、まず、朝鮮総聯大阪府本部・朴栄致国際統一部長より報告していただき、さらに、部落解放運動の立場から、そして釜ヶ崎地域における労働者の立場から、という形で、まさに差別・弾圧を受けてきた仲間たちの証言・報告をしていただき、最後に遠藤弁護士からまとめとしての発言をしていただきます。
報告� 〆瀑�朝鮮人から
朴 栄致（在日本朝鮮総聯合会大阪府本部国際統一部長）
みなさん、こんばんは。紹介いただきました朝鮮総聯大阪府本部で国際統一部長をやっています朴栄致と言います。７月１日に剣先公園で、反弾圧の集会・デモがあって、そのときも連帯のメッセージ、アピールもさせていただきました。よろしくお願いします。
ちょっと長い目のビデオを見ていただきました。時間をたくさん取っていただいてありがたく思っています。
ではなぜ、今のビデオを見ていただいたのかということなんですが、映画のテーマにもありましたように、「歴史を繰り返してはいけない」ということを最近、非常に痛感しているからです。
今年が、関東大震災から数えまして、８５周年を迎える年でありますし、この関西で起こりました阪神教育闘争から６０周年を迎える年です。そのような節目の年に、私たち在日朝鮮人、そして連帯・共闘しています日本の友人の方々にもう一度、「歴史を繰り返してはいけないんだ」ということを、この一年間は訴え続けていきたいなと思っております。その意味を込めまして、５年前に作られたビデオなのでちょっと古い部分もありましたが、見ていただきました。後半の朝鮮総聯に対する右翼団体の行動とか、日本政府の差別・排外的な発言、そのようなものは、５年経ってもちっとも変わっていないと思うんですね。
今回、この集会に際しまして、資料集の方に「朝鮮総聯 闘争年表」という形で、ちょっとええかっこして題名を付けたんですが、大事だなと思うことを取り上げて年表を作成しました。ゴシック体で書いているのが本国で起こったできごとです。年表を見るのに時代の流れが分かるかなと思い、入れさせていただきました。それ以外は、朝鮮総聯が権利獲得や闘いを行ってきた部分を抜粋したつもりです。参考に見ていただければと思います。
そして、もう一つ、「『北朝鮮』バッシングに乗じた朝鮮総聯への異常な弾圧の実態と問題点について」というレジュメを添付させていただきました。今日ここでは、このレジュメに沿って話を進めていきたいと思います。
今回の集会のテーマ、「ええかげんにせえ！警察・検察・裁判所」。これはまさに僕も同じ心情です。そして、「団結と反撃を！」、これもまさにその心情です。ですので、今回の集会にも是非ともということで、参加させていただきましたし、このように発言の機会を与えていただいて非常に感謝しています。本当にありがとうございます。
ビデオでは、関東大震災から始った弾圧の歴史ですね。そして、マスコミを大動員する。８５年前も、関東大震災のときは、政府がまず戒厳令を発布するわけですね。それをマスコミが次の日にすぐに取り上げて、大宣伝を行う。それによって、国民・民衆がそのマスコミに乗せられて朝鮮人に対する攻撃を行った。このような歴史的な事実があります。関東大震災は１９２３年ですので、朝鮮が植民地化された後です。そして、３０年代に入って、国家総動員法は３７年ですが、総動員法によりまして、強制連行が実際具体的に行われる。
強制連行が行われた後、４０年代に入れば、南、今で言ったら韓国ですが、南の地にはもう強制連行する若い人が残っていないということで、北半部、今の朝鮮民主主義人民共和国ですが、そちらの方から連れてこられた人が圧倒的に多かった、という資料も出ています。それくらいのすさまじい強制連行・徴用ですね。中には「無理やり連れて来ていないんだ」という場合もあるんですが、それはそそのかされたり、生活に困って、食うに食えなくて、「日本に行けばいい場所がある」「いい職場がある」というような言説に乗せられて、来られた方もいます。そのような方も含めまして、強制連行なんです。
「朝鮮人は殺しても罪にならないんだ」、そのように当時言われました。「１匹２匹は殺してもいいんだ」と。「鰯（いわし）が魚か、朝鮮人が人間か」というような言葉も、みんなに伝えられていたみたいです。鰯よりも低いんです。
当時、関東大震災は強制連行の前夜でした。日本が日中戦争に突入し、そして、全面的な戦争に入っていく前夜だったという歴史的な経緯を思い起こす必要があると思います。
そして、もう一つは、先ほど申しました１９４８年。日本敗戦、朝鮮解放直後の阪神教育闘争ですね。この阪神教育闘争というのは、実は、１９４８年に朝鮮半島の南半分では、国連・アメリカの支配の下で単独選挙が行われ、大韓民国という国が国連主導で成立する。その一方、北半部では、全土の国民の総選挙が行われました。南では当然、アメリカの支配下にありますので、地下でみんな回覧板を回して選挙を行ったという資料が南の方でも出ています。そのようにして成立したのが朝鮮民主主義人民共和国です。
そのような状況の中で、１９５０年に朝鮮戦争が勃発するわけですが、１９４８年というのは、そのように南北に分かれる瞬間であったし、日本で言っても「赤狩り」が行われ、社会主義者が弾圧された、そのような状況で阪神教育闘争というものが起こった。この阪神教育闘争は、日本政府によって、朝鮮人学校を強制的に解散・閉鎖させた事に反対して、朝鮮人が立ち上がった。そこに日本の警察が大弾圧を加えた。その過程で何名もの犠牲者が出ました。特に、１６歳の金太一（キム・テイル）という少年が警察によって射殺されるという事件をもって阪神教育闘争と呼んでいます。
その阪神教育闘争から今年で６０周年。ということで、今回、「歴史を繰り返してはいけない」「歴史を忘れてはいけない」ということをテーマに持ちながら、「ええかげんにせえ！警察・検察・裁判所」、当局の弾圧に決して屈してはいけないし、それに対して団結と反撃を加えていかないといけない。強くそのように思っております。
レジュメに、「薬事法違反事件」を最初に挙げました。これは８５年前の関東大震災、そして、６０年前の阪神教育闘争、最近に至っては、２００２年の日朝首脳会談。平壌で小泉首相が金正日総書記と会って、日朝平壌宣言を結びました。そのときに、拉致問題というものが発生しました。朝鮮が拉致の事実を認めて謝罪しました。日本では拉致問題ということで、きびしい反朝鮮人・差別的排外的な嵐が巻き起こるわけですね。
その過程で２００６年１１月２７日に、東京で薬事法違反容疑で大捜査が行われるわけです。これは資料にも書いてありますが、捜査を行ったのは警察庁公安部ですね。朝鮮総聯関係に対する弾圧は常に公安です。公安部外事課ですね。このときには警官２７０人が高齢の在日朝鮮人（７４歳）女性宅、そして、朝鮮総聯東京都本部を始めとしまして６ヶ所を強制捜索しました。
捜査の理由は、その在日朝鮮人女性の方が共和国に訪問するのに、甲状腺ガン、そして、ちょっと病気を患っておられて、長期で行くときには点滴薬をいつも持って行かれるんですね。別に、初めて持って行ったわけではないんです。約１ヶ月分、そのようにして持って行っていたんです。このときも２００５年５月に親族に会いに訪朝する、祖国に帰る場合には長期になるので持っていくんです。その際、点滴薬と肝臓の疾患薬を家の近くの耳鼻咽喉（じびいんこう）科の先生に出してもらったということが捜査の発端で、一大強制捜索が行われるわけです。
この女性は、薬事法違反容疑で家宅捜索されるんですが、薬事法違反というのはそもそも医師免許を持っている人に対して問われるものであって、薬をいただいた方は何の罪もないんですね。ということで、警察と裁判所が色々と考えたことは、「教唆（きょうさ）」つまり、そそのかしたということを利用するんです。この近くの耳鼻咽喉科というのは日本人の先生なんですが、その先生をそそのかして「大量」の薬をもらい受け、これを共和国に「不正」に持っていって、科学兵器を作る材料にでもするのではないか。そのような理由で（捜索に）入ったわけです。
７４才の女性で病気も患っている１世のハルモニ（おばあちゃん）が、自分の親族に会いにいくのに、船で行ったり来たりしますので、短くて３週間ほどかかるわけですね。その間、点滴を打たないといけないわけです。その分の薬を持って行ったのが、なぜ、罪になるのか？そして、これは今まで何回も同じことをやってきたのに、なぜ今回だけ罪に問われるのか？結局、不起訴処分でした。当然です。何もしていないのですから。
そして、この強制捜索の問題点。そもそも、この女性が、その薬を出してもらうのに違法だという認識があったのか、ということですね。もう一つは、強制捜索で、その女性が仮に教唆をしていたとしても、朝鮮総聯の組織と関連団体、そして、朝鮮総聯の職員の家まで家宅捜索していたのですが、これはどういう関連性があるのか、ということ。ここが捜査の不当性、問題点として挙がると思うんですね。
