荒木田岳さんゆんたく学習会@那覇(2015.11.22)
2015.12.03 21:55|被曝・賠償・医療問題|
「つなごう命~沖縄と被災地をむすぶ会~」主催で、 福島大学
准教授の荒木田岳さんに講師をお願いした「ゆんたく学習会」を
沖縄県那覇市で開催しました。
「ゆんたく」というのは沖縄の言葉でおしゃべりをすること。
公民館に集まりのんびりした雰囲気で、原発事故後の福島県での
被ばく問題について貴重なお話を伺うことができました。
荒木田さんがつけた講演のタイトルは
『福島原発事故と「脱ひばく」の課題』で、
レジュメ2ページと、福島の地元紙の記事や広告などがたくさん
掲載されたA3資料4枚を、この会のために準備してくださいました。
以下、ブログ主のメモです。
■はじめに
《自己紹介に代えて》
・石川県金沢市出身。新潟大学に進学するが、在学中に
新潟県巻町への原発建設反対運動に成り行きでどっぷり
2年間関わることに
今でも住民運動の経過をまとめたファイルをもっている
参考:住民投票で巻原発を阻止した住民運動
http://daemon.co.jp/~nagai/kenminkaigialles/fujimaki.htm
・父親は北陸電力の社員で反原発だった
・「脱ひばく」は行動しないと意味がない
まず自分が被ばくしないよう汚染地から逃げることが大事
自分は要するに「火事場から逃げ遅れた人」である
・逃げられなかった一番の理由はローンの返済があったから
(家族で住む家を建てる予定の土地と自身の奨学金)
・妻子は事故直後からすぐ新潟に避難させ自身も住民票は
新潟に移転
・今年はこうやって人前で話すのがまだ「3回目」
原発事故による避難や被ばく問題の風化を実感している
《前提として》
原発事故の問題は「エネルギー問題」でも「復興問題」
でもなく、「被ばくの問題」だということ
ごく簡単な科学や医学の知識で、すでに取り返しの
つかない事故が発生してしまったということ
問いたいこと:
被ばくにメリットはあるのか?
メリットがないなら、なぜその強要を正当化しているのか?
なぜ「被ばくしたくない」という者に “科学的な根拠を示せ”
というのか?
■『美味しんぼ』騒動について
・取材を受けたのはマンガが発表される2年前だった
・自分の伝えたことと微妙にずれて掲載されており戸惑った
が、作者である雁屋哲氏への官民あげてのバッシングが
熾烈だったためその時は沈黙した
(コミックス版には自分が申し出て訂正された内容が掲載)
・「美味しんぼ」福島の真実編のバッシングに連動して自分
には「公職追放」が起こり、今まで就いていた役職など
を失った
・これらを語る荒木田さんの顔にはたとえようもない苦労の
跡が見受けられ、辛い気持ちになった。福島で教員をしな
がら「脱ひばく」を訴えることは、針のむしろに居続ける
に等しいことのように思えた
■現在進行形の被曝〜現状〜体験的被爆生活
・放射能は「厄介で手に負えないもの」
無用な被曝は避けるに越したことはないものである
・政府が定めた事故前の安全基準を政府の実測データに
あてはめると、東日本の広い地域において「人が住め
ない」ということになるはず
・しかし「汚染地」には多くの人々が被ばくに無自覚な
まま暮らす
・福島県およびその近隣都県民のほぼ全員が
「自分がどれだけ被曝したか」を知らず
「それがどのような影響(結果)をもたらすか」
についても知らず、
裏付け調査すらなされていない状況が続く
・ゆえに、今行われている「ここまで安全」という
議論には、実は意味がない
・政府は内部被曝を意図的に無視することにより、
ガンマ線のみの空間線量を測り、除染で下がった
数値をもとに「住めること」にするやり方で、
汚染の高い地域を安全なことにしている
・放射能汚染というのは外部被曝(外部にある放射性
物質から出る放射線をあびること)よりも、空気中
にある放射性物質を含んだチリを呼吸や皮膚から
取り込むことに、より大きなリスクがある
・「切り干し大根の放射性物質による二次汚染とその原因」
(加工時の放射性物質の動態)という福島農業
総合センターの調査結果もあり、福島県は事実を把握
している
・行政が環境放射能のモニタリングを地上8mでやって
いるので
「子どもが生活する地上50㎝“でも”やってほしい」
と頼んだがなかなか対応してもらえず、やっとやり出した
と思ったら数値は非公開...
