福島第一原発の「凍土壁」 昼ごろから凍結開始

福島第一原発の「凍土壁」 昼ごろから凍結開始
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東京電力福島第一原子力発電所で増え続ける汚染水対策の柱とされる「凍土壁」について、31日昼ごろから本格的な凍結が始まります。東京電力は汚染が拡大するリスクがあるとする指摘を踏まえ、慎重に凍結作業を進めるとしています。
「凍土壁」は汚染水が増える原因となっている福島第一原発の建屋への地下水の流入を抑えるため、周囲の地盤を凍らせて地下水をせき止めるもので、30日、原子力規制委員会が運用を認可しました。
これを受けて、東京電力は31日昼ごろから凍結を始めることにしていて、地下水の水位が下がりすぎると建屋内の汚染水が漏れ出すおそれがあるとする規制委員会の指摘を踏まえて、凍結作業は建屋の下流側から行われ、その後、地下水の水位を見ながら上流側を段階的に凍らせる計画です。
東京電力は凍結開始から1か月半程度で効果が出はじめ、すべて完成すればほかの対策の効果とも合わせて、建屋への地下水の流入量は当初の1日400トンから50トン程度に抑えられるとしています。
凍土壁は2年がかりで建設が進められ、もともとは今月中としていた完成の時期は大幅に遅れていますが、東京電力は地下水の水位が下がりすぎた場合は、地下に水を注入して水位を上げたり凍結を止めたりするなど、慎重に作業を進めたいとしています。

「凍土壁」の計画は

「凍土壁」は福島第一原発で大きな課題となっている、汚染水の問題への抜本的な対策と位置づけられています。
福島第一原発では大量の地下水が原子炉建屋などに流れ込み、地下にたまった汚染水を増やし続けています。この地下水を建屋に流れ込む前にせき止めるのが凍土壁のねらいです。
1号機から4号機までの建屋全体を囲むように「凍結管」と呼ばれる鋼鉄のパイプ1700本余りを深さ30メートルまで1メートル間隔で打ち込み、マイナス30度の冷却液を流して土壌を凍らせます。
おととし6月から建設が進められ、東京電力は凍土壁が完成すれば、総延長1.5キロもの巨大な氷の壁が出来上がり、ほかの対策の効果も合わせると建屋に流れ込む地下水の量は、当初の1日400トンから50トンまで抑えられるとしています。
しかし、もともとは今年度中に完成する計画でしたが、建屋の周囲の地下にあるトンネルにたまった汚染水を抜き取る作業が難航して作業できない状態が続いたほか、その後も別の現場で起きた作業員の死亡事故の影響などでたびたび工事が中断し、計画は大幅に遅れています。

認可に時間がかかった背景は

凍土壁は、先月には設備の工事が終わっていましたが、原子力規制委員会が認可したのは1か月後の30日でした。時間がかかった背景には、東京電力と原子力規制委員会の意思疎通の不足があります。
2年前に凍土壁の建設が始まった当時、福島第一原発では汚染水漏れの問題が相次ぎ、対策が急がれていました。このため規制委員会は、先に建設を認可したうえで、後からリスク対策を議論することにしたのです。
全長1.5キロに及ぶ巨大な氷の壁を地中に設けるという過去に例がない取り組みに、345億円もの国費がつぎ込まれました。
ところが、工事が進むとともに地下水を制御する難しさが徐々に明らかになりました。
原子炉建屋などにたまっている汚染水の水位は、周囲の地下水より低く保たれています。もし、凍土壁によって地下水の水位が下がりすぎると、汚染水が外に漏れ出すおそれがあります。
少しでも早く汚染水の増加を抑えたいとする東京電力に対し、規制委員会は汚染水が漏れ出すリスクへの対策の重要性を指摘し、何を優先すべきかを巡って議論がかみ合わない状況が続きました。
結局、東京電力が規制委員会の指摘に沿う形で計画を見直しましたが、両者がもっと早く課題を洗い出していれば、運用開始を前倒しできた可能性があります。
福島第一原発の廃炉や汚染水対策を巡っては、80万トン近くたまっている大量の汚染水を最終的にどう処理するかや、事故で溶け落ちた核燃料をどう取り出すかなど、課題は山積しています。
凍土壁はようやく運用開始を迎えますが、今回の一連の経緯は、東京電力をはじめ関係機関の連携の在り方を問い直す形となりました。