この不当性に対し国賠訴訟（国を相手取った損害賠償請求訴訟）を朝鮮総聯東京本部が起こしました。当然、全然関係ない朝鮮総聯本部に入ったということで起こすわけですが、その国賠訴訟の訴状にこのように書いています。
「仮に訴外朴」、第３者の朴、ハルモニですね、「の渡航先が朝鮮民主主義人民共和国ではなくて第３国であったならば」、例えば、アメリカや中国やフランスなどだったら、「本件被疑事実について、ビザ取得などの渡航手続を行ったにすぎない第３国の領事館」、この場合は、朝鮮総聯が領事館的な役割を果たして、ビザを発給したということを念頭に入れているのと。第３国であればその国の領事館を「捜査場所とした強制捜索が実施されたのであろうか？」。これがアメリカであったらアメリカ領事館に強制捜索が入ったのか？ということを疑問視しております。「さらに言えば、そのような場所には同じように医師から医薬品を譲り受けて海外に持ち出したとしても薬事法違反として立件されることすらなかったであろう」。このように訴状で明らかにしております。
また、捜査の不当性ですが、令状の中には「差し押さえるべきもの」が明記されているんですが、全然関係ないものばかりなんですね。このように書いていました。「朝鮮総聯の組織規定、組織系統図、名簿、宣伝教養資料、指示伝達文、指示伝達書類、会議録、各種報告書、報道記事」。そのようなものは、多数のＣＤ―Ｒ、フロッピーディスク、各種書類、ファイル、領収書などで持っていったんです。このハルモニが教唆したという容疑で捜査に入ったんですが、その場合、朝鮮総聯の組織規定なり組織系統図と事件は何の関係があるのか？お医者さんを教唆したという理由で強制捜索が入ったのに、朝鮮総聯の系統図なり、そのような活動の内容なり、どんな関係があるのか？ということが、非常に疑問視されるし不当であるんです。
そして、数日後また入るんです。１２月３日には朝鮮総聯傘下団体の在日本朝鮮東京都青年商工会の幹事長の自宅に強制捜索が入りました。このときには幹事長が弁護士の立会いを求め電話をしたんですが、それさえも認めない。また同時に朝鮮総聯の職員宅にも捜索が入ったんですが、そのときに弁護士が来ていたので「立会いをさせろ」という申し入れをしたのに無視する。そのような暴挙を働きました。
この際、マスコミが一役を担うわけです。公安当局が流した情報をそのまま垂れ流すわけですね。当然、公安当局は、もともと謀略で入っていますので、自分たちに都合のいいことしか言わない。もしくは、あることもないことも、「こんなこともあるんじゃないか」と言うことをマスコミの記者にリークするわけです。そしてそれをそのままマスコミは載せてしまう。載せてしまうと言うか、わざと載せているのか、信念を持って載せているのか分かりませんが、そのように同じことが繰り返されているわけです。
先ほどの関東大震災、阪神教育闘争と同じです。大本営が戒厳令を敷いた。そうしたらマスコミがすぐに取り上げる。「朝鮮人、不逞鮮人（ふていせんじん）がやっている」と。すると、国民が信じてそのように動いてしまう。阪神教育闘争のときもＧＨＱ（連合国軍最高司令官総司令部）が非常事態宣言を通達するんですね。その通達が各地に行くわけです。すると、それをキャッチしたマスコミが「朝鮮人が暴動を起こしている」と、そのように報道するわけです。すると、信じ込んでまた、国民は「朝鮮人は悪いやつだ」という風に動いてしまうんですね。今回も全く構図は同じだと思います。
大本営の情報である公安警察が流した情報を、そのままマスコミが取り上げ、また拡大して報じることによって、国民・民衆がそれを信じてしまう。「朝鮮人は悪いやつだ」「朝鮮総聯は悪い」「北朝鮮に何か送っている」と。そのようになって、強制捜索も「あいつらは悪いやつだから仕方ない」と、このように世論が形成されていくわけです。
レジュメのその下に、「税理士法違反容疑」とあります。これは、去年１月。ちょうど１年前ですね。兵庫で起こりました。このときは、税理士法違反容疑ということで、兵庫県の商工会に強制捜査が入ったわけですが、このときに私も何回も一緒に出向きましたが、捜査官がこのように暴言しました。「今日は壁と柱以外は全部持っていくぞ」と。それで、もめて小競り合いになるわけですね、中に先に入っている職員と。すると、「お前ら出て行け」「立会人だけ残して出て行け」「強制排除」と言う。そして、小競り合いになったときに、「わしらが法や！」という暴言を吐いた。これはビデオにも撮ってあります。このように立ち振る舞うわけです。
実際に、商工会の場合は、本当に壁と柱以外は持っていったような状態でした。机などは残っていましたけれど。パソコンは全て持っていきましたし、書類もほとんど持っていきました。そのような暴挙がありました。
また、地元大阪で起こった事件ですが、これもちょうど１年前ですね。「電磁的公正証書原本不実記録」。言葉が難しいですが、公文書偽造です。全部パソコンで電子化していますので、このように名前が変わっていますが、公文書を偽装したという容疑です。「同供用」（電磁的記録不正作出及び供用の罪）ですね。
これは何かと言ったら、ある同胞の方が、「車庫飛ばし」をした。大阪の同胞なんですが、自分の仕事で使っているトラックですね。トラックの車庫証明を取るのに、自分のところで取らないで、滋賀の朝鮮学校の空いているスペースで取ってしまったんです。これはこれでいいことではないですが。そういう些細な事件があったわけです。
このたった１台の車庫飛ばしによって、警官隊が強制捜査を行った。いつも来る警官はヘルメットも被っていますし、盾も持っています。それが１２０人滋賀の朝鮮初級学校に入った。しかも休みの日に。そして、職員室、校長室を全部あさって、保護者名簿、児童名簿まで持っていく。学校は車庫の場所を貸してあげただけなのに、何で保護者の名簿が関係あるのか。それで、令状の「差し押さえるべきもの」の中に、この件とは全く関係のない「組織図、住所録、海外送金依頼書」があった。これらが記載された令状を持って捜索に入ってくる。そのような事件が１年前に起こりました。
もう一つ。これも１年足らず前ですが、東京の留学生同盟の事務所に強制捜索が入りました。「国外移送目的略取」容疑。これは拉致問題と関連していますね。国外に日本人を移送する目的で誘拐した、それを手伝った、というような容疑で入ってきました。資料にあるのはこのとき発表した留学生同盟の声明文ですね。読んでみます。
「留学同は日本の大学・専門学校に通う在日朝鮮人が朝鮮語や朝鮮の文化、歴史を学ぶなど自らの民族性を高め、互いの交流を深める大衆的な学生団体であり、ましてや現在所属する専従職員や在日朝鮮人学生は３０数年前にはこの世に生まれてすらおらず、拉致事件と何ら関係がないことはあまりにも明確な事実である。また、『事件の関係者とされる人物が過去に留学同に所属していた』というただそれだけで、今回のような大規模な強制捜索が行われたことはまったくもって常軌を逸した蛮行であり、今回の警察当局の論理を適用するならば、毎日のように起こるあらゆる事件容疑者が過去に所属していたとされる団体、サークル、会社、学校などその全てに対する強制捜索が必要となる」。
留学生同盟というのは、今、大学に通っている在日の学生団体なんですが、３０歳を超えている人はいないです、学生ですから。専従もほとんど３０歳までの人です。３０数年前に生まれていないわけです。その人たちの事務所を強制捜索して、何をしようとしたのかということですね。
このときも警官隊と在日朝鮮人がもみ合っている部分だけを撮って、マスコミが大々的に流すわけです。「朝鮮総聯関連の団体が拉致に関与しているんじゃないのか」、そのようなマスコミ報道だけが一人歩きするわけです。すると、何も知らない人は、「ああまたやっているな」「これだけわーわーやっているということは、何かあるんだろう」という風に錯覚させられてしまう。これも先ほどの関東大震災、阪神教育闘争のときの大本営発表、そしてマスコミに国民がだまされる。そのような流れと全く同じです。
では、これらの事件の背景は何なのか。これは「国策」と断言してもいいと思います。首相官邸およびそれを背にした警察庁長官の発言を見れば、すぐに分かります。このときには、安倍前総理が官房長官でした。２００５年、２００６年ですね。そのときに安倍さんが、総理大臣になりたかったのか、拉致をテコにして人気を取ったわけです。その後、みごと総理大臣になりましたから、まんまと成功したのかも知れませんね。そのときに、「拉致問題特命チーム」というものを省庁横断的に、大臣みんなを集めて作りました。
その中で、漆間（うるま）という警察庁長官がこのように言っています。「北朝鮮への圧力を担うのが警察」だと。いつからそのような外交をするようになったのでしょうか。「潜在的な事件を摘発し、実態を世間に訴える。北朝鮮関係者が起こしている事件は徹底的に捜査するよう全国警察に求めている。有害活動を抑える意味でも大事だ」と言っています。「有害活動」というのは、何を意図しているのか？他に日本で起こることも含めて利用しようとしているのかも知れません。
また、「拉致被害者の帰国に向け、日朝間の話し合いをさせるのが警察の仕事」とも言っています。ここまできたら本当に外務省ですね。「そのためには北朝鮮の資金源について『ここまでやられるのか』と相手が思うように事件化して、実態を明らかにするのが有効」。「事件化する」、これはもう証拠ですね。恣意的に法を厳格的に適用して、事件でもないものを事件化するということですね。（国策捜査だと）自分で言っているようなものですよ。
さらに「兵庫県警などが摘発した朝鮮総聯傘下の商工会による税理士法違反事件についても、『国税当局と組み、脱税や税理士法違反でやれる形にもっていければと思っている』とし、『北朝鮮の欺瞞（ぎまん）性を明らかにする捜査を通じ、拉致問題の解決に寄与するよう全国の警察を指導する』と話した」ということです。「税務当局と組み、やれる形にもっていこうと思っている」。事件でもないものを事件化し、捜索し、弾圧するようにもっていけるようにしようと思っている、ということです。
こういうことが発表されても、全然問題にならないところが、今の日本の風潮・風土であるので、非常に危険だと私は感じています。薬事法違反の捜査があったときは自民党が「郵政民営化」反対議員を１１人復党させた。留学同が捜査されたときは、浅野・元宮城県知事が石原と対抗して東京都知事に出た都知事選投票の４日前でした。非常に、何か絡めてうまく利用するんですね。
まとめとして、国際人権条約、刑事訴訟法を載せておきましたが、これら一連の当局の動き、そしてマスコミを絡めたやり方で、在日朝鮮人があたかも犯罪者だ、そして、朝鮮総聯が犯罪団体である、朝鮮民主主義人民共和国が犯罪国家である、そのような意識を植え付けて、強制捜査・弾圧が当たり前だという世論を作っています。「あいつら悪いやつだからやってもいいんだ」と。先ほど、ビデオでもご覧になっていただきましたが、関東大震災のときは「不逞鮮人」「あいつらは井戸に毒を投げているから殺してもいいんだ」「朝鮮人は殺しても罪にならない」というような状況がありましたが、それが今、彷彿（ほうふつ）としているんではないのか。そのように思います。朝鮮人嫌悪、そして排外的な風潮が今、非常に高まっています。朝鮮学校にもすごい弾圧があり、そして、一般の人からの嫌がらせもあるということは由々しき問題だと思います。
ある弁護士の先生がおっしゃっていたことが僕は頭から離れないんですが、「ファシズムは決して上から作られるだけではない。民衆、下からもファシズムが作られる場合もあるんだ」ということです。まさに、関東大震災、そして、阪神教育闘争、そして、朝鮮人が弾圧されても何も感じない。むしろ「もっとやれ」というような風潮が起こる。政府の大本営発信、それを受けたマスコミの誤報・誤導によって不感症に陥る。そのような中で「民衆からのファシズム」が起こり得る可能性が現実にあると危惧しています。
教科書の中から「慰安婦」という言葉が削除され、そして、「強制連行」という言葉が消えていきました。このように消えていく中で、特別大きな反対の声が上がらない。また、たくさんの私たちの友人、応援して下さっている日本の方々や先生方が声を上げてくださるんですが、「売国奴（ばいこくど）」「国賊だ」と嫌がらせを受け、カミソリなどが送られる。そのように弾圧を受けて、声を上げられないような非常にファッショ的な情勢がかもし出されているのではないか、ということを危惧しております。
また私が最近の動きで憂慮しているのは、連合（日本労働組合総連合会）中央さんが「北朝鮮の金正日総書記にはがきを送ろう」としているということです。「拉致被害者を返して下さい」、そのようなはがきを１０万枚印刷してみんなで送ろうじゃないか、というはがき作戦・運動を提起しました。去年の１２月２０日に中央執行委員会で決定したようです。もちろん、日教組（日本教職員組合）・自治労（全日本自治団体労働組合）などは反対したみたいですが、労働組合の方からそのような声が上がることを非常に心配していますし、もっと他にやるべきことがあるんじゃないかと「本当にこれでいいのか」と思います。
レジュメの最終ページに一連の強制捜索一覧を載せておきました。これだけではないんですが。またまた今年に入って、京都で１月２１日・２２日に入りました。１２０人の公安警察が、武装警官とともに強制捜索に入りました。１０日前です。その抗議集会・デモがちょうど明日ありますので、チラシのコピーも載せておきました。もし時間がございましたら、連帯して一緒に反撃の声、団結の声を上げていただければと思います。また、一緒にデモをしていただいて、市民に本当に正当な声をともに訴えていきたいと思います。
まとまりませんでしたが、歴史を繰り返してはいけない。そして、この警察・検察・裁判所が「ええんか、これで」ということは、私たちの組織も、在日朝鮮人も同じように強く思っています。今後とも団結して、反撃の声を上げていき、ますます連帯して力強く闘っていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします。ありがとうございました。
報告�◆”�落解放運動から
木邨 秀幸（部落解放同盟全国連合会寝屋川支部事務局長）
こんばんは。部落解放同盟全国連合会（全国連）寝屋川支部の木邨と言います。
報告の骨子としましては、大きく３点あります。一つ目は全国連に対する相次ぐでっち上げ弾圧の経過。二つ目は、この間のマスコミの部落差別キャンペーンについて。三つ目、そういった許しがたい差別キャンペーン等の中で、全国連始め部落大衆はがんばっている、ということ。以上の３点について報告したいと思います。
始めに弾圧の経過ですが、まず「寝屋川でっち上げ弾圧」について報告したいと思います。私もその弾圧の「被告」の一人です。
２００３年３月、アルバイトで生活していた全国連寝屋川支部の島田青年部長が、メタルカラーという会社に就職しました。そこで本人は、一生懸命働いていたんですが、仕事中に段差でつまずいて、その弾みで腰を痛めたんですね。それでも痛みを我慢して仕事をしていました。しかし、どうしても我慢できないんで、会社に「２日間だけ仕事を休みます」ということで、連絡をしたんです。そうしたら、何と会社の課長がわざわざ島田君の家に来て、「明日から来なくていい」、そう言って解雇を通告したんです。島田君は労災を訴えました。しかし、それに対しても課長は、「誰も見ていないから、労災は認められない」。そういった不当労働行為を行ったんです。
もちろん、島田君は納得できないので、労基署（労働基準監督署）に相談しました。それで、労基署の指導を受けて、さらに私たち寝屋川支部の方にも相談があって、滝口支部長、伊地知副支部長、私、島田君本人の４人で会社に行きました。それで、交渉を行ったんです。そこで、当然にも会社の方は労災を認めて保障を出すということで、一旦話は円満に解決しました。
ところが何と、１ヶ月以上経ってから大阪府警の公安３課の刑事が会社に行って、会社に嘘の被害届けを出させたのです。何と、私たち４人に恐喝された、という話をでっち上げたんです。５月２２日、私たち４人は逮捕されました。警察はこの会社に対して嘘の被害届けを出させるに当たって、何と言ったのか。みなさん、よく聞いて下さい。「部落解放同盟は社会のダニだ、寄生虫だ」「全国連は何をするのか分からない、そういう連中だ」。そのように会社に差別的な偏見を煽って、いわゆる「説得」したんです。絶対許せません。
では、どうしてこのようなでっち上げ弾圧があったのか、という背景です。私たちは寝屋川の国守（くにもり）という部落です。そこで、同和住宅の家賃値上げ反対、住宅の改修要求、そういった運動をやってきました。そして、差別行政を糾弾するという運動が大きく住民運動として、ムラで巻き起こっていったんです。その中心に、さっき言いました４人、そして、寝屋川支部があったんです。
警察と検察は、この私たちへの憎しみをあらわにして、部落解放運動、そして、寝屋川支部を潰すという目的で弾圧したんです。これが狙いです。しかし、不当弾圧をはねのけて、４人を先頭に寝屋川支部、全国連、そして、今日集まっているみなさん、労働組合のみなさん、一体になって闘って、２年後の２００５年５月２５日、第１審無罪判決が出ました。その直後の６月９日、検察は控訴すらできずに４人全員無罪が確定しました。大勝利です。今日、この会場に、さっき言いました滝口支部長、伊地知副支部長がいます。島田君は仕事で来ていませんが、本当に不屈に闘っています。
