大学入試をがらりと変え、知識偏重の高校教育の改善をも促すという。文部科学省の有識者会議が出した最終報告は、しかし、新テストの理念と課題の羅列に見える。実現へもっと熟議をせねば。
有識者会議は、高校と大学の教育を見直し、橋渡しをするための方策を議論してきた。最大の焦点だったのは、大学入試センター試験に代わる「大学入学希望者学力評価テスト」の導入である。
この新しい共通テストでは、知識の暗記量や解法テクニックというよりも、論理的に考え、筋道を立てて表現する力を試すことに狙いを定める。そのためにマークシート式の改良に加え、記述式の問題を採り入れる。
グローバル化、少子高齢化や地方創生…。既成の知識や解法パターンでは、先行きを読み解くことが難しい時代だ。正解を素早く発見する力ではなく、自ら問いを立て、一つとは限らない答えを探る力こそが重要になっている。
新テストをてこに、知識の詰め込みに陥りがちな高校教育を、考えさせる教育へと脱皮させる意図もある。入試の影響力を利用する発想も、理解できなくはない。
懸念されるのは、課題山積の記述式の採用である。有識者会議は、実施体制を含めて具体の制度設計を先送りしてしまった。実現までの道筋を描ききれなかった。
五十万人を超える受験生が見込まれる。膨大な答案の採点者をどう集めるのか。採点の公平性をどう担保するのか。民間委託や人工知能(AI)の活用も挙げられたが、信頼性を確約できるのか。
採点時間を確保するためにマークシート式と切り離し、記述式のみを前倒しで実施する案も出された。これには、高校生活が侵食されるとして反対の声も根強い。
入試は人生の大きな節目だ。だからこそ政府の教育再生実行会議は、挑戦できる機会の複数化を提言していた。やり直しが利く社会への転換をというメッセージでもあった。それを置き去りにしては、改革の意義も薄れよう。
こうした根幹に関わる課題は、宙に浮いたままだ。なのに文科省は二〇二〇年度開始という工程表に従い、一七年度初めまでに新テストの実施方針を詰めるという。拙速を避け、開かれた場での議論があらためて必要だ。
国籍や文化、年齢、性などを問わず、多様な背景を持つ人々が力を合わせねばならない時代である。大事な才を見逃さないよう大学は個別試験を工夫してほしい。
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