住民にリスクの実態を知らせようとしない
・東電の安全マニュアルによると「全面マスク」が必要な
汚染のある場所に100万人以上住んでいる、人類史上
初の事態
・現地にとどまって右から左まで「オール福島」で復興
という全体主義になっている
・「オール福島で脱原発」なのに被ばく問題はスルー
・福島県民の生命や健康を心配して活動すると
「余計なことするな!お前が風評被害をつくっている!」
とバッシングされる状況が続いている
・福島県職員の採用試験(H24年度)に「思想調査」
の論文課題
「福島県外への人口流出が見られるが、この問題に対し今後
どのように取り組むべきか、あなたの考えを述べなさい」
⇒流出を防ぐことが県職員の職務と想定した出題?
・福島市では、事故による放射性物質が含まれない県外の
食材を積極的に使ったお店は嫌がらせを受けてほとんど
潰れた。自分の知る範囲では、残ったのは広島出身の人が
経営するお好み焼き店のみ
・電通が仕掛けた東北復興アピールのための「東北六魂祭」
東北6県の代表的な祭のパレードや福島県内の伝統芸能
などを紹介するイベントだが、震災も風化するなか費用
をかけて復興アピールを続ける必要もなくなってきたよう
で今年は開催が危ぶまれたが、山形の強い希望で開催が
決まった
http://www.rokkon.jp/about/index.html
■何がこの現状をもたらしたか 〜避けられた「被曝」
《政府・福島県の対応からわかること》
・原発事故は正確に進捗する性質があるため、対策も細かく
決まっていた。官僚は法律に触らずに「ガイドライン」
「指針」などで決まりを作っていることが多く、原発事故
にもそれがあった
・2007年出版 松野 元 (著)
「原子力防災―原子力リスクすべてと正しく向き合うために」
に詳しい
・「原子力災害法」により、“予防原則”で対応することが
決められていたにもかかわらず、実際に事故が起きたら
そのような対応は取られず
・福島県のモニタリングチームは爆発前にテルル132という
核種を検出(メルトダウンしなければ出ない)
⇒福島県はメルトダウンが起こっていることを知っていた
しかし、住民避難の指示は出さなかった
・2011年4月半ば〜 個人に線量計が届き始めた。個人が
測定を開始して流れが変わってきた。行政の発表とは全然
ちがう数値が出たため、複数のメーカーの放射能測定器の
数値を比較しながら、福島市の線量計「はかるくん」は数値
が低めに出ることがわかった
・原子力安全保安院(現在の原子力規制委員会)によるメルト
ダウン否定が意味するもの
⇒福島では政府の救助を待っていたが、政府は
「福島問題から社会を守るために必死」だった...
⇒「なるべく被害を小さく見積もるために」
大多数の住民を現地に留め置く選択をした
⇒福島県はいち早く放射線リスクアドバイザーを招聘し、
県内で講演させた。各種データを隠蔽し、ときにねつ造
さえした
・2011年3月14日
住民のスクリーニングレベル引き上げ
13000cpm ⇒ 100000cpm
(使用していた測定器の最高値まで引き上げた)
・同時期に、福島県立医大の職員にだけ「ヨウ素剤」配布
この件は福島では直後から明らかになっていたが、
現地で黙殺された
(共産党議員に追及を頼んだがやってもらえず)
《子どもたちへの対応》
・福島県教育委員会は2011年3月末、線量計測もせず
4月6日〜8日からの授業再開を決定
・同年4月10日には文部科学省が
「年間20ミリシーベルト」基準を子どもに適用
・子どもを避難させると親までついていく=親を留め置く
には「子どもを留め置く必要がある」との判断から
このような基準が作られた
・保護者が心配し声を上げてから学校は放射能測定を開始
《除染について》
・放射能を心配する親たちが自主的に除染を始めるように
なった
・2011年5月〜6月ごろまでは大学のトラックを使って
除染していると
「無用に市民の不安を煽るから除染はやめろ」
と大学にクレームが来た。当時クレーム対応していた上司
はその後白血病になり入院したまま
・2011年夏ごろから「除染すれば住める」として除染を
推奨するように変化し、秋から「官製除染」が始まった
