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16/03/30【日本代表コラム】代表の仲間と共有するべき香川真司のスタンダード

 

反転してボレーで日本代表の2点目を決めた香川真司(写真:Getty Images)

明暗を分けた香川のゴール

 絵に描いた様な美しいゴールだった。相手のCKをキャッチした西川周作からの素早いスローを受けた原口元気が左を走る宇佐美貴史にパスを通すと、カットインで相手の守備を引き付けながら、斜め後ろから走る香川真司にパス。香川はアルフセインの危険なタックルをかわしながら長谷部誠にボールを預け、そのまま前方に走る。

 長谷部がファーストタッチしようとしたところで手前からスライディングタックルに来たサバグの足と交錯し、上がって落ちてバウンドしたボールを本田が左足で背面に蹴ると、ゴール前で待っていた香川が胸トラップから反転して左足を振り抜き、鮮やかにゴールネットを揺らした。

 「うまく冷静に打てたのかなと思います」と決めた香川が振り返るゴールはこの日のチームにとって2点目。「1点目取った後なかなか取れなかったですけど、それは流れもあるので。しっかりとしのいだ中で2点目が決まった」。そう香川が語る様に、前半の早い時間に1点をリードしたものの、多くのチャンスが決まらない状況でロングボールから危ない場面も出始めていた時間帯だった。

 結果的に5−0の大勝を飾るわけだが、この試合の明暗を分けるゴールだったと言っても過言ではない。そして日本の10番として大きな期待を背負うMFがこうした大事な時間帯にゴールを決めたことはチームに良い流れをもたらすものだ。

5得点のうち4得点に絡む活躍の香川真司(写真:Getty Images)

香川真司「みんなの流動性と前に行く姿勢が出ていた」

 2−0としてからもシリアはプライドをかけて強引にゴールを奪いに来たが、守備陣が粘り強くしのぐと、後半41分には再びカウンターから途中出場の清武弘嗣のパスを受けた香川がペナルティエリア内に侵入し、絶妙なクロスで本田による3点目をアシスト。さらに相手DFのクリアボールを拾ったところからシュートを放ち、GKが弾いたこぼれ球を流し込んだ。

 オウンゴールを誘ったショートコーナーのクロスを入れれば5点のうち4点に絡んで大勝利に貢献した香川。「今日は得点も取れましたけど、それ以外でもいい形が沢山作れたので、そこを評価したいですし、やっていてもすごくみんなの流動性と前に行く姿勢っていうのはすごく出ていた」と満足げに語る香川だが、高い向上心を持つ彼がそう手応えを口にするのには理由がある。

 「みんなが練習の中からスプリントであったり、球際であったり、行く姿勢だったり、その中のスピードであったりを意識して、監督もホントにしつこく言っていました。日本に足りないところ、フィジカル球際含めてそういうところが足りないところでもあるので、寄せの部分も含めて、この合宿は特にいい練習ができていた」

 普段からブンデスリーガの上位を争うドルトムントでプレーしている香川にしてみれば、それらはごく当たり前のスタンダードかもしれない。とはいえ代表の二次予選でチームが意識を共有してトライし、ミスはあったものの結果に結び付けたことは最終的に世界で勝つことを目標とする日本代表にとって大きな意味を持つ。そのことを人一倍、理解しているからだろう。

求められるのは高レベルで結果を出すこと

 日本代表でなかなか活躍できないことにしばしば批判の声もあがるが、全ての試合でパフォーマンスが悪かったわけでも、ゴールやアシストが無かったわけでもない。それでも安定して高いパフォーマンスを出せない理由の1つにメンタル的な問題があがるが、香川の能力を間近で知る長友佑都や清武などは自分たちが香川のスタンダードに追い付けていないことを主張していた。

 しかし、シリア戦の日本はチーム全体が高い意識を持って速いパスや縦の連動にチャレンジし、崩しのイメージを共有した。そうした意識がこれまでも全く見られなかったわけではないが、練習から明確に取り組み、試合で発揮したことは今後につながっていくはず。しかし、代表の活動期間は短い。それぞれが“宿題”をクラブに持ち帰るが、香川の場合はドルトムントで結果を残していくことがクオリティの向上に直結する。

 「ドルトムントでこういう結果を求めてやり続けないといけないですし、立場的に今は厳しい状況ではあると思っているので、その危機感をまた持って、試合に出た時にしっかりと結果としてまた証明していけるように。レベルは高いですけど、それをポジティブに思ってやり続けていたら結果がついてくると思っているので、代表のようにまたしっかりと準備してドルトムントでやっていきたい」

《文:河治 良幸》

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