二つ目に、まだみなさんも記憶に新しいと思うんですが、昨年６月１３日、大阪府警公安３課は、産業廃棄物に関する取り締まり違反容疑で、全国連中央本部・中田書記長始め４名の仲間を不当逮捕しました。そもそも担当行政である高槻市が何の行政指導もしていません。にも関わらず、大阪府警が担当行政を飛び越えて弾圧してくる事態は認められません。
みなさん、逮捕のやり方の中に政治的意図がはっきりと見てとれます。あらかじめＮＨＫにリークして、逮捕の瞬間を「荒本の中田」として大々的にＮＨＫで放映されました。この間、大阪市や奈良市、京都市で行われているいわゆる「反同和キャンペーン」。このやり方と全く同じです。「全国連も他の同和団体と同じく利権屋集団に過ぎないんだ」、そういったことを狙ってです。
また、９月の東大阪市議選に出馬する荒本支部の阪口支部長必勝に向けて、６月１０日、荒本支部で支部大会が成功裏の内に勝ち取られました。まさにその直後、６月１３日、中田書記長がでっち上げ逮捕されたんです。大阪府警公安３課は、東大阪市議選に出馬する阪口候補の選挙陣形を破壊し、全国連荒本支部を封殺する、そういう狙いで今回の弾圧を行ったのです。
みなさん、よく聞いて下さい。つまり、解放同盟、私たちは「本部派」と言いますが、「解放同盟の本部派はこの間の同和キャンペーンで黙らせた。問題は差別糾弾を言う全国連だ、荒本支部だ」、と言うわけです。しかし、この荒本支部は潰せないと見るや、今度は高槻医療労働組合に対する弾圧へと拡大していきました。しかし、労働者の仲間の不屈の闘いによって、この弾圧も完全に粉砕しました。これは、本当にみなさんも待ち望んでいたと思うんです。
次に、政府・行政・マスコミらが一体となって、部落解放運動潰しの攻撃をやってきています。まず、マスコミのあくどい差別報道について徹底弾劾しなければなりません。
２００６年５月、飛鳥会の小西の逮捕（小西邦彦。０７年１１月病死。業務上横領などの罪に問われ１審では懲役６年の実刑判決。元部落解放同盟大阪府連飛鳥支部長・飛鳥会理事長。この事件は「同和利権に絡む事件」として大々的に報道された）をきっかけにして、マスコミは一斉に「同和不正」なるキャンペーンを行いました。マスコミが国と行政の手先となって、差別意識を煽り、差別そのものを拡大するというものです。もちろん、私たちは飛鳥会の小西を始め、八尾市の丸尾（丸尾勇。０７年１０月、恐喝・脅迫などの罪で１審懲役４年６ヶ月の実刑判決。部落解放同盟大阪府連安中支部元相談役）、奈良市の中川（中川昌史。０７年８月、職務強要罪で１審懲役１年６ヶ月・執行猶予３年の判決。元部落解放同盟奈良県連古市支部長）、このような解放同盟の本部派の幹部が肩書きを利用して私腹を肥やしているという事実については、許すことはできません。
しかし、問題は、そのマスコミが腐敗問題に乗っかって何をやっているのか、ということです。マスコミは解放同盟本部派の幹部と部落民総体を意識的に同列に扱って、同和住宅の家賃値上げに反対して闘う住民に対して、あるいは、保育料の値上げに反対して闘う保護者に対して、「不当な要求だ」と言わんばかりの報道を意図的に流しているんです。
こうした一連の差別キャンペーンがきっかけになって、インターネットの「２チャンネル」（人気のホームページ。誹謗中傷の書き込みが多く、問題になっている）では、解放同盟の幹部だけではなく、全ての部落民や現業労働者（ここでは、行政の業務の中で清掃や下水処理等々、市民生活を支える現場労働者を指す）に対して差別・罵倒、さらには抹殺を呼びかける、そういう書き込みが連日に渡って行われました。奈良・古市の中川の問題がテレビで大きく報道された一昨年の９月下旬からたった１ヶ月で何と４万件もの差別書き込みが行われたんです。この直後、１０月に取り組まれている奈良市における小中学生・保護者・教育労働者を中心にした狭山集団登校（狭山闘争勝利を訴えてデモを行いながら登校し、全校集会などを行う取り組み）が中止に追い込まれるというできごとが起こったんです。この点について詳しくは、あとで報告します。
続いて、このマスコミの差別キャンペーンの下で、大阪前市長・関らの差別暴言について徹底弾劾しなければならないと思います。大阪前市長・関はこう言っています。「同和を特別扱いしたことがそもそもの誤り。今後は特別扱いしない」。また、京都市長は「市職員の不祥事は、現業に同和地区の者を甘い基準で採用したことが原因だ」。みなさん、これではまるで、「部落は悪の巣窟（そうくつ）だ」と言わんばかりの恐るべき差別扇動ではありませんか。こういったことを、行政の首長が先頭を切って開始したということです。
みなさん、これまでは「部落差別は国の責任、差別の解消には特別対策が必要」というように、いわゆる同和対策審議会答申の立場でした。これから見れば１８０度の転換です。マスコミは同和キャンペーンを変えず、今や、「同和対策でも自立しなかった部落民の方が悪い、そんな部落民には部落差別が当然なんだ、文句を言う方がおかしい」と言わんばかりに、差別の大合唱です。
ところで、この関らの狙いは何か。同和対策事業をばっさり切り捨てる。部落解放運動を絶滅する。これが狙いです。大阪市内では、青少年センターの廃止を始め、次々と同和対策事業が廃止されるという攻撃が襲ってきています。もちろんこれに対しては、反撃にも立ち上がっています。
このような中で、残念ながら、これまで左翼と言われてきた一部の党派において、以上の流れに加担するような差別事件も生み出されています。私たち全国連は２月２４日（日曜日）午後１時から阿倍野区民センターにおいて、真相報告集会を行います。是非、参加して下さい。当該の訴えを是非、聞いて欲しいと思います。
次、大きな３点目に、以上のような差別の扇動に対して部落大衆は決して負けない、不屈に闘っている、ということを報告したいと思います。
闘いの最大の焦点になっているのが、住宅闘争です。今日、部落解放運動を絶滅する攻撃のもっとも激しい矛先が同和住宅家賃値上げ反対の闘いに向けられています。同和住宅とは、部落大衆が差別をはねのけて、居住と生活を守るために自らの土地、家屋などをムラ全体のために提供して建てられた住宅です。同和住宅は部落大衆の共有財産であって、その建設と維持は部落差別に対する国と行政の賠償の意味を持っています。行政が勝手に値上げをするなど、許されません。このような同和住宅の歴史的な成り立ちを国と行政が勝手に変更して、「もう部落差別はなくなった」とでっち上げて、部落の共有財産である住宅を部落大衆から奪って、現実に払えない家賃に値上げする。７万円、８万円に家賃を値上げするということもあります。部落大衆を住宅からたたき出そう、そういう攻撃をかけてきています。
私たち、寝屋川の国守という部落では、約７００戸の団地があるんですが、今は、１００戸以上空き家です。寝屋川市は募集もしていません。部落の周辺でも「団地に入りたい」という要求もあるんですが、寝屋川市は一切受け付けません。団地からムラの人が出るばかり。追い出されるばかり。このことは、どこのムラでもそうです。
このように住宅闘争は、まさに部落解放運動の存亡をかけた、部落解放運動の根幹を問う攻防であって、妥協の余地のない絶対に譲らない闘いとなっています。命がかかった闘いに完全に突入しました。
これに対して、部落のきょうだいは、「我々は同和住宅に住む権利がある」として、不屈に闘っています。とりわけ、奈良市のきょうだいのことを報告します。奈良市内にある古市と西之阪という二つの部落で同和住宅家賃値上げに反対して、住宅組合を結成して闘っています。これに対して、奈良市は昨年の３月、１５名の住民に、給料の差押命令を送ってきました。住宅組合は、「やれることは力を合わせて全てやろう」「団結してやろう」と話し合って、行政に対してあらゆる手段で闘ってきました。具体的には、給料差押命令直後の３月に、「市長に会わせろ」ということで、役所に抗議しました。４月、全関西から１００名が結集し行政交渉を行いました。５月、給与差押に抗議して、座り込み・総出で市役所前でのビラまき。６月、全関西から１００名が結集して、奈良市長宅の周囲の抗議デモに立ち上がる。
このように今、攻防戦の真っ最中です。給与を差し押えられた仲間が言います。「この攻撃に対しては、値上げ反対１円基金を立ち上げて猛烈に陣形を作っています。この闘いに共感した奈良市従業員労働組合は、住宅組合を支援するという支援決議を上げました。部落民、労働組合も巻き込んだ闘いになっていきます」。
この奈良市の攻防戦を始め、さらに八尾・西郡（にしごおり）地区では、昨年１２月、八尾市議会は本議会で３名に（住宅の）明け渡し提訴を可決しました。西宮・芦原地区では、本年３月にも供託者５０名に対して全員明け渡しの提訴が切迫しています。神戸の番町地区では、「家賃と延滞金を払え」と第２次訴訟に突入しようとしています。関西各地区でハンスト、役所への抗議行動等、激しく闘っています。もし、不当なたたき出しというようなことがあれば、全国連は全力を挙げて闘います。そして、労働者のみなさんの支援も訴えたいと思います。
次に、差別キャンペーンの下、一度は崩された狭山集団登校のリベンジ（一度敗れた相手に仕返しをすること）を勝ち取ったことを報告したいと思います。先に報告しましたが、奈良市内の古市と横井という二つの部落が合同で小中学生を主体に毎年１０月、狭山集団登校を１９８５年から２０年あまり取り組んできました。この狭山集団登校が中止になったのは、横井部落にある児童館への差別投書と脅迫まがいのインターネットの差別書き込みが原因です。
解放同盟の古市支部長・中川の逮捕、一連の騒動に加えて、差別投書が来た。「こどもに何らかの危害が加えられるようなことがあっては大変だ。今の状況では一般的に理解や支持は得にくい。また、マスコミのネタにもされかねない。集団登校は自粛する」という旨の解放同盟奈良県連の指示がかった方針を受けて、横井支部が中止を決定したのです。古市では「横井がそう言うなら、古市も中止にした方がいいのではないか」という意見もあれば、「いや、絶対にやるべき。こどもたちがやりたがっている」「しかし、万が一何かがあれば誰が責任を取るのか」という中で、一旦、集団登校が中止になっていたんです。
全国連の古市支部はこの敗北を総括して、悔しさをバネにその１２月、マスコミ・行政の差別扇動を糾弾する緊急古市住民集会を開催して、「２００７年１０月には必ずリベンジを果たす、狭山集団登校を勝ち取る」と誓ったんです。全国連が責任を持って貫徹する。リベンジするに当たって、古市では壁新聞、古市新聞、立て看板などをムラ中に張り巡らし、オルグ活動も行い、解放同盟も全国連も超えた狭山集団登校を勝ち取ろう、そして、全国連は児童らを体を張ってでも守り抜く、集団登校に際しては指一本触れさせない、そういう断固たる決意で臨みました。そして、昨年１０月２６日にリベンジを果たし、狭山集団登校をついに復活させたんです。
今、狭山事件の第３次再審を巡る闘いは非常に切迫しています。全国連は、この１月２２日に、「一刻も早く事実調べを行え、再審を開始しろ」と、東京高裁・東京高検へ要請行動に立ち上がりました。無実の石川一雄さんは新年のメッセージで「生死を賭して、狭山勝利実現に向けて不とう不屈に闘っている。強靭な闘魂を全面に出して、狭山勝利・部落完全解放のために火の玉となって邁進（まいしん）する」と檄を発しています。私たちは、この石川さんのメッセージを真正面から受けて闘います。
最後に、寝屋川弾圧、荒本弾圧のとき、本当に多大なご支援、ありがとうございました。改めてこの場をお借りしましてお礼を申し上げます。そして、この大事な反弾圧ネットワークという闘いの場を、関生支部、港合同始め、全ての闘う仲間とともに、守り、発展させていきたいと思います。闘う朝鮮総聯、釜ヶ崎地域合同労組の仲間とともに団結して闘いたいと思います。
４月１２日〜１３日、第１７回目の全国連全国大会を、自らの解放を懸けて、東大阪荒本人権センターで行います。これに対する参加を訴えて、私からの報告を終ります。ありがとうございました。
報告�� 釜ヶ崎日雇い労働者から
稲垣 浩（釜ヶ崎地域合同労働組合執行委員長）
「差別と闘う」ということであれば、在日朝鮮人差別に対する闘いもあります。それから、部落差別と闘う。ここまでは大体、「差別と闘う」ということで、色々な闘いがあり、もちろん評価もされてきた。ところが、釜ヶ崎はやっぱりそこからはずれているんですね。それがどうしても私は納得できなくて、釜ヶ崎の差別について、差別のされ方は違うけれども、本質は一緒じゃないか。そう思っていまして、今回、こういう話の中で、関生支部に「部落差別、あるいは、在日朝鮮人の差別と闘う、その二つだけじゃなくて、やはり釜ヶ崎の差別の問題も取り上げて欲しい」と言ったんです。そうしたら関生から「やろう」という風に言っていただきました。こういうことは、今までなかったと思うんです。そういう意味では、本当にちょっと感動しながらここに立っているわけです。
本題に入ります。釜ヶ崎というのは、一口で言ったら日雇い労働者の街なんですね。こういう街は、東京の山谷（さんや）、それから横浜の寿町（ことぶきちょう）、名古屋の笹島（ささじま）。これが４大日雇い労働者の街と言われています。
釜ヶ崎に対する差別というのは、釜ヶ崎の日雇い労働者に対する差別なんですね。それは一般的にどういうことが言われているのかというと、「釜ヶ崎は怖い」とかね。それから、「働かない人が釜ヶ崎に行っているんだ」とか。それから「社会生活が営めない人が釜ヶ崎に行っているんだ」とか。こういうことをずっと煽られてきました。これは特に行政がやっています。もちろん、一般の人も言っていますが。
それに対して、「そうじゃないんだ」という一つの証拠があります。「釜ヶ崎で日雇い労働をしている人たちは働かない」「働く気がない」ということに対する反論ですが、釜ヶ崎に通称「センター」（あいりん総合センター）というところがあります。新今宮駅の南側です。そこは、午前５時にシャッターが開くんです。それで、労働者たちは、何時に起きて仕事を探しているのか、と言うと、早い人は３時半ですよ、みなさん。朝の３時半。センターのシャッターが開く５時前からもうすでに仕事を探しにセンターの周辺に労働者が、どや（簡易宿泊所の通称）から出て行っている。アパート住まいの人もいますが。
ですから、そのセンターの周りの状況を見てもらえば、「働かない」ということは、一挙に否定されると思います。ところが知らない人は、そういう風に思ってしまうんですね。「釜ヶ崎は怖い」と。労働者は何も怖いことないですよ。怖いのは暴力団ですよ、はっきり言って。業者も怖い。無茶をしますから。
釜ヶ崎の日雇い労働者たちは、何も怖いことはありません。一生懸命日雇い労働をしている。関生さんは「日々雇用される労働者」とおっしゃっていて、僕は日雇い労働者という言い方をしていますけれども。そういう何も知らない人に対して、権力が、そういう風に煽って差別感情を持たせて、「だからあそこに対しては何をしてもいいんだ」という風潮を作り上げている。
それで、私たちが以前から取り組んでいることがあります。釜ヶ崎のそのセンターの中に、あいりん職安という公共職業安定所があるんです。ここに務めている人は国家公務員です。どこの職安にもあるような職安です。ところが、このあいりん職安は、日雇い労働者たちに仕事の紹介業務をする、ということでできたにも関わらず、もうできて３８年も経つのに、これまで１件の仕事の紹介業務もしていません。１件もしていないんです、３８年間。そんな職安ありますか？全国どこの職安でも仕事の紹介業務をしないところなんてないでしょう。
先ほど言いました、東京・山谷の玉姫職安は仕事の紹介業務をしています。横浜の寿町の寿職安も仕事の紹介業務をしている。名古屋の笹島にある中職安も仕事の紹介業務をしています。求人が少ないから数は少ないけれども。でも、仕事の紹介業務はしているんです。ところが、あいりん職安は仕事の紹介業務をやらないと決めているんです。職業安定法にそんなことが書いてありますか？仕事の紹介業務をするということが第一番ではないですか。そして、仕事にあぶれた人にあぶれ賃（日雇労働者失業保険給付金）を支給する。職安の役目はこの二つの柱です。まだ他にもありますけれども。
その一番肝心要の仕事の紹介業務を全くしない。しかし、そこの職員は給料を一人前にもらっているんですよね。おかしいですよ、これは。３８年前の当時、こう言っていたんです。あいりん職安の他に、財団法人西成労働福祉センターというのがあるんです。これは大阪府の外郭団体です。その労働福祉センターに、とりあえずは、手配師、あるいは人夫出したちを登録させて、まっとうな業者になった段階であいりん職安に移行させていく、という話だったんです。これも１件もありません。
未だに、釜ヶ崎の日雇い労働者たちは、手配師、あるいは人夫出しの手を通じてしか仕事にいけないんですよ。そこでは、日常的にピンハネが行われている。一人当たり３，０００円〜４，０００円ピンハネしています。中間搾取ですよ。だから、悪いけれど、彼らは業者とは言えません。違法なんだから。労働基準法第６条ではそうなっています。それをやっている人たちです。これも言ってはいけないけれども、ほとんど暴力団とつながっています。あるいは、暴力団そのものです。その資金源になっている。だから、そうではいけないということで、あいりん職安ができた。しかし、にも関わらず、未だに３８年経って、１件の仕事の紹介業務もしていない。
今、言いましたように、その結果、手配師、あるいは人夫出しを通じてしか仕事に行けない。だから、ピンハネがある。もう一つ、条件違反というものがあります。聞いていた仕事と違う仕事をさせられる。「片付けの仕事で簡単な仕事や」と言われていたのに、とび職をやらされる。石屋さんの手元、鉄筋工の手元をやらされる。これは条件違反です。全部が全部そういうひどい手配師、人夫出しだとは思いませんが、しかし、そういうところが多い。
そして、賃金の不払い。これは飯場（はんば）の契約の仕事が多いんですけれど、労働者が働いて「お金下さい」と言うと、「今、ないねん」と言われる。そんな馬鹿なことないでしょう。１０日契約ということで１０日間働いて、さあ賃金もらって帰ろうとしたときに、「今、ないねん、ちょっと待ってくれ」と言う。普通こんなことありますか？こんなことが行われている。賃金の不払いです。
そして、労災（労働者災害補償保険）のもみ消し。ある労働者がけがをした。その人は、足に重たいものを落として骨折していたんです。そうしたら「飯場にしばらくいなさい。労災の手続も取るし」と言われたのでそうしていた。そして、治りかけてきたら追い出すんですよ。そういう人たちが僕らの組合に相談に来て、僕らは手配師とも話をする。手配師たちが労災手続をしなかったら元請と交渉して、元請にちゃんと労災保険を適用させる。そういうことをやっています。
それから、現場での暴力事件。去年７月のことです。去年の夏、暑かったでしょう。そのときに、ビルの中で仕事をしていた労働者がふらふらしたから、現場監督に「ちょっと休ませて欲しい」と言った。そうしたら、現場監督はＯＫしたんです。「構わないよ、そこで一服しておきな」と言った。そうしたら、飯場のボーシン（工事現場で施工にあたる各職それぞれの統率者のこと）が来て、「お前、何でそんなところで座っているんだ、働かんかい」と言った。労働者は「いや、今、現場監督にふらふらするんで一服させてくれって言って、いいって言われたからここに座っているんです」と言ったけれど、「やかましい」と言われて、５、６人にどつかれて、無理やり仕事をさせられた。そういう相談で労働者が来た。それで手配師と話したんですね。労災に準じた休業補償を出す、「これから暴力を振るいません」ということになった。
今から４年前、長野県の朝日建設の事件。これは新聞にも出ていましたけれども、飯場で働いていた日雇い労働者が殺されて、自分の敷地である山に埋められていた。こういうことが後を絶たないんです。これは誰の責任ですか？労働行政の責任じゃないですか。釜ヶ崎で言えばあいりん職安ですよ。あれは労働行政だから。
私たちは、今、毎日あいりん職安に対して「仕事を紹介しろ」と言っている。おかしいでしょう。職安に対して「仕事の紹介をしろ」と言うんです。どこの職安でもやっていることをやらない。そのことによって、全部、労働者にしわ寄せが来ているんです。
そして、このことを既成の政党、例えば、自民党であれ、公明党であれ、民主党であれ、共産党であれ、社民党であれ、社民党はちょっと協力してくれていますけれども、みんな知らん顔ですよ。ほったらかし。信じられないでしょう。仕事の紹介業務をしない職安があったら、「仕事の紹介業務をしなさい」と誰でも言うはずです。でも、言わない。ですから、私たちが声を上げている。去年９月２７日から毎日、センターの１階で演説して、それで、職安で（あぶれ）認定の始まる時間に行って、「仕事の紹介業務をしろ」と言う。１階に手配師がいるときには、彼らは威圧してうろうろするんですよ。ちょっと恐怖を覚えることもあります。手配師に対して批判しているんだから。でも、一番悪いのは労働行政です。国。これが一番悪い。あいりん職安に対する「仕事の紹介をしろ」という要求を実現するまで、職安がやっているときは毎日出て行きます。
それと、これについて『週刊金曜日』というところが取材に来まして、多分、来週か再来週に記事になっていると思います。厚生労働省の出先機関である労働局は、「仕事の紹介業務をしなければならないということは、検討課題ではある」という風に『週刊金曜日』の記者には言っている。僕も楽しみなんですが、「仕事の紹介業務をしないのはおかしい」という立場で記事が出ると思いますので、見ておいていただきたいな、と思っています。
それと、日雇い労働者が生活に困って訪ねていくところが釜ヶ崎の中にあります。それは、市立更生相談所というところです。「更生」という言葉は差別ですね。日雇い労働者が何で更生しなければならないんですか？おかしいですよ。
ここは、生活に困った労働者が訪ねていくところです。ここでは、労働者が施設なんかに入るのは嫌だから、「アパートを借りて下さい」と言うと、そこの職員は「うちはそんなことはしてない。施設だったら空いていて入れるから、施設に入りなさい」と言う。それに対して「嫌だ」って言ったら、「それならあなたは出て下さい」と言われて、労働者は窓口から追い出される。そういう人たちが公園や路上や河川敷で野宿しているんですよ。
生活保護法の基本原則は、居宅保護です。アパートとか、文化住宅とか、自分の持ち家もあるかも知れません。そこで生活に困ったら、居宅保護。それにお金を出す。ところが、釜ヶ崎の日雇い労働者は施設ですよ。施設については、（生活保護法に）１行あります。「居宅保護で十分やれない場合は施設もある」と書いています。「但し、強制できるものと解してはならない」と、ちゃんと但し書きであるんですよ。ところが、労働者が一人で訪ねていったら、施設に入れられてしまう。これは差別じゃないですか。あいりん職安が仕事の紹介業務をやらないというのも差別でしょう。おかしいですよ、こんなの。
それで、古い話なんですが、１９７５年２月２６日、僕は花園公園でテントを張って生活していた。あの当時はオイル・ショックということで、野宿される方がたくさんおられた。そのときに大阪市が（野宿者とそのテントを強制排除するための）行政代執行をしたんです。そのときに、大阪市従（大阪市従業員労働組合）の青年部の人が声明を出してくれた。「私たちは行政代執行には協力しません」という文章を出してくれた。僕は今でも持っていますけれども、非常にありがたかった。
でも、最近どうですか？行政代執行するときに全面に出てくるのは市職（市職員労働組合）・市従の人じゃないですか？あのときに「行政代執行に協力しない」と言ってくれた人は今、どうしているんですか？それはやっぱり情けないですよね。
労働者として、立場も違うし条件も違う。こっちは日雇い労働者。彼らは、大阪市職・市従の労働者です。しかし、同じ労働者です。本来は、当局に対して団結して闘わないといけないわけです。ひどいことをする当局に対して。ところが、ヘルメットを被って強制排除しに来るのは、ガードマンもおりますけれど、市の職員ですよ、情けない。労働組合ですよ。どうして、７５年の当時のように「協力しません」って一言言ってくれないんですか。
さっき話していた関・元大阪市長ですよ。あいつは本当に悪いやつです。野宿生活者に対してもひどい対応をした。今度の平松さん（平松邦夫・新大阪市長）はどうか分からないけれど、少なくとも、やはり労働組合の人であれば、同じ労働者として、こっちは野宿して寝ている人ですよ。そういう人のテントを潰しに行ったらいけないですよね。そんなことに協力してはいけない。だから、１９７５年の行政代執行のときには機動隊が来ました。いいじゃないですか、機動隊で。何も大阪市の職員が手を汚すことはない。警察にやらせたらいいんじゃないですか。
それ以来、私は２０回捕まっています。令状逮捕があったり、現行犯逮捕で持っていかれるならまだ分かる。でも、令状もない、現行犯逮捕でもない、「隔離」ということをやられることがある。
あるときに、釜ヶ崎の中で、食堂で労働者がひどい扱いをされて怒った。僕らは、そこに駆けつける。そして、その食堂に抗議する。そうしたら、警察がどっと来て、隔離するんです。隔離って何をするのかと言ったら、警察官５、６人で囲んで、西成警察署に連れて行かれるわけです。警察署に連れて行って、１階の待合室のベンチで座らせて囲まれてずっとおるんです。それで、その抗議行動が終るまでずっと警察の中です。留置場には入りません。そんなことを平気でしてきているんです。
他にも、あるときに僕が通称「銀座通り」と言うけれども、西成警察署の前を歩いていた。人間、右足と左足を交互に出して歩くでしょう。そうしたら私服（私服警察）が来て両方から僕を挟む。僕が右足を出したら私服が右足を踏む。「おっ」と思って、左足を出したら、左足を踏む。そうすると動けないわけです。手を出したら公務執行妨害でしょう。でも、そんなこと許されますか？
そして、今日は弁護士の先生が来ていますが、先生じゃなくて、もっと若い人だけれど、その人が司法試験に通って、パトカーで釜ヶ崎の中を案内されたらしいんですね。そうしたら、そのパトカーに乗っていた警察官が、弁護士になるか、検事になるか、裁判官になるかは分かりませんが、その人に対して、名指しで「ここには稲垣っていう悪いのがおる。何にも知らない労働者にたき付けて、暴動にしていくんだ」と言ったそうです。そういう風に名指しで言われた。
僕はその弁護士さんをちょっと忘れてしまったけれど、ここ４、５年の話ですよ。それもやはり問題にしてもらわなければいけない。だから、僕なんかが裁判に行ったら裁判官の目つきが違うわけですね。向こうは「こいつは悪いやつだ」と思っている。こっちはそれを見ただけで「有罪にされる」と思う（笑）。「これはあかんわ」と（笑）。
昔は、判決の中身は別にして、裁判官が話を聞いてくれた。ゆっくり話を聞いてくれた。今の裁判官は違う。この間も高裁で裁判があって、１２月に裁判の第１回目があって１月にもう判決が出る。１ヶ月足らず。そんなのいい結果が出るわけがない。もう分かっている。地裁の判決をそのまま踏襲する。たった１ヶ月ですよ。話も何も聞かない。そういう裁判所・裁判官が増えているということです。
残り時間ももう無いでしょうけれども、警察に対しては言いたいことがいっぱいあります。例えば、僕が風呂屋に行くでしょう。風呂の中に一緒に入って来るんですよ、私服が。気色悪い（笑）。それに、大分昔のことですが、パチンコに行くでしょう。パチンコに行ったら、夢中になって打っているじゃないですか。チューリップが開いて玉がよく入るんですよ。そうしたら、隣に誰か座って、「稲垣、よく入るな」と言う。ぱっと見たら私服ですよ。途端に、チューリップが閉じてしまう（笑）。玉が入らないようになってしまう。そんなことを散々やられて来たんですよ。
でも、僕はやはり、考えは変わらないし、変えようとも思いません。間違っているのは、警察だし、権力である。裁判官もいけない。そういうことでやはり、みんなと、今日発言された朝鮮総聯、在日朝鮮人と団結しなければいけない。釜ヶ崎も朝鮮人は多い。それは差別の結果です。民族差別の結果、就職の機会均等を奪われて、本当に権利のない無権利状態の釜ヶ崎で働かざるを得ない。被差別部落の人もそうです。差別の結果、仕事に就けない。日雇いとして働かざるを得ない。ほとんど無権利です。一般民の私たちもそうです。ほとんど無権利。そういう状態の中で、何とか労働者として生きていく権利、そして、人間として生きていく権利を獲得したいと、釜ヶ崎でがんばっています。
私たちは、釜ヶ崎を出て行くんじゃなくて、釜ヶ崎の中で、例え日雇い労働者としても、きちんと働いて生活できる、そういう状況を作っていこうと思っています。
最後に一言。もう大分前ですが、市立更生相談所の職員がこう言ったんです。ある労働者が相談に行ったときに、「あんたら釜ヶ崎がそんなに苦しいんだったら、くにに帰れ」と。それは、在日朝鮮人に対してどういうことになるのか。僕らはその人の話を聞いて、抗議に行きました。そうしたら、どう言ったと思います？「ふるさとに帰りなさい」と言った（笑）。同じじゃないか。そういう風にその場その場で言葉を変える。でも、やっていることは一緒。国も大阪市も無権利の状態で放置している。
是非、釜ヶ崎のことは分かって欲しい。みなさん方と団結して、この差別・分断・支配を行う権力の狙いを打ち砕いていきたい、そういう風に思っています。まとまりのない話で申し訳ありませんでしたけれども、今後ともよろしくお願いします。
まとめ
遠藤 比呂通（弁護士）
最初に朴国際統一部長、そして木邨事務局長、稲垣委員長の方からのお話を、私なりにまとめるつもりで聞いておりました。ただ、一つ一つの話が、考えさせられる話であり、本当にこれから考えていかなければいけないことを含んでいたんで、自分が何を話そうか、ということを考えるのを途中から放棄してしまいました。ですので、今日、ここで語られたことについて、私が普段弁護士として扱っている事件と重ねながら、もう一回その話を私なりに理解した中身を話すことで、まとめにはならなくて申し訳ありませんけれども、この場でのまとめに代えさせていただきたいと思います。
まず、最初に朝鮮総聯の方からお話いただいたことについてですが、特に公安警察による弾圧の話がありました。その中で、私がもっとも考え続けていかなければならないと思ったことのうち、他の二つに関係しそうなことを言います。昨年の滋賀県の朝鮮初級学校に機動隊が１００数十名、車庫飛ばしのことで強制捜査が入って、刑事事件になりました。そして、一人は起訴され、一人は不起訴になったと思います。この事件では、捕まった方の中でも違う扱いをされたという問題もあるわけですね。
そのときにその学校に通う子どもたちがどうだったのか。「学校に警察が来たよ」と。自分たちが登校するときに、ひどい目にあうことがあると、交番のお巡りさんというのは守ってくれる存在だと思っていた。それなのに、自分たちの学校に強制捜査に入ってきた。学校を閉鎖して入れなくして、その中で小学生が自分の学校に入ろうとしたのも止められたそうです。
そこで警察が何をしてきたのかと言うと、「誰がこの学校に通っているのか」「その親は誰か」、ということで、名簿を持って行った。持って行って何をしたのか？その親に直接であったり、入っている組織であったり、あるいはその親の方々が勤めている先に、公安警察が働きかけをした。「そういう学校に通い続けることはよくないぞ」と。実際、私の知っている大阪市内の朝鮮初級学校では、そこは私が、田中ひろみさんという方が中心でやっている「劇団水曜日」という活動で行った初級学校なんですが、そこに通っていた本当に目が輝いていたある子どもが、その学校を辞めざるを得なくなった、ということがありました。
それは、色んな事情があったんだと思いますが、そういった状況の中で、自分の選択ではなく辞めざるを得なかった。では、そういった理由で転校したその子は、転校先の学校に馴染めるのか。その子は、本当に明るい、体育も活発にできる子だったけれど、これまでやってきたことが続けられなくなった。しかも、それが、非常に意図的な弾圧による。大人を弾圧するだけではなくて、子どもをそういう風にしてのみ込んでいく。こういったことがまず覚えられる必要があると思います。
ところで、我々弁護士とか法律家は、特に権利という問題を大事にします。教育を受ける権利とか、民族教育の権利、というものがありますけれども、そういった言葉では語れないような何かが問題になっているのだと思います。
それはどういうことかと言うと、この社会の中で、例えば、今、最後に稲垣浩さんが「釜ヶ崎のところまで中々来ない」と言われました。
「釜ヶ崎の人でも労働基本権がある」というのが権利ですよね。でも、先ほどの稲垣さんの話にあるように「日雇い労働者の人でも」ではなくて、日雇い労働者ということを誇りに思っている。「くにに帰れ」とか、「ふるさとに帰れ」と言われない。その場所で働き、生活していく。そのためには是非、白手帳（雇用保険日雇労働被保険者手帳）や、職業紹介や、せめて、「どこで働き・いつまで働き・何をして働き」ということがしっかり分かって、けがをしたら労災を受けられる。というように、当たり前のことが保障されることが必要なんですね。
そういったこと。つまり、「釜ヶ崎の労働者でも権利がある」のではなくて、釜ヶ崎の労働者であることをちゃんと認めて欲しい。特に行政が、という主張があるわけです。
それと全く同じことが、民族教育の維持に言えるわけです。「日本で差別されている在日朝鮮人の人でも何々の権利がある」ではなくて、その民族の維持、そして、発展が誇りとなれるような社会。
それは民族の言葉を知らない人たちがそれを学べば、きっとその文化を評価することではありません。まして、誰でもペ・ヨンジュンさんのファンになる、あるいは、チマチョゴリ（朝鮮の民族衣装）の踊りを見て、朝鮮舞踏を好きになる、ということではない。それが、我々の社会の不可欠の一部で、日本と言われている社会の中には多数の民族がいて、それぞれの教育と言葉と考え方を持って生活しているということ、「他民族共生社会」と呼んでいますが、その当たり前のことを認めるということですね。
それが、なぜこういう風にしばしば弾圧されるのか。警察が朝鮮総聯の本部に入ったり、民族教育の学校現場に入ってくるだけじゃなくて、稲垣さんは、右の足を踏まれ、左の足を踏まれ、パチンコ屋にも付いてくる、というようなことを毎日やられている。一体、この日本という国はどんな国なんだろうか。
特に、民族教育と言われているものが徹底的に潰される。先ほど、阪神教育闘争の話が出ましたが、まず、サンフランシスコ講和条約発効とともに、在日韓国・朝鮮人は国籍がなくなる。それ以降、朝鮮人を強制的に日本人に同化させるという政策は尻すぼみにはなっていきますが、今度は全く民族教育の価値を認めない。財政援助を国がしないということが平然とまかり通る。
つい２年前に起こったことですが、朝鮮高級学校を出ても推薦入学を大阪市大が認めないという事件がありました。学校としての教育内容を全く無視して、およそ推薦入学の対象とはしない。そういったことが今日まで続いている。
これはまさにこの社会において、不可欠の一部として、朝鮮民族の民族教育があるのだという事実を認めることができない。民族教育ついてのビジョンが全くないまま、公安警察による自己組織の維持のために、弾圧の対象とし続ける。
さらに先ほど、全国連・寝屋川支部の事務局長の方から、今、部落解放の闘いの中で、もちろん狭山の差別闘争も大事ですが、市営住宅の家賃値上げ反対のお話がありました。これは何を意味するのか。家賃の値上げをして、部屋の明け渡しをさせていくことは、部落という同一的な地域を解体させるということです。もちろん、差別がなくなってそういうことが起こるということは、あり得るかも知れませんが。
やはり、部落解放運動でも、市営住宅を中心とした同和対策特別事業措置において、自分が部落出身であるということを隠すどころか、こういった文化があって、それを誇りにできる。そういった教育がなされてきたはずである。しかも、それがより素晴らしい文化だとか、部落の芸能や食文化を学べばそれを誰でも好きになる、尊敬する、といったことではなくて、我々の社会の不可欠の一部なんだ、だからこそそれを尊重するはずだった。しかし、そもそも一旦市営住宅を追い出されたら、一切入れないという政策です。あとは、家賃値上げを受け入れて明け渡しに応じる地域においては、それが例えば、解放同盟幹部の青年たちであっても市営住宅に戻ることができない。そして、支部そのものも追い出されていく。というようなことが行われているわけです。
そして、釜ヶ崎において、最後に稲垣さんが提起された問題は、釜ヶ崎の中で、やはり二つの考え方がある。一つは、「釜ヶ崎はない方がいい」という考え方です。釜ヶ崎のような労働条件の悪いところはいつか解体されて、みんな正規の労働者になるとか、生活保護で居宅保護が全て統一されるとか、国民年金が全員支給されるとか、そういう色んなことがあれば釜ヶ崎はなくなった方がいい、という考え方が釜ヶ崎の中にもあります。そして、釜ヶ崎の労働者も「私は釜ヶ崎には来たくなかった」「野宿だけはしたくなかった」ということをおっしゃる方もいます。
しかし、釜ヶ崎の中にはもう一つ、色んな家族や職場から離れて、釜ヶ崎に来たこの生活自身を大事にしていこう、という考え方があります。職業安定所に職業紹介をさせる。１件も職業紹介をしたことがない職業安定所に、ちゃんと労働条件を明示させて、雨の日にもあぶれ手当を受け取れるようにさせる。一旦、労働現場に行っていても帰ってきて、ちゃんとあぶれ手当をもらえるようにする。
それは、何を意味しているのかと言うと、日雇い労働というのは立派な労働形態であって、野宿者としてブルーテントで暮らすのも、一つの人間の生き方として認められるべきだ。それを望むか望まないのかはともかく、それが、我々の社会を支え、不可欠の一部となってきたこの何１０年の歴史の重みということだと思います。
私は１９９５年７月に釜ヶ崎に初めて行きました。
８月は韓国のソウルにいました。韓国のソウルで８月１５日に、日帝支配終焉５０年を記念して、ソウルの中心にあった日本総督府の屋根の飾りを解体する儀式が行われました。
そして、私は当時、教壇に立っていた東北大学の生徒と一緒に１２月に釜ヶ崎を訪れました。学生と一緒に炊き出しをお手伝いさせていただいたり、先ほど話があった市立更生労働相談所というところで係長の話を聞いたり、西成警察署を訪問して、地域対策をしている課長の話を聞いたり、学生と一緒にゼミをその場所でやりました。
そのときに、私が非常に印象に残ったことがあります。実は、そのときにお世話して下さったのが稲垣さんが委員長をしている釜ヶ崎地域合同労働組合でした。そこで、稲垣さんが留守のときに、一人の労働者が相談に来ました。私は、旅人で訪問しただけの学者であったわけですが、その人は右目の上に大きなたんこぶを作っていたんですね。思わず「どうしたんですか？」と言って、その人の話を聞いてしまったんです。そうしたらその方は、「実は・・・」と言って話してくれました。彼は、ションベンガードと言われている阪堺線のガード下で、強盗４、５人に襲われた。そして、持っていた８万円くらいのお金を強盗に盗まれた。さらに、大けがをした。それで、その直後に、太子（たいし）の交差点にある交番に行って、「こういうことは俺だけじゃなくて仲間の労働者がやられるから、是非、これは事件にして調べてくれ」と言ったら、警官に全く話を聞いてもらえずに突き飛ばされて、追い返された。そして、彼は「これでいいのか！」と話した。
私は、話には聞いていたのですが、こんなことが本当に起こるんだなということで、びっくりしました。それで、稲垣さんが帰ってくるのも待たずに、その話を聞いた何人かの方が西成警察に抗議に行くということになったので、私はひょこひょこと付いて行きました。
そうすると、たちまち、西成警察の中にはもちろん入ることはできずに、ジュラルミンの扉が閉じられて、たくさんの警察官が前に集まってきた。そして、そこには何百人もの労働者が集まって「どうしたんだ？」「いや、こういうことがあったんだ」ということで、ある者はナイフを出し、ある者は石を投げる。ということがあって、機動隊が１００人くらい集まった。
「一体これはどうなるんだろう」。二度目に訪れた釜ヶ崎で、私はそのときに一番前にいました。本当は「やっぱりこれはまずかったな」と思って立ち去りたかったんですが、今さら逃げるわけにはいかず、そこに立ち尽くしておりました。
そこへ稲垣さんが来て、「今日、こういうことで抗議行動をしている」ということを西成警察に話し、１時間ほど整然と抗議をして、１時間ちょっとしてから解散しました。
その後に、私は稲垣さんと一緒に中華料理屋に行ってごちそうになりました。そこで稲垣さんから「遠藤、お前何しているだ」と、お叱りを受けました。そして、「あんたにはあんたの闘い方があるだろう」と言われました。私はそのときに、今日、この頭の上にある横断幕に書いてありますが、「警察・検察・裁判所」という中の「裁判所で闘う」ということが自分の闘いだと、それ以後思って、しかし、負けてばかりおりますけれども、あきらめずに、「ええかげんにせえ！」と言いながら、今日まで歩んできました。
そこで、最近闘っていることの中で、これは是非、今日の集会で一緒に考えていただきたいことがあります。日本社会の中において、釜ヶ崎やそれ以外のほとんどの人は、まだ自分の国民国家に頼れる。つまり、被差別部落の闘いや釜ヶ崎の白手帳を持っている労働者は「日本にいる」ということはまだできる。そして、民族教育にも朝鮮民主主義人民共和国という本国があります。
だけど、自分の本国を離れて、しかも、日本にオーバーステイ（不法在留・超過滞在）で不法滞在している労働者、そして、その家族がいます。もっとも保護の遠いところに置かれているこの人たちの状況があります。もちろん、釜ヶ崎にもたくさんそういう人がいらっしゃいますし、朝鮮半島、韓半島から来て不法滞在されている方もたくさんいらっしゃいます。
そういった不法滞在の人たちが、日本で子どもを生み、そして、その子が大きくなり、大学に行くようになる。というようになっても、特別在留許可が認められるまれなケースはありますが、ほとんどの場合は警察に捕まり、強制送還されていく。ということが、今、行われています。
この強制送還されていく人を我々はどういう風に、今日の取り組みの中で位置付けることができるのでしょうか？我々は、今日、「公安警察に弾圧される」という共通点を持って集まっています。不法滞在をしている人たちは、公安警察ではなく、普通の警察に捕まります。そして、入管（入国管理局）に捕まります。ただ１度でもその正体がばれたら強制送還される。色んな事情で日本に来ている人たちです。
どうでしょうか。今日、この戦後の我々の社会の中で、不法滞在をしている人たちは日本の不可欠の一部なのではないでしょうか。今日、私たちが着ている服を洗濯した人、今日食べたものを作った人、そして、この建物を造った人の中には、何人ものオーバーステイの人がいます。それを我々は利用するだけで、強制送還する。
今日、稲垣さんが、私が言うべきことはほとんど言って下さいましたが、弁護士になってから一番「しんどいな」、そして、裁判所において闘わなければならないと思っているのは、このオーバーステイの問題です。
５年、１０年日本にいたら、そして、しっかり生活していたら、日本で暮らす権利が、その人たちにまず与えられるべきなのではないか。このことに対する連帯をもそれぞれの闘いの中に含めて、我々の闘いを進めていって欲しいというのが、私の意見です。
まとめにはなりませんでしたけれども、私の話は以上です。
当日配られたレジュメ
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