《給食の問題》
・牛乳問題⇒
「給食で使用して安全をアピール」というやり方が
農協会長や市議会議員などによって推進されるようになる
・産品の一部、しかもセシウムの数値のみ測定した数値が
事故後に跳ね上がった基準値より相対的に低いことに
よって「安全」とする手法がとられる。事故前の福島県の
生乳は検出されても「0.01ベクレル」程度の汚染だった
ことを考えると、20ベクレルでも2000倍
■福島をめぐる議論の非対称性 〜「復興」を問う
・多様な考え方を抑圧する「復興」論
議論も、お金も、その他の支援策も、福島への「帰還」、
福島は安全、食べて応援…という方へと向かう。
cf.研究費も…
(福島大学は空前の研究費バブルが起きている)
・「死の町」「美味しんぼ」…と
「冷温停止状態」「完全にコントロール」
の対比で考える各種の印象操作
⇒一方には官民あげての猛烈なバッシング、
後者の「嘘」はおとがめなし
・体験的「自主避難」
避難者への非難、「隠れ避難者」問題
⇒福島市は、県外へ避難した児童へ広域保育の依頼を出して
くれなかったが、その対応のせいで住民票を移す人が増え
た結果、出すようになった
・帰還問題を考える
人の動き:2011年と2013年の比較で/土地の線引き
⇒新たな「自主避難者」が発生
・匿名の調査をすると福島市では「今からでも避難したい」
という人が1/3いる
■脱被曝を実現するために
・「脱被曝」とはどういうことか?
(おおよそ「はじめに」で確認済み)
・なぜ「みんなの」脱被曝なのか?
食べて応援、産地偽装、ガレキの広域処理
… すべて現地に人々がとどめ置かれていることに
端を発している
・「風評被害」??
政府のセシウム安全基準値100Bq/kgは、刈羽原発では
ドラム缶に入れて管理する「放射性廃棄物」
(朝日、2012/04/20)
・対岸の火事ではない
沖縄における問題…
「食べて応援」「産地偽装」「外食産業」問題etc.
原発事故前から、福島産米の主要な販売先であったこと
・沖縄の方がもともと持っている弱い立場の人を思いやる
優しい気持ち「ちばりよ 東日本!」という気持ちが災い
※2015年現在も沖縄食糧の独自安全基準値は
30ベクレル
http://www.okishoku.co.jp/kensa_taisei.html
・「食べて応援」は内部被曝と引き換えに東電の賠償を
減らす応援の形
・キャンペーンが必要なのは汚染地帯で生産されたものを
消費者が避けて競争力が下がっているから
・「産地偽装」に対する罰金は1回につき30万円であり、
儲けが大きい業者にはたいした額ではない
・「生産物のセシウム汚染さえなければいいのか」という問い
買う人がいて売り上げがあれば賠償請求もできない
農民の被ばく労働についての想像力をもってほしい
■おわりに
・福島原発事故は、東日本に未曾有の「環境汚染」を
もたらしたもの
何よりもまず、人々が被曝し続けている現状を変えて
いかなければならない cf.オール福島で復興
・甲状腺癌の状況~問題提起に代えて
放射線由来とそうでないとを問わず(静かに広がる動揺)
・福島大学の同僚は50代で急死
静かに人が死んでいっている
・ 一緒に「脱被ばく」を!
沖縄の方へ:
福島(放射能汚染の高い地域)に避難者を返さない
帰りたくない人のサポートをお願いしたい(了)
追記:
☆ ゆんたく会での沖縄の方のお話 ☆
「私たちが福島を助けなかったら誰が助けるの?」
という気持ちで福島産を応援していたころ
「NO!福島米」という運動をやっている人たちを
たまたま県庁で見かけて不思議に思ってたー。
今日のお話を聞いてわかった。
福島と沖縄、まったく同じよ。
「わったーうちなーよ!」
「わったーうちなーよ!」
...と私たち、いつもいつも自分たちの置かれた状況を
嘆いてきた。今は、北部(辺野古)を思うと苦しい。
原発事故の問題も、国が人々の日々の暮らしを壊し、
一部の地域に負担を押しつけ、それ以外の地域の
人が無関心になるようにしているのが沖縄と同じ。
これからは、会った人に必ず話すようにするよー。
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