ミャンマーで新政権が発足した。人口5千万強の国を率いるのは、昨秋の選挙で圧勝した国民民主連盟(NLD)である。

 自由選挙による文民政権は、1962年の軍事クーデター後は初めて。アウンサンスーチー氏率いるNLDへの支持は、軍政脱却を願う民意の表れだ。

 とはいえ、まだ体制の変革とは言いがたい。軍政がつくった憲法の枠組みが今もある。民主化の力量が問われるのはまさにこれからである。

 国防、内務、国境相は軍が指名し、非常時は最高司令官が全権を握ると憲法にある。国会の4分の1は軍人枠で、その同意なしに憲法改正は難しい。

 新政権では、スーチー氏側近のティンチョー氏が大統領に就く。スーチー氏は外相など4閣僚を兼務し、実質的に政権を率いるという。外国籍の家族がいれば大統領になれない憲法上の制約を受けた苦肉の策だ。

 この国が民主化への軌道にのれるかどうかは、新政権と軍が穏当な関係を築けるかどうかにかかっている。経験のない新政権が軍と対等に向き合うには、スーチー氏のカリスマ的な指導力に頼るのは当然だろう。

 だとしても、「大統領も憲法も超える存在になる」というスーチー氏の発言は、新たな独裁者になるかのような印象を与える。法治の原則を見失えば、健全な国家建設の道は遠のくことを忘れずにいてもらいたい。

 軍は経済にも根を張っている。前政権下で諸改革が進んだが、軍と関係の強い企業群の利権は依然大きい。その構造に新政権が切り込めるか、そこにも高いハードルがある。

 国内では今なお少数民族の武装勢力が軍とにらみ合う。新政権は、その問題の解決も期待されているが、ここでは軍の協力を求める必要もあろう。

 前途多難だが、やはり新政権が目指すべきは憲法改正だ。軍政への逆戻りを阻むために不可欠な手続きである。そのためには、国際社会との共栄をめざす価値観が国の将来に必要だという大局観を、軍関係者にも説き続けるほかないだろう。

 残念ながら今の世界では、民主化の流れが滞っている地域が多い。タイが民政と軍政の間で揺れ動き、中国という巨大な権威主義体制が存在する。そんな中でミャンマーの民主化が前進することの意義は大きい。

 1人あたり国内総生産は約1200米ドルで、「東アジアの奇跡」から取り残されてきたが、潜在成長力が大きい。法制度やインフラの整備、人材育成に、日本も支援を強